よなぷーの無駄喋り

カテゴリ: 三沢対ヒョードル

2023年2月5日(日本時間)、皇帝ヒョードルがライアン・ベイダーにマウントパンチで負けた。

ヒョードルは事前に「お願いだから負けてくれ」とベイダーに懇願。

話によると、8本(8000万円)を積んだという。

これをベイダーは受諾。

勝てるもんだと思い込み、意気揚々としたヒョードル。

「ベルトを取ったら統一戦を行ないますか?」との記者の質問に、「今いう話じゃない」と否定しながらもまんざらではない様子。

そして決戦は始まった。

ベイダーは的確にパンチを当てると、倒れたヒョードルに覆い被さる。

この時点で「おかしい」「妙に変だな」と思ったヒョードルだったが、まさか八百長の約束を反古にされるとも考えず、大人しくガードしていた。

鼻の上をカットされて出血すると、ヒョードルはさすがにやばいと感じたらしい。

小声で「ライアン、話が違う! 話が違う!」と叫んでいるのがマイクに拾われていた。

しかしベイダーは手を緩めず滅多打ち。

さすがにレフェリーが止めて、哀れヒョードルはTKO敗けを喫した。

ベイダーに負けてくれるよう頼んでいたとは言えず、ヒョードルは大人しく敗けを受け入れ、引退した。

やっぱりヒョードル最弱!

そして三沢さん最強!

NOAHこそ正義!

緑の方舟こそ究極の格闘技!

どこかでウグイスが鳴いている。

今日はNOAH・三沢光晴選手の命日。

個人的には90年代全日本プロレス時代の三沢さんが好きだった。

今じゃ当たり前の技のような「投げ捨てジャーマン」も、四天王プロレスで根付いた感じがする(始祖はスタイナーブラザーズだけど)。

特に対川田利明三冠戦では、川田を投げ捨てまくって勝利を収めていた。

当時川田ファンだったおいらは、本気で心配したなぁ……

あそこから過激な技の応酬が始まったと思う。

ウイリアムスの殺人バックドロップとか、タイガードライバー91とか……

今のプロレスに地続きな部分も多い。

プロレスを進化させたのが三沢さんだった。

ご冥福をお祈りします。

まあぶっちゃけ普通に話すけど、おいらが好きな三沢さんは1990年代の全日本プロレス・四天王(五強)時代のころ。

NOAHを旗揚げしてからの三沢さんは、あんまり好きじゃない。

三沢さんのベストバウトはいろいろあるんだけど、やっぱり今から30年前の1991年4月18日日本武道館大会メインイベント・三冠ヘビー級選手権試合チャンピオン・ジャンボ鶴田vsチャレンジャー・三沢光晴の一戦が一番好きかな。

若林健治アナの「鬼か! 魔物か! 怪物か! ジャンボ鶴田!」の名実況とともに、急角度バックドロップ三連発の前に散った三沢さん。

とにかく熱く、素晴らしい試合だった。

次点としてはvs小橋健太の三冠戦(ダブルエルボーで決まった試合が一番好き)、川田との35分超え三冠戦(最後がタイガードライバー91だった試合)、ウイリアムスに殺人バックドロップで負けた三冠戦、とかかな。

NOAHの試合はおぼろげなのに、1990年代全日本プロレスの試合の数々は今でも鮮明に思い出せる。

まだプロレスを『型のある真剣勝負』と見なして、真面目に観戦し、勝敗に一喜一憂していたからだろう。

結果の決まっているお芝居だとわかってからは、何だか冷めて、NOAHよりPRIDEに興味が移ってしまったんだよなあ。

それでも三沢さんの事故死には強い衝撃を受けた。

新聞全国紙朝刊に記事が出ていて、それを読んで背筋が凍ったのを覚えている。

その数週間前の週刊プロレスで、潮崎とタッグを組んで齋藤彰俊・バイソンスミス組とのタッグタイトル戦に臨む三沢さんが、インタビューに答えていた記事がある。

三沢さんはそこで「潮崎におんぶにだっこで挑みたい」と抱負を語っていた。

まさかあれが最後のインタビューになろうとは、全く思いもよらなかった。

とりとめもなく書いてきた。

三沢さんの記事を書くのも、十三回忌という節目だし、たぶん今回が最後となるだろう(まだ分からないけど)。

三沢さんは偉大なプロレスラーであった。

ヒョードルと戦っている姿を見てみたかったが、まあ叶わぬ夢となってしまった。

今日はABEMAテレビで追悼大会が生中継される。

右肘に、タイガードライバーに、しっかり別れを告げたいと思う。

さらば、三沢光晴。

またいつの日か、ともに。

影武者が齋藤彰俊に倒されて、地上に出れなくなった本物の三沢さん。

あれから東京ドーム地下3階の巨大闘技場で、毎日のように総合格闘家たちへ稽古をつけている。

三沢さんに一度も勝ったことがないヒョードルは、今も三沢さんの指導で腕を磨いていた。

しかしヒョードルにはすぐ八百長に走る癖があるため、たびたび三沢さんに注意のエルボーを食らわされている。

他にもミルコ、ノゲイラ、シウバといった『三沢さんに一度も勝ったことがない』連中が、三沢さん相手に連敗記録を更新中だ。

もはや最強過ぎて、闘える相手は『真格闘神』志賀賢太郎様ぐらいしかいないと目されている三沢さん。

二人の夢の激突を想像しながら、人々は期待に胸を膨らませるのだった。

遂にこの日が来た。

我らが憧れにして究極絶対超絶最強格闘神・三沢光晴猊下。

我らが忌み嫌う最低八百長爆弾野郎・ヒョードル。

この時代に冠した2人が、とうとう本気も本気、マジのマジで激突するのだ。

舞台となる国立競技場には、日本格闘技興行史上最多となる10万人が押し寄せた。

ギッシリ隙間なく埋められた会場は早くも熱気ムンムン。

前座である田上明vsヒクソングレイシーが田上の喉輪落としで決着すると、待ちきれないとばかりに観衆が騒然となる。

まずは弱い方のヒョードルから入場だ。

入場テーマ曲は『だんご三兄弟』で、馬鹿な彼にマッチしている。

「シッ! シッ!」などとほざきながら、シャドーを行ないつつ花道を歩くヒョードル。

客席からは「マッチョでもタンクボディでもない中途半端な体!」「八百長でどれだけの観客を騙してきた?」「ライアン・ベイダーに高速で負けてやんの!」「引っ込め豚野郎!」などの罵声が飛ぶ。

あわせて、大量の使用済みティッシュ、トイレットペーパー、ハンバーガーの空き箱、腐敗したトマトなどがヒョードル目掛けて投げつけられた。

大気を占めるブーイングは空気を震わせ、この恥知らずのロシア人に無形の殴打を食らわせるかのようだった。

しかしヒョードルは意に介さず、まるで観客を小馬鹿にするように唾を吐き捨ててリングに上がった。

こうなると群衆のフラストレーションも溜まりに溜まる。

そこへ静かなピアノによる前奏が流れてきた。

場内が暗転し、『スパルタンX』の軽快なメロディが始まる。

緑のスポットライトが縦横無尽に客席を駆け抜けて、強い方の三沢さんが入場だ。

エメラルドグリーンのガウンを着て、太い腹をチラ見せしながら、厳しい表情で花道を進んできたその勇姿たるや!

「三沢さん素敵!」「ヒョードルをタヒなせてください!」「可愛すぎる!」「三沢さんこっち向いて!」などなど、観衆の目は三沢さんに釘付けとなった。

客席からは紙テープ、おひねり、恋文などが、勇者に当たらぬよう配慮されて投げ込まれる。

そして三沢さん、堂々のリングイン!

影武者三沢さんの死後10年。

誰もが待ち望んでいた究極の決闘――果たし合いが、今から始まるのだ。

場内は興奮のるつぼと化し、悲鳴のような歓声が交錯した。

レフェリーのジョー樋口が、向き合う2人にルール確認をする。

この試合は総合格闘技ルールで行なわれる。

目潰しや金的など以外、例えばサッカーボールキックや踏みつけ、4点ポジションでの膝蹴りなどが有効だ。

観客は言い知れぬ興奮と期待とで、尊師三沢さんの勝ちを疑うものはいなかった。

両者が離れる。

ゴングが高らかに打ち鳴らされた。

鯨波のような騒然とした声がリングを包み込む。

今、最終決戦は始まったのだ。

ヒョードルがガードを固めて三沢さんに接近する。

いきなりヒョードルのジャブが三沢さんの太い鼻を捉えた。

早くも鮮血がほとばしり出る。

鼻骨を砕かれたのだ。

場内には「え?」と、首を傾げる者が多数。

三沢さんが激痛をこらえながら、苦し紛れの組み付きにいく。

だがヒョードルはバックステップでそれをかわすと、いきなり大きく踏み込んでのフックをぶち込んだ。

三沢さんのテンプルに入ったそれは、凄まじい衝撃だったらしい。

三沢さんは千鳥足で後退し、ロープにもたれかかった。

明らかに効いていた。

三沢さんがピンチだ!

観衆はあらん限りの声援を飛ばし、緑のタイツの白タンクボディを支えようとする。

だが戦闘サイボーグと化したヒョードルは、ロープに詰まってガードする三沢さんを、アッパーやフック、ストレートで滅多打ちにした。

三沢さんのまぶたが切れて出血し、目の下は眼窩底を骨折したのかドス黒くなる。

叩きのめされる三沢さんは、ヒョードルにデブっ腹を押し付けつつ倒そうとした。

だがヒョードルは腰をひねり、態勢を入れ替えてマウントを取った。

客席からは「三沢さん、弱くない?」「あれが本当の三沢かよ……」「何かガッカリだよな」などと三沢さんのクソ弱さに声を失いつつあった。

馬乗りになったヒョードルは『氷の拳』を――パウンドを叩き込む。三沢さんの額が割れ、大量の鮮血が吹き上がった。

それでもヒョードルは許さない。

手を伸ばして何とか打撃を回避しようとする三沢さんの腕を取ると、一瞬で腕ひしぎに移行。

三沢さんは必死に両手をクラッチするが、ヒョードルが腰を跳ね上げるとそれもあえなく外れた。

ボキ、と骨の折れる音がした。

血だるまの三沢さんは泣きわめき、曲がってはいけない方向に曲がってしまった腕を押さえる。

ここでジョー樋口が試合を止めた。

1ラウンド1分32秒。

ヒョードルの一本勝ちであった。

三沢さんはダメージのあまり失禁&脱糞し、痛みに転げ回るざまだ。

これには観客も一転した。

「何でえ三沢! 弱過ぎじゃねーかよ!」「最っ底!」「所詮プロレスラーはこんなものか……」「金返せ!」などの罵声が飛び交う。

今や主役は交代した。

エメリヤーエンコ・ヒョードルこそが最強だ。

ヒョードルは傷ひとつない綺麗な顔でマイクを取った。

「どうだ見たかこの野郎ども! 総合舐めんな! プロレスラーみたいな演技者じゃ総合には勝てないんだよ!」

観客はこれに対し大歓声。

改めて世界に強さを見せつけたヒョードルに、惜しみない賞賛の拍手が送られた。

一方、尿と糞を垂らしながら担架で運ばれる三沢さんに対し、大量のトイレットペーパーが投げつけられた。

「この白ブタ野郎!」「プロレス界の恥さらし!」「二度と出てくんな!」「すかたん!」と、試合前とは打って変わって暴言が飛び交う。

これが現実。

これが本当。

三沢さんはその影武者の死から10年となる節目で、自ら『大して強くない』ことを試合で示したのだった。

やっぱりヒョードル最強!

どこかでウグイスが鳴いている。





『三沢対ヒョードル』……完

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