とうとうこの日が来た。
白GHC王者にして真格闘神・志賀賢太郎様と、黒GHC王者のナチュラル・ボーン・マスターこと天才・武藤敬司。
2人がノアのリングで、しかも東京ドームのメインイベントで激突するというのだ。
プロレスファンは高まった期待感をぶつける相手を探し回り、見つかれば弁を達者に雌雄を論じる。
志賀様と武藤の会見記事を掲載した週刊プロレスは爆売れし、完売する書店が続出した。
果たして志賀様と武藤、どちらが強いのか――
日本のみならず全世界においても、人々の好奇心を刺激してやまないこの一戦は、日に日に社会の注目を集め、ついにはあのNHKが生放送するところまで行き着いた。
東京ドームに集った7万人の大観衆は、セミファイナルの渕正信対マイク・タイソンが渕のバックドロップで決着すると、手を叩いてメインを迎えた。
まずは弱い方の武藤敬司から入場だ。
名曲『HOLD OUT』が鳴り響くなか、入場ゲートに現れた武藤敬司は、いつものポーズを取ると悠然と歩み出した。
いつもなら志賀様の対戦相手をクソミソにけなすファンたちも、ベテラン中のベテラン、天才中の天才である武藤には一目置いていた。
「まあせいぜい頑張れ!」「死ぬんじゃないぞ!」「頭を丸めたのはやっぱり禿げたから?」「バクシンします!」
武藤はそんなよく分からない声援を聞きながら、膝をかばいつつリングイン。
またまたポーズを決めた。
次は強い方の志賀様の入場だ。
名曲『TRADITION』に乗って、最強の中の最強、究極中の究極たる日本国国王・志賀様が入場ゲートに姿を見せた。
この時点で大観衆は失神寸前の大興奮にうち震えた。
「志賀様ステキー!」「志賀様、不逞な輩を懲らしめてください!」「なんでそんなに最強なんですか?」「志賀様、究極過ぎます!」
志賀様に札束のおひねりが多数投げ込まれ、付け人の丸藤正道が全てを素早くキャッチした。
そして志賀様、リングイン!
レフェリーのレッドシューズ海野がなぜか仕切る中、ボディチェックが行なわれる。
中央でルール確認する際には、珍しく志賀様が武藤と視線を交錯させた。
しかしそれも一瞬のことで、2人はすぐさま両コーナーに別れる。
海野がゴングを要請し、遂に決戦の幕が開けた。
金属の響きが収まらぬ中、武藤がまずはロープにバウンドし、感触を確かめる。
志賀様はそんな武藤を睨み付けながら、時計回りにリングを歩いた。
武藤も距離を取って静かに円を描く。
そして、両者が向き合ったと見るや――
しなやかな動きで、ロックアップの体勢に入った。
志賀様と四つに組み合う武藤は、もうこの時点で汗だくだ。
自分と志賀様の力量の差を、早くも感じ取ったのだろう――天才だけに。
武藤はこのままでは両肩が脱臼してしまうと恐れたのか、志賀様を蹴って突き放した。
そして敏捷に組みつくや、ドラゴンスクリューに切って取る。
志賀様が回転し、マットに倒された。
これには観客から悲鳴が上がった。
それもそうだろう。
志賀様が様子見以外でマットに倒れるなど、三沢さん戦のほかにあり得なかったからだ。
武藤は畳み掛けた。
すかさず志賀様の足を取り、四の字固めに入る。
だが武藤の攻勢もここまでだった。
志賀様がこの攻撃を予期していたか、瞬時に裏返ったのだ。
そう、四の字固めは裏返ると、仕掛けた方が痛くなる技なのだった。
ピンチから一転、優位に立った志賀様に、熱い声援が送られる。
「いいぞ志賀様!」「武藤の人工関節を破壊しちゃってください!」「カッコ良すぎ!」
武藤はそれでも粘り、サードロープに何とか逃れた。
海野の助けで絡み合った足が外される。
志賀様は悠然と立ち上がった。
一方の武藤はもうボロボロで、ロープにすがって何とか身を起こす。
志賀様がとどめを刺そうと、近づいた時だった。
武藤が低空ドロップキックを志賀様の膝に叩き込んだのだ。
どうやら死に体は偽りだったらしい。
志賀様は右膝をついてしゃがみこむ姿勢になった。
これを逃さぬ武藤ではない。
シャイニングウィザード!
武藤の右膝が志賀様の左側頭部に炸裂した。
大観衆から恐怖の叫びが上がる。
だが、それは見間違いだった。
何と志賀様は、武藤の膝をギリギリ両手で弾き返していたのだ。
武藤は完全に膝を破壊され、泣きながら倒れこんだ。
志賀様は武藤を裏返し、STFを仕掛ける。
まさか、これは――!
場内は興奮のるつぼと化した。
志賀様がSTFから片羽絞めに移行し、ぐるりと反転する。
仰向けに武藤を絞め上げた。
これぞ伝説の秘奥技、究極の必殺技、『志賀絞め』だ!
武藤はその手の平で超高速タップし、海野レフェリーはゴングを要請した。
2分15秒、志賀様のギブアップ勝ちである。
東京ドームは揺れに揺れ、拍手喝采が天井を破壊せんばかりだった。
武藤は黒GHCベルトを意地汚く抱き締めながら、担架で運ばれていった。
志賀様と戦って脱糞しなかった一般レスラーは、オカダ、棚橋に続いて3人目である。
場内からは健闘を称える武藤コールが湧き起こった。
だがそれも、志賀様がリングでマイクを手にすると静まり返る。
志賀様「今日は皆さん、ご来場ありがとうございました! ベテランの武藤さんと戦えて、勝つことが出来て、最高の気分です!」
大観衆は陽気に『志賀様』コールする。
志賀様「ありがとうございます! 僕はまだまだ、この白GHCを守り抜いていく所存です! これからも応援よろしくお願いします!」
ファンの中には、『志賀絞め』を生で見ることが出来て、嬉し泣きするもの多数だった。
武藤のことなどもはや忘れ去っている。
悲しいが、格闘技とはそういう世界なのだ。
志賀様「ではいきますよ皆さん! いち、にい、さん、シガーっ!」
このコールに大観衆も声を合わせて思いっきり叫んだ。
東京ドームは何度目かの揺動で嬉しそうにきしむ。
志賀様「では皆さん、また観に来てください! それでは!」
志賀様がいれば、大丈夫。
コロナも武藤も敵ではない。
そんな当たり前の事実が、当たり前に展開されたことを、誰もが喜んだ。
やっぱり志賀様最強!
どこかでウグイスが鳴いている。
白GHC王者にして真格闘神・志賀賢太郎様と、黒GHC王者のナチュラル・ボーン・マスターこと天才・武藤敬司。
2人がノアのリングで、しかも東京ドームのメインイベントで激突するというのだ。
プロレスファンは高まった期待感をぶつける相手を探し回り、見つかれば弁を達者に雌雄を論じる。
志賀様と武藤の会見記事を掲載した週刊プロレスは爆売れし、完売する書店が続出した。
果たして志賀様と武藤、どちらが強いのか――
日本のみならず全世界においても、人々の好奇心を刺激してやまないこの一戦は、日に日に社会の注目を集め、ついにはあのNHKが生放送するところまで行き着いた。
東京ドームに集った7万人の大観衆は、セミファイナルの渕正信対マイク・タイソンが渕のバックドロップで決着すると、手を叩いてメインを迎えた。
まずは弱い方の武藤敬司から入場だ。
名曲『HOLD OUT』が鳴り響くなか、入場ゲートに現れた武藤敬司は、いつものポーズを取ると悠然と歩み出した。
いつもなら志賀様の対戦相手をクソミソにけなすファンたちも、ベテラン中のベテラン、天才中の天才である武藤には一目置いていた。
「まあせいぜい頑張れ!」「死ぬんじゃないぞ!」「頭を丸めたのはやっぱり禿げたから?」「バクシンします!」
武藤はそんなよく分からない声援を聞きながら、膝をかばいつつリングイン。
またまたポーズを決めた。
次は強い方の志賀様の入場だ。
名曲『TRADITION』に乗って、最強の中の最強、究極中の究極たる日本国国王・志賀様が入場ゲートに姿を見せた。
この時点で大観衆は失神寸前の大興奮にうち震えた。
「志賀様ステキー!」「志賀様、不逞な輩を懲らしめてください!」「なんでそんなに最強なんですか?」「志賀様、究極過ぎます!」
志賀様に札束のおひねりが多数投げ込まれ、付け人の丸藤正道が全てを素早くキャッチした。
そして志賀様、リングイン!
レフェリーのレッドシューズ海野がなぜか仕切る中、ボディチェックが行なわれる。
中央でルール確認する際には、珍しく志賀様が武藤と視線を交錯させた。
しかしそれも一瞬のことで、2人はすぐさま両コーナーに別れる。
海野がゴングを要請し、遂に決戦の幕が開けた。
金属の響きが収まらぬ中、武藤がまずはロープにバウンドし、感触を確かめる。
志賀様はそんな武藤を睨み付けながら、時計回りにリングを歩いた。
武藤も距離を取って静かに円を描く。
そして、両者が向き合ったと見るや――
しなやかな動きで、ロックアップの体勢に入った。
志賀様と四つに組み合う武藤は、もうこの時点で汗だくだ。
自分と志賀様の力量の差を、早くも感じ取ったのだろう――天才だけに。
武藤はこのままでは両肩が脱臼してしまうと恐れたのか、志賀様を蹴って突き放した。
そして敏捷に組みつくや、ドラゴンスクリューに切って取る。
志賀様が回転し、マットに倒された。
これには観客から悲鳴が上がった。
それもそうだろう。
志賀様が様子見以外でマットに倒れるなど、三沢さん戦のほかにあり得なかったからだ。
武藤は畳み掛けた。
すかさず志賀様の足を取り、四の字固めに入る。
だが武藤の攻勢もここまでだった。
志賀様がこの攻撃を予期していたか、瞬時に裏返ったのだ。
そう、四の字固めは裏返ると、仕掛けた方が痛くなる技なのだった。
ピンチから一転、優位に立った志賀様に、熱い声援が送られる。
「いいぞ志賀様!」「武藤の人工関節を破壊しちゃってください!」「カッコ良すぎ!」
武藤はそれでも粘り、サードロープに何とか逃れた。
海野の助けで絡み合った足が外される。
志賀様は悠然と立ち上がった。
一方の武藤はもうボロボロで、ロープにすがって何とか身を起こす。
志賀様がとどめを刺そうと、近づいた時だった。
武藤が低空ドロップキックを志賀様の膝に叩き込んだのだ。
どうやら死に体は偽りだったらしい。
志賀様は右膝をついてしゃがみこむ姿勢になった。
これを逃さぬ武藤ではない。
シャイニングウィザード!
武藤の右膝が志賀様の左側頭部に炸裂した。
大観衆から恐怖の叫びが上がる。
だが、それは見間違いだった。
何と志賀様は、武藤の膝をギリギリ両手で弾き返していたのだ。
武藤は完全に膝を破壊され、泣きながら倒れこんだ。
志賀様は武藤を裏返し、STFを仕掛ける。
まさか、これは――!
場内は興奮のるつぼと化した。
志賀様がSTFから片羽絞めに移行し、ぐるりと反転する。
仰向けに武藤を絞め上げた。
これぞ伝説の秘奥技、究極の必殺技、『志賀絞め』だ!
武藤はその手の平で超高速タップし、海野レフェリーはゴングを要請した。
2分15秒、志賀様のギブアップ勝ちである。
東京ドームは揺れに揺れ、拍手喝采が天井を破壊せんばかりだった。
武藤は黒GHCベルトを意地汚く抱き締めながら、担架で運ばれていった。
志賀様と戦って脱糞しなかった一般レスラーは、オカダ、棚橋に続いて3人目である。
場内からは健闘を称える武藤コールが湧き起こった。
だがそれも、志賀様がリングでマイクを手にすると静まり返る。
志賀様「今日は皆さん、ご来場ありがとうございました! ベテランの武藤さんと戦えて、勝つことが出来て、最高の気分です!」
大観衆は陽気に『志賀様』コールする。
志賀様「ありがとうございます! 僕はまだまだ、この白GHCを守り抜いていく所存です! これからも応援よろしくお願いします!」
ファンの中には、『志賀絞め』を生で見ることが出来て、嬉し泣きするもの多数だった。
武藤のことなどもはや忘れ去っている。
悲しいが、格闘技とはそういう世界なのだ。
志賀様「ではいきますよ皆さん! いち、にい、さん、シガーっ!」
このコールに大観衆も声を合わせて思いっきり叫んだ。
東京ドームは何度目かの揺動で嬉しそうにきしむ。
志賀様「では皆さん、また観に来てください! それでは!」
志賀様がいれば、大丈夫。
コロナも武藤も敵ではない。
そんな当たり前の事実が、当たり前に展開されたことを、誰もが喜んだ。
やっぱり志賀様最強!
どこかでウグイスが鳴いている。