よなぷーの無駄喋り

2020年05月

プロレスで、相手をコーナーのターンバックルにパワーボムで叩きつける技、これをバックルボムというらしい。

初めて使ったレスラーは全日本プロレス時代の小橋健太。

食らったのは三沢光晴。

以降、団体を越えて様々なレスラーが、このバックルボムを使ってきた。

アメリカの世界最大のプロレス団体、WWEでも、普通に痛め技として普及していた。

だがこの技が、WWEにおいて使用禁止技に指定された。

発端はセス・ロリンズがスティングに見舞ったバックルボム。

これで首を怪我したスティングは、何とそれが原因で引退にまで追い込められたという。

で、バックルボムは使っちゃいけない危険技となった。

日本のレスラーはまだ使うかもしれないが、この決定は重く受け止められねばならない。

先日、日本国国王にして真格闘神の志賀様に、敢えなく敗北した飯伏幸太。

その一戦を記者に赤裸々に語った。

飯伏「とにかく硬かった。そして重たかった。志賀様はあたかも超合金の塊のようでした」

記者「ほほう」

飯伏「最初に頭突きで特攻した際は、頭蓋骨が割れたかと思うような衝撃が走りました。自分自身、志賀様のハイブリッドボディを舐めていたというか。この野良犬のような低俗な飯伏幸太が、神である崇高な志賀様に通用すると、本気で思っていたんです、その時は

記者「それは罪悪とすらいっていいですね」

飯伏「ええ。でも調子に乗った僕は、志賀様にシットダウン式ラストライドをかけてしまいました。今思えば、僕は志賀様への不敬罪で、裁判所から死刑を命じられてもやむなしだったと思います

記者「志賀様に訴えられなくて良かったですね」

飯伏「ホントにそうです。でもまだ僕のイキりは止まりませんでした。その直後、あろうことか、僕は五味隆典様直伝の脱糞飛行で、志賀様をジャーマンスープレックスで投げ捨てたのです」

記者「真格闘神を投げ捨てる。まさに暴挙です。撮影スタッフたちはそれを見て激怒するもの多数だったとか」

飯伏「しかも志賀様に勝てると半ば夢見ていた僕は、かのお方をフォールするという愚行に出てしまいました。今振り返るに、本当に羞恥心を掻き立てられる、最低の行為だったと思います。反省しています」

記者「そして志賀様の反撃を受けてからは、ギブアップまであっという間でした」

飯伏「ギブが受け入れられた時は、これでもう痛い思いをしなくて済むと安堵して、盛大に失禁してしまいました。僕を殺さず『志賀絞め』から解放してくださった志賀様には、感謝してもしきれません。僕のようなイキるだけのゴミクズに、後半生を与えてくださって、改めて志賀様の雄大さ・頼もしさにうっとりしましたよ

記者「新日本プロレス最後の砦として、出来るだけのことはやった、と」

飯伏「はい。全宇宙最強の生命体とプロレス出来たのは、僕の財産です。期待してくださった方々には申し訳ありませんが、これが精一杯です。これからは新日でウジウジやっていきたいと思います。ありがとうございました」

記者「頑張ってください」

どこかでウグイスが鳴いている。

とうとうこの日が来た。

究極無敵絶対最強の真格闘神・志賀賢太郎日本国国王と、よくキレる人・飯伏幸太の一大決戦がいよいよ始まるのだ。

会場は無観客の両国国技館。

撮影スタッフがごく少数見守る中、セミファイナルのマツコデラックス対マイクタイソンがマツコのパワーボムで決着すると、場内は暗転。

まずは弱い方の飯伏から入場だ。

『ドラゴンクエストマーチ』にのって花道に現れた彼は、全裸にガムテープ一丁で、でんぐり返ししながらリングに向かった。

撮影スタッフから「プロレス界の恥」「キレ芸飽きた」「脱糞野郎」との暖かい声援が飛ぶ。

飯伏はそれらを無視しながら、マイペースでサードロープの下を這いつくばって潜り抜けた。

続いて強い方の志賀様の入場だ。

魂震える名曲『TRADITION』にのって、花道に最強過ぎるお姿が現出する。

白いガウンに身を包み、王者の風格と威厳をまとうその勇姿は正に現人神(あらひとがみ)。

と、その時だった。

何と飯伏が脱糞しながら、その糞圧を推進力として空中を飛び、入場途中の志賀様にトペ・スイシーダを放ったのだ。

いきなりの襲撃に対処し切れず、志賀様は飯伏のヘッドバットで胸部を攻撃される。

あろうことか、真格闘神は後方へ吹っ飛び、入場ゲートの電飾に背中から叩きつけられた。

飯伏の奇襲である。

この前代未聞の蛮行に、撮影スタッフたちは飯伏へ怒号と罵声を浴びせかけた。

しかし飯伏は見物人に何らの興味も示さず、ダウンした志賀様の頭部を無礼にも蹴りつける。

飯伏はキレていた。

その目は座り、志賀様を見下ろして視殺せんばかりだ。

ここで試合開始のゴングが打ち鳴らされる。

飯伏は志賀様のガウンを無理矢理脱がすと、花道でシットダウン式ラストライドを敢行した。

志賀様はそれをモロに食らい、後頭部からしたたかにステージへ叩きつけられる。

撮影スタッフたちはざわめいた。

なぜ志賀様は反撃なさらないのだろう?

まさか、さっきの奇襲で戦意を喪失したのでは……!

飯伏は弱々しい姿の志賀様を背後から抱えると、脱糞で再度宙を舞い、リングへと飛翔した。

そしてそのまま、ジャーマンスープレックスの体勢で志賀様の後頭部をマットに叩きつけた。

スワンダイブ式ならぬ、脱糞飛行式ジャーマンだ。

これは効いたかもしれない。

撮影スタッフたちがどよめく中、飯伏が志賀様をカバーした。

カウントが数えられる。

ワン!

ツー!

ス……

ここで志賀様が飯伏をはね除けた。

ああ、良かった。

志賀様は飯伏の速攻にも、全くダメージを受けていなかったのだ。

志賀様が驚く飯伏の顔面に、仕返しの蹴りを見舞う。

鉄がぶつかるような強烈な衝撃音が走り、哀れ飯伏は鼻骨骨折した。

その鼻から大量の血が流れ落ちる。

志賀様は攻守を逆転すると、早速トドメを刺しにかかった。

うつ伏せて激痛に泣きわめく飯伏の背中に、足をロックしながら覆い被さる。

まずはSTF。

そして片羽絞め。

更に相手の体ごと引っくり返る。

撮影スタッフたちが、生でその技――「パーフェクトホールド」こと『志賀絞め』――を目の当たりにして、あまりの感動でむせび泣いた。

レフェリーのぺこぱ・シュウペイが飯伏に「ギブ? ギブ?」と問いかける。

飯伏は頼みの綱である糞を切らしたらしく、無念の高速タップでギブアップの意思表示をした。

シュウペイがゴングを要請する。

高らかな鐘の音とともに、志賀様のギブアップ勝ちが宣せられた。

志賀様は用がなくなった飯伏を放り捨てる。

飯伏は苦痛の余韻とそこから解放された安堵とで、泣きながら失禁した。

シュウペイはホウキでもって彼をリング外へ転げ落とすと、すかさず志賀様にマイクを手渡す。

志賀様はまずは撮影スタッフの拍手に片手を挙げて応えた。

そして喋り出す。

「ちょっと自分の耐久度を試したくて、飯伏君の技を受けてしまいました。心配させて済みませんでした!」

全世界配信のカメラに視線を向ける。

「これで新日本プロレスは制覇しました! でも、まだ闘っていない相手がいます! その名は……

一呼吸入れて、

「ケニー・オメガ! 僕がアメリカの団体AEWに乗り込んで、きっと対戦を実現させてみせます! 今日は皆さん、本当にありがとうございました!

やはり志賀様は最強過ぎる!

どこかでウグイスが鳴いている。

試合への期待は高まるばかりだ。

この日、ホテル『ドラディション歌舞伎町』の鶴の間において、グレーのスーツに固めた志賀様と、全裸で乳首に洗濯ばさみの飯伏幸太とが向かい合った。

報道陣の加熱する撮影に、二人が機嫌良く応じた後の一コマだった。

飯伏は平然と志賀様相手にメンチを切っていたが、凄まじいプレッシャーを感じていたのだろう、もりもりと脱糞が止まらない。

その後、二人は同時に背を向けると、金屏風前の長机の両端で着席した。

記者「飯伏選手、今日もこんもりとひり出しましたね」

飯伏「五味隆典さんの東林間ラスカルジムで修行したせいか、ケツ穴がゆるくなってるんです。決して志賀様に気圧された訳ではないことはよくご承知ください」

記者「目前に迫った決戦について一言」

飯伏「五味さんから奥義を伝授され、今では脱糞飛翔による制空権の確保が可能となりました。いくら志賀様でも、その攻撃は地上――リングの上にとどまります。断言します、試合は僕の一方的な完勝となるでしょう」

飯伏選手のあまりの余裕ぶりに、マスコミ一同からどよめきが起こる。

今回ばかりは、志賀様も負けてしまうのではないか……

そんな不安が脳裏をよぎった記者も少なくないだろう。

次は強い方の志賀様の意気込みだ。

無数のカメラが気を取り直したようにフラッシュを浴びせる。

志賀様「飯伏選手の秘密特訓は、ブン屋さんの記事で僕も承知しています。彼が手強い相手になることは覚悟しています」

記者「イギリスのブックメーカーのオッズは1:500兆で志賀様有利です。これについては?」

志賀様「予想は予想に過ぎませんから。僕としては、そうした情報を頭に入れずに、一人の戦士としてマットに上がりたいと思っています」

記者「お二人にお聞きします。ズバリ、鍵となる技は?」

飯伏「やっぱり僕がキレるかどうかですね。キレた時の僕は怖いですから。志賀様に不敬な平手打ちを食らわすかもしれません。案外そんな単純な技が、勝敗を分けるものですよ」

志賀様「そうですね、やはり得意技の『スパイラル・シガ・シューター』は、彼の脱糞を考えると到底掛けられないですから。『志賀絞め』もそうです。ダップニアンな飯伏選手に対しては、臨機応変に対処する、これしかありませんね」

試合が待ち遠しい!

真格闘神であり日本国国王でもある、白GHC王者・志賀賢太郎様。

先日、その志賀様から直々に対戦要求を受けたのが、新日本プロレス所属の飯伏幸太である。

その飯伏はしばらく消息を絶っていたが、この度神奈川の東林間ラスカルジムにおいてトレーニングしていたことが発覚。

300社を超える報道陣は早速取材に向かった。

この東林間ラスカルジムは、『脱糞王』五味隆典のスポーツジムとして知られている。

脱糞の際の糞圧を推進力として、補助なしで単独空中飛行を行うことができるのが、五味の必殺技だ。

しかし志賀様との決戦に敗れて後は、その技も封印したとされていた。

だが、ジム内に入った我々マスコミを待ち構えていた光景は――

五味「駄目だ飯伏! そんなことじゃダップニアンの名折れだぞ!」

飯伏「はい! すみません!」

モリモリと糞を漏らしながら、その糞圧で空中を舞う二人の格闘家。

五味隆典と飯伏幸太である。

そう、五味は飯伏に自身の必殺技を伝授するため、マンツーマンのレッスンに励んでいたのだ。

ブババババ……とケツ穴からヘリコプターのような爆音を響かせながら、全裸でジム内を飛び回る二人。

五味がポジション取りのテクニックを教え、飯伏はそれを熱心にうなずきながら聞く。

やがて濃密な練習は一時中断され、糞の山となったジムで二人は休憩に入った。

記者陣が一斉にフラッシュを焚く。

もちろんカメラの焦点を合わせるのは、時の人である飯伏に対してだ。

記者「ここにおられたんですね、飯伏選手」

飯伏「全くブン屋さんは嗅覚が鋭い。隠れて秘策を練っていたのに、撮られちゃいましたね」

五味「ジムのお客さんがリークしたのかな……。ホント、SNSの前では隠し事は出来ないですね」

記者「飯伏選手。志賀様が棚橋選手を倒した後のリング上で、あなたの名前を出して対戦要求しました。このニュースはご存知ですね?」

飯伏「もちろん! だからこそ五味さんを頼って神奈川まで来たんですからね。真格闘神様に名前を出していただけるなんて、それだけでも光栄ですよ」

記者「では対戦要求を受諾する、ということですね?」

飯伏「はい! 五味選手直々の脱糞トレーニングで、難攻不落の志賀様を倒すイメージは掴めてきました。これからはより一層の脱糞力の獲得に努めたいと思っています」

五味「俺の必殺技をこんな簡単に習得するんだから、やっぱり飯伏選手は傑物ですね。ちなみにジム会員は随時募集中です。俺に会えますよ! 東林間ラスカルジムをよろしく!」

この時点で、マスコミ陣の大半は了解したことだろう。

飯伏は五味のジムを宣伝する目的で、あえて秘密だった潜伏場所を報道陣にリークしたのだ。

そして同時に、それは志賀様との対決に向けて、揺るぎない自信にみなぎっているということでもある。

飯伏「無観客試合となるでしょうが、僕と志賀様の大戦を世界中に観てもらいたいと思っています!」

飯伏幸太。

この男、なかなかあなどれない。

↑このページのトップヘ