もう許さない――!
日本国国王にして真格闘神の志賀賢太郎様が記者会見を行ない、ロシアの恥・エメリヤーエンコ・ヒョードルとの対戦を決定した。
志賀様「今日はお足元の悪い中、ご足労いただき感謝いたします。この度、ヒョードルと再び闘うことが決定しました」
記者「なぜ今、ヒョードルなのでしょうか。あんな最弱な八百長野郎、志賀様にとっては路傍の小石。捨て置かれていてもよいはずでは?」
志賀様「そうはいきません。最近マスコミの方々も報じておられるでしょう。ヒョードルが僕に『秀才マン』なるセンスゼロあだ名をつけようと、世界各国でロビー活動をしていることを」
記者「はい。しかし、しょせんは弱者のイメージ工作であり、特に意識するほどのことでもないかと思っていましたが……」
志賀様「それがそうはいかなくなりました。何とヒョードルは、我が国の出版社に掛け合い、歴史教科書に僕のことを『秀才マン』と書け、と圧力を加えてきたのです」
これにはそのことを知らなかった報道陣から驚きの声が上がった。
ヒョードルのおごり高ぶりは、とうとうこんなレベルにまで到達していたのか、と。
記者「これはやらざるを得ないですね」
志賀様「はい。完全に、完膚なきまでに圧勝して、二度とくだらない真似をさせないように叩き潰しておかないと。そのための、今回の対戦なのです」
記者「しかし、ヒョードルが逃げるのは確実です。一体どうやって……」
ここで志賀様が指を鳴らした。
すると志賀様の背後の壁が回転し、ある人物を登場させる。
その人物こそは――
記者「ヒョードル!」
ヒョードルはヘッドホンにアイマスク、という「水曜日のダウンタウン」におけるクロちゃんの格好で棒立ちしていた。
本人も自分の状況が分かっていないらしく、恐怖に怯えるように震えていた。
志賀様のスタッフが音もなく駆け寄り、ヒョードルのヘッドホンを外す。
大音量の音楽がそこから流れてきたが、すぐに別のスタッフがスイッチを押したのであろう、音は消滅した。
そしてアイマスクが外される。
ヒョードル「えっ? ちょっと待って、何これ!?」
どうやら芸人でもあるヒョードルは、街中でスタッフに拉致され、目隠しと大音量の音楽で現在地を分からなくされたらしい。
そうして、この場所へとこっそり運び込まれたのだ。
本人にしてみれば、いきなり記者会見場、しかも志賀様の目の前にご登場である。
パニックに陥るのも無理はなかった。
ヒョードル「ちょっと! 何なんですかこれ! えっ、何待って? 怖い!」
志賀様「ヒョードルさん、お久しぶりです」
ヒョードル「あっ、秀才マン。……じゃなくて志賀様! これはお久しぶりです! えっ、どういうこと?」
志賀様「今日あなたをおよびだてしたのはこのためです。よくご覧ください!」
背後で一斉に、『志賀様対ヒョードル、再戦決定!』との垂れ幕が落ちた。
ヒョードル「えーっ!」
報道陣、ここぞとばかりにロシアのクズを激写。
フラッシュの弾幕が視覚と聴覚を乱打した。
すっかり震え上がりおののくヒョードルに、志賀様がお声をかける。
志賀様「じゃ、もう決まりだから。日本武道館で会おう」
そしてかのお方は悠々と去っていった。
後には頭を抱えて両膝をつく、負け犬の姿が残されるのだった。
やっぱり志賀様最強!
どこかでウグイスが鳴いている。