とうとうこの日が来た。
スーパーヘビー級のウスラ馬鹿・スダリオ剛と、真格闘神・志賀賢太郎さまの直接対決である。
このカード見たさに真夏の日本武道館に集まった観客は、大入りの1万7000人。
もちろんこの試合は日本のみならず、全世界各国に同時中継される。
PPVの売り上げは6兆円に達するそうだ。
セミファイナルのKENTAvs朝倉未来が、KENTAのG2Sで決着すると、場内は暗転。
いよいよだ。
観客は熱気ムンムン、気分は最高潮である。
まずは弱いほうのスダリオから入場だ。
『アンパンマンマーチ』が流れる中、いつもの北尾臭を漂わせながら、花道を歩いてきたスダリオ。
観客は「この八百長野郎!」「初めての真剣勝負はどんな気持ちだ?」「志賀さまの爪の垢を煎じて飲め!」と罵倒の嵐。
尿の入った紙コップ、スイカの皮、芯の入ったままのトイレットペーパーなどが投げつけられる。
スダリオは見た目どおりの鈍重ぶりで、すべてヒットしていた。
やがてスダリオがリングイン。
続いて、強いほうの志賀さまの入場だ。
名曲『TRADITION』が流れると、観客の興奮がいやまして、大歓声が渦を巻く。
現れた志賀さまは、特に気取ったところもなく、普通のタイツ姿で花道を闊歩する。
「志賀さま素敵ーっ!」「カッコ良すぎる……!」「八百長野郎をやっつけてください!」などの声援が万雷の拍手とともに降り注いだ。
観客席からはおひねりの連投が続き、付き人の丸藤正道が拾い集める。
そして志賀さま、堂々のリングイン!
志賀さまの闘いが目の前で生で観られる。
その確固たる事実が、すべての観客を酩酊させていた。
「凄い……!」「この世に生まれてきて良かった!」「頑張れ志賀さまーっ!」などなど、観衆はどよめきに包まれる。
そんな中、ジョー樋口レフェリーが志賀さまとスダリオ剛をリング中央で引き合わせる。
ルール確認だ。
今回の試合は、スダリオ剛の馬鹿の一つ覚えである総合ルールで行なわれる。
二人が並ぶと、体格差は圧倒的だ。
幹のごときスダリオに比べると、志賀さまはまるで小枝のようである。
しかしスダリオのぶよぶよした四肢と、志賀さまの超合金めいた引き締まったボディを見比べれば、どちらが強いかは素人でも分かった。
それが証拠に、スダリオは早くも恐怖で失禁しており、タイツが尿びたしになっている。
二人が別れた。
ジョー樋口レフェリーがゴングを要請する。
「ラウンドワン!」
高らかな鐘の音が響き渡った。
全観客が、一瞬でも見逃さないよう目を見張って観戦する。
スダリオはさすがにプロの格闘家だけあって、失禁を止めてリングを回り始めた。
志賀さまはするすると近づくと、いきなりカーフキック!
スダリオの左足が軋み、彼の顔が苦痛に歪む。
ならばとお返しのカーフキックを放つスダリオ。
それは志賀さまの軽いフットワークでかわされた。
早くも足を引きずる者と、冷静にその様子を見つめる者。
大観衆は沸きに沸いた。
「いいぞ志賀さま!」「効いてる効いてる!」「とどめを刺しちゃってください!」と、声をからして応援する――もちろん志賀さまをだ。
スダリオは青コーナーの自陣に後退すると、トレーナーの声かけに二、三度うなずく。
どうやら作戦があるらしい。
彼はそれに自信があるようで、にたりと笑って再び志賀さまに近づき始めた。
ここまで、志賀さまは消極的な攻めである。
いつもの志賀さまなら、積極果敢に敵手を仕留めにかかるところだが、今日はスダリオ相手に慎重である。
やはり体重差・体格差を気にしているのだろうか?
観客が不安になる中、スダリオがうって出た。
「おら志賀、かかってこいや! 怖いのか? このスダリオさまが怖いのか? 弱虫が!」
なんとスダリオの奇策とは、厳禁とされている試合中の挑発行為だったのだ。
これには観衆も怒り狂った。
スダリオに野次と怒号の集中砲火が浴びせられる。
しかし、一番怒るべき志賀さまは、まったく涼しい顔だ。
その瞳に炎を宿し、志賀さまは前進する。
スダリオが剛腕を振るった。
当たればたとえ志賀さまといえども、ダメージは避けられないのではないか。
そう思われるほどの壮絶な右フックだった。
だが……
「ぎゃっ!」
志賀さまのパンチがスダリオの右肘を下から叩く。
ボキリと音がして、スダリオの右腕が中央で折れた。
「痛え! 痛えよおおっ!」
スダリオが鼻水と涙を流しながら、リングの上を転げ回る。
本来ならここでレフェリーストップだろう。
だがジョー樋口レフェリーは動かない。
志賀さまに対してこんな、こんな無礼を働いた格闘家を、たったこれだけで許すわけにはいかなかったのだ。
右肘を押さえて苦悶するスダリオを見下ろし、志賀さまは仕留めにかかった。
まさか――!
観客の熱がうねりを持った。
これだけの体格差がありながら、あの伝説の技――通称『パーフェクト・ホールド』を極めるのか?
志賀さまがスダリオを踏みつけてうつ伏せにさせる。
その背中に覆い被さり、まず決めるはSTFだ。
「げこっ!」
スダリオがヒキガエルのような悲鳴を発した。
本来ならこの技だけでスダリオを倒せるのである。
だがもちろん、ここまできて志賀さまが、あの技を出さないはずがない。
志賀さまは片羽絞めに移行する。
やっぱりそうだ。
多くの観客が失神寸前だった。
あの神技を生で観られる貴重な体験を、今からまさに得られるのだから。
志賀さまがスダリオをひっくり返す。
で、出た!
『志賀絞め』!
馬鹿の体重をものともせず、志賀さまは完璧に極めてみせた!
スダリオはあまりの痛みと苦しみに、超高速タップでギブアップの意思表示をした。
だがもちろん、そんな簡単に許すわけにはいかない。
志賀さまへの暴言の数々、ここでつぐなっていただこう。
観客は半狂乱状態で、大ウェーブを行なった。
その間もスダリオは天井を向いたまま、「お許しを!」と叫ぶ。
ジョー樋口レフェリーがスダリオに「ギブアップ? ギブアップ?」と白々しく問いかける。
すでにギブアップしているのだが、もちろんすぐに解き放つのは癪にさわるのだ。
日本武道館は観衆の重低音ストンピングでぐらぐら揺れる。
「志賀さまー!」「カッコ良すぎるーっ!」「これからも格闘技界を引っ張ってくれーっ!」と、声援にも熱がこもった。
その間もギュウギュウ絞められるスダリオ。
もはや半失神状態で、タップもできなくなった。
ここでようやくジョー樋口レフェリーが間に入る。
「ストップ! ストップ!」
志賀さまは半回転してスダリオを放り出すと、立ち上がって手を挙げた。
1ラウンド3分3秒、志賀賢太郎さまのTKO勝利である。
敗れたスダリオ剛は、失禁と脱糞で手がつけられない。
志賀さまが大熱狂・大興奮の観客に向けてマイクを握った。
「今日は多数のご来場、誠にありがとうございます! テレビで観戦してくださってる方も、本当にありがとうございます!」
拍手がなかなか鳴りやまなかった。
「今日は『皆さんを楽しませる』ことを目標として闘いました! 本当は最初のカーフキックでスダリオ選手の足を折れたのですが、ちょっと弱めて半壊程度にしました。あっさり終わっちゃうとつまらないかな、と思って……」
観客は苦笑する。
やはり志賀さまは、スダリオ剛など初めから相手にしていなかったのだ。
我々の心配は、まったくの杞憂だったのである。
志賀さまは続ける。
「今、また新型コロナが流行ってきてますが、皆さんと一緒に熱く切り抜けていきたいと思います! 格闘技もいいけどプロレスもよろしく! 今日は本当にありがとうございました!」
武道館は爆発するような大歓声に包まれた。
やはり志賀さまは最強だ。
彼を信じてついていけば、必ず夢を見させてくれる。
いや、叶えてくれる。
こんな頼もしい選手は二度と出てこない。
志賀さまは観客席に手を振りながら、夏の夜の一大イベントを無事完結させたのだった……
どこかでウグイスが鳴いている。
スーパーヘビー級のウスラ馬鹿・スダリオ剛と、真格闘神・志賀賢太郎さまの直接対決である。
このカード見たさに真夏の日本武道館に集まった観客は、大入りの1万7000人。
もちろんこの試合は日本のみならず、全世界各国に同時中継される。
PPVの売り上げは6兆円に達するそうだ。
セミファイナルのKENTAvs朝倉未来が、KENTAのG2Sで決着すると、場内は暗転。
いよいよだ。
観客は熱気ムンムン、気分は最高潮である。
まずは弱いほうのスダリオから入場だ。
『アンパンマンマーチ』が流れる中、いつもの北尾臭を漂わせながら、花道を歩いてきたスダリオ。
観客は「この八百長野郎!」「初めての真剣勝負はどんな気持ちだ?」「志賀さまの爪の垢を煎じて飲め!」と罵倒の嵐。
尿の入った紙コップ、スイカの皮、芯の入ったままのトイレットペーパーなどが投げつけられる。
スダリオは見た目どおりの鈍重ぶりで、すべてヒットしていた。
やがてスダリオがリングイン。
続いて、強いほうの志賀さまの入場だ。
名曲『TRADITION』が流れると、観客の興奮がいやまして、大歓声が渦を巻く。
現れた志賀さまは、特に気取ったところもなく、普通のタイツ姿で花道を闊歩する。
「志賀さま素敵ーっ!」「カッコ良すぎる……!」「八百長野郎をやっつけてください!」などの声援が万雷の拍手とともに降り注いだ。
観客席からはおひねりの連投が続き、付き人の丸藤正道が拾い集める。
そして志賀さま、堂々のリングイン!
志賀さまの闘いが目の前で生で観られる。
その確固たる事実が、すべての観客を酩酊させていた。
「凄い……!」「この世に生まれてきて良かった!」「頑張れ志賀さまーっ!」などなど、観衆はどよめきに包まれる。
そんな中、ジョー樋口レフェリーが志賀さまとスダリオ剛をリング中央で引き合わせる。
ルール確認だ。
今回の試合は、スダリオ剛の馬鹿の一つ覚えである総合ルールで行なわれる。
二人が並ぶと、体格差は圧倒的だ。
幹のごときスダリオに比べると、志賀さまはまるで小枝のようである。
しかしスダリオのぶよぶよした四肢と、志賀さまの超合金めいた引き締まったボディを見比べれば、どちらが強いかは素人でも分かった。
それが証拠に、スダリオは早くも恐怖で失禁しており、タイツが尿びたしになっている。
二人が別れた。
ジョー樋口レフェリーがゴングを要請する。
「ラウンドワン!」
高らかな鐘の音が響き渡った。
全観客が、一瞬でも見逃さないよう目を見張って観戦する。
スダリオはさすがにプロの格闘家だけあって、失禁を止めてリングを回り始めた。
志賀さまはするすると近づくと、いきなりカーフキック!
スダリオの左足が軋み、彼の顔が苦痛に歪む。
ならばとお返しのカーフキックを放つスダリオ。
それは志賀さまの軽いフットワークでかわされた。
早くも足を引きずる者と、冷静にその様子を見つめる者。
大観衆は沸きに沸いた。
「いいぞ志賀さま!」「効いてる効いてる!」「とどめを刺しちゃってください!」と、声をからして応援する――もちろん志賀さまをだ。
スダリオは青コーナーの自陣に後退すると、トレーナーの声かけに二、三度うなずく。
どうやら作戦があるらしい。
彼はそれに自信があるようで、にたりと笑って再び志賀さまに近づき始めた。
ここまで、志賀さまは消極的な攻めである。
いつもの志賀さまなら、積極果敢に敵手を仕留めにかかるところだが、今日はスダリオ相手に慎重である。
やはり体重差・体格差を気にしているのだろうか?
観客が不安になる中、スダリオがうって出た。
「おら志賀、かかってこいや! 怖いのか? このスダリオさまが怖いのか? 弱虫が!」
なんとスダリオの奇策とは、厳禁とされている試合中の挑発行為だったのだ。
これには観衆も怒り狂った。
スダリオに野次と怒号の集中砲火が浴びせられる。
しかし、一番怒るべき志賀さまは、まったく涼しい顔だ。
その瞳に炎を宿し、志賀さまは前進する。
スダリオが剛腕を振るった。
当たればたとえ志賀さまといえども、ダメージは避けられないのではないか。
そう思われるほどの壮絶な右フックだった。
だが……
「ぎゃっ!」
志賀さまのパンチがスダリオの右肘を下から叩く。
ボキリと音がして、スダリオの右腕が中央で折れた。
「痛え! 痛えよおおっ!」
スダリオが鼻水と涙を流しながら、リングの上を転げ回る。
本来ならここでレフェリーストップだろう。
だがジョー樋口レフェリーは動かない。
志賀さまに対してこんな、こんな無礼を働いた格闘家を、たったこれだけで許すわけにはいかなかったのだ。
右肘を押さえて苦悶するスダリオを見下ろし、志賀さまは仕留めにかかった。
まさか――!
観客の熱がうねりを持った。
これだけの体格差がありながら、あの伝説の技――通称『パーフェクト・ホールド』を極めるのか?
志賀さまがスダリオを踏みつけてうつ伏せにさせる。
その背中に覆い被さり、まず決めるはSTFだ。
「げこっ!」
スダリオがヒキガエルのような悲鳴を発した。
本来ならこの技だけでスダリオを倒せるのである。
だがもちろん、ここまできて志賀さまが、あの技を出さないはずがない。
志賀さまは片羽絞めに移行する。
やっぱりそうだ。
多くの観客が失神寸前だった。
あの神技を生で観られる貴重な体験を、今からまさに得られるのだから。
志賀さまがスダリオをひっくり返す。
で、出た!
『志賀絞め』!
馬鹿の体重をものともせず、志賀さまは完璧に極めてみせた!
スダリオはあまりの痛みと苦しみに、超高速タップでギブアップの意思表示をした。
だがもちろん、そんな簡単に許すわけにはいかない。
志賀さまへの暴言の数々、ここでつぐなっていただこう。
観客は半狂乱状態で、大ウェーブを行なった。
その間もスダリオは天井を向いたまま、「お許しを!」と叫ぶ。
ジョー樋口レフェリーがスダリオに「ギブアップ? ギブアップ?」と白々しく問いかける。
すでにギブアップしているのだが、もちろんすぐに解き放つのは癪にさわるのだ。
日本武道館は観衆の重低音ストンピングでぐらぐら揺れる。
「志賀さまー!」「カッコ良すぎるーっ!」「これからも格闘技界を引っ張ってくれーっ!」と、声援にも熱がこもった。
その間もギュウギュウ絞められるスダリオ。
もはや半失神状態で、タップもできなくなった。
ここでようやくジョー樋口レフェリーが間に入る。
「ストップ! ストップ!」
志賀さまは半回転してスダリオを放り出すと、立ち上がって手を挙げた。
1ラウンド3分3秒、志賀賢太郎さまのTKO勝利である。
敗れたスダリオ剛は、失禁と脱糞で手がつけられない。
志賀さまが大熱狂・大興奮の観客に向けてマイクを握った。
「今日は多数のご来場、誠にありがとうございます! テレビで観戦してくださってる方も、本当にありがとうございます!」
拍手がなかなか鳴りやまなかった。
「今日は『皆さんを楽しませる』ことを目標として闘いました! 本当は最初のカーフキックでスダリオ選手の足を折れたのですが、ちょっと弱めて半壊程度にしました。あっさり終わっちゃうとつまらないかな、と思って……」
観客は苦笑する。
やはり志賀さまは、スダリオ剛など初めから相手にしていなかったのだ。
我々の心配は、まったくの杞憂だったのである。
志賀さまは続ける。
「今、また新型コロナが流行ってきてますが、皆さんと一緒に熱く切り抜けていきたいと思います! 格闘技もいいけどプロレスもよろしく! 今日は本当にありがとうございました!」
武道館は爆発するような大歓声に包まれた。
やはり志賀さまは最強だ。
彼を信じてついていけば、必ず夢を見させてくれる。
いや、叶えてくれる。
こんな頼もしい選手は二度と出てこない。
志賀さまは観客席に手を振りながら、夏の夜の一大イベントを無事完結させたのだった……
どこかでウグイスが鳴いている。