ヘルモゲネスを探して

錬金術書を読む Si hoc est quomodo est, si non est quomodo non est [Avicennae ad Hasen Regem Epistula de Re Recta, c.1]

2011年10月

『ニュートンの鬘』

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『めぐり逢う朝』のサン・コロンブは生没年もはっきりしていないそうだけれど、ものがたりを語る役目のマラン・マレは1656年生まれ、1728年没。
つまり彼は1642年生まれのアイザック・ニュートンよりひとまわり下、そしてニュートンと同じころに没していることになる(ニュートン没年はその前年の1727)。デパルデュの鬘で思い出した訳ではないけれど...

最近出たジャン−ピエール・リュミネの『ニュートンの鬘』がさっそく伊訳されたので、手にとってみる。巻末、ヴォルテールがハレーに向かって、「ひっひ、形而上学は球戯だとおっしゃる。なるほど貴方がた英国人はそれをユーモアだと受け取られるのでしょうな。たいしたもんだ。ユーモアとはわれわれのむき出しのアイロニーに比べるとなんとお上品なんでしょうなあ」と吐くところがある。
この書はいやな性格のニュートンをみごとに描き出しているが、なるほど主人公は『プリンキピア』を公刊にまで導いたハレー、ヴォルテールにあんたにはユーモアのセンスがないと皮肉られるハレーだった。

著者がフランス人だからか、ライプニッツについては軽くいなされました。
いずれにせよ、水銀と硫黄の実験の蒸気を浴びつづけて抜けた髪を隠すように鬘をかぶるニュートン。そのむき出しのアイロニーに鬘をかぶせるような著者の筆致に感服。

Jean-Pierre Luminet, La Parrucca di Newton, tr.it., Valentina Palombi, Roma 2011
tit.orig., La Perruque de Newton, 2010.

tous les matins du monde


ヨルディ・サヴァルの音楽が聴ける映画。
もう二十年前のこと。
この映画を見てからパスカル・キニャールの小説を貪り読んだことなど...

表題は訳しづらかったものか、『めぐり逢う朝』という。



http://www.youtube.com/watch?v=ETGUU5vyOlE&feature=related

つい通して観てしまいました。

トゥリオ・グレゴリー・ファンクラブ通信


トゥリオ先生のお元気な姿を発見。『録されたトマト』とでもいうべきか、この表題。「食えない奴」としてのトマトを真摯を装い語る(騙る?)訥弁の雄弁をご堪能ください。

そういえば僕も以前『トマトの来歴』という小文を書いたことがあったっけ...



つづきは
http://www.youtube.com/watch?v=Cxlz6PQFxxg
で探してください。

ピタゴラス派と天球の音楽


「ピタゴラスとピタゴラス派」と題されたプログラム後半。
Walter Burkertによるピタゴラス派のマテマティカに関するおはなし。



惑星の音楽

キルヒャーの扉頁にえがかれたピタゴラスから始まるところは、僕には少々難ありだけど...なによりこれほど簡潔に美しくディスユンクトゥスのオクターヴや、ケプラーの惑星の音楽が聴こえるのが嬉しい。


『メロディエン』 2

Helmut Krausser, Melodien, la musica del diavolo, tr.it.2006

1607年2月24日マントヴァで初演されたモンテヴェルディの『オルフェオ』を聴かなかった二人。
1613年に没したカルロ・ジェスアルドは小説の中では青年モンテヴェルディに会っている。
1614年に生まれるパスクァリーニにはもちろんそんな機会もなかった。彼は1647年、パリへルイジ・ロッシのトラジコメディア『オルフェオ』を歌いに行くが、オルフェオ役でなく、エウリュディケに懸想するバッカスの息子アリステオの役を振られ...

***

そのものがたりの結構は愛知(フィロソフィア)と神話学(ミトロギア)のふたつからうまれるフィロロギア(これは邦語では文献学と訳されるのだけれど、それにふさわしい語はいったいどこにあるのだろう、まあ小説中でもさまざまな古文書にあたってみせるのだからそれでもいいか)とミトソフィア(これがこの小説自体の狂言回しの役割を負うことになる新造語。神話知とでも?)。
なるほど神話の象徴作用あるいは韜晦術とはまさしくメルクリウスのようにすばやく翔け去る想念の謂いかもしれない、などと。

「あなたは泣き落としに来たの、それとも咎めに来たの」
カルメン・コンソリはそんなふうにオルフェオを揶揄してます。



カルロ・ジェスアルド「かなしきわが魂」

エウリュディケは...


ところで、エウリュディケはなにを想っていたのだろう...
ちょっと前のカルメン・コンソリの歌。
何に「めざめなくっちゃならない」と歌っているのだろう?

モンテヴェルディ『オルフェオ』再興


しかしなんといっても、この歌劇を現代のものとし、オペラ・シーンばかりか映画にまで多大な影響を与えることになったのは、この圧倒的な大ニコラス・アーノンクール指揮の映像...

1978年の神話...

モンテヴェルディ『オルフェオ』再訪


同じころ、本当に僕もおっかけをやっていたモンセッラート・フィグェーラス歌うムシカ。
ヨルディ・サヴァル指揮

チェチリア・G.


『メロディエン』は1988年8月、ある写真家がシエナでチェチリア・G.の歌を聴くところからはじまる。そういえばそのころにはこの歌姫は大変人気があって、僕も彼女が歌うオペラを何度も観にいった記憶が想起される。
ちょうどそのころの録画で、モンテヴェルディの『オルフェオ』を見ることができます。



指揮ルネ・ヤコブス

『メロディエン、悪魔の音楽』

3436b4de.jpgHelmut Krausser, Melodien, la musica del diavolo, tr.it.2006

その第一部、錬金術師を主人公とする(間延びしたところすらもリズムということをめぐる探求なのではないか、と唸らせる)部分の一節。主人公カスティリオ宛友人ウンベルトの書簡の一節です...

「...アイルランドの竪琴奏者に関する貴殿のお問い合わせについて、なにかわたしにお伝えすることがあるかどうかと言えば、じつのところ、否です。それは15世紀あるいはそれ以前のおはなしで。わたしの知る限り、スアントライ、ジェントライ、ゴルトライについての注記なるものはいっさいありません。あらためてその地へお探しに行かれるにせよ、なにかみつかるとも思われません。それにいまとなってはアイルランドが往時のままである訳でもなく...
貴殿がアリストクセノスについてお書きになっている点について申せば、さまざまな非協和ミクロトーンの計測尺度というのは彼にとっては純然たる理論的想定に過ぎません。一方、アリストテレスが疑問に付しているのは実際の計測尺度であり、プラトンの『国家』531の見栄坊は第三の諸トーン(トーンのさまざまな三分?)を聞き分けることができると自惚れる音楽家たちを手玉にとっています。いずれにしてもアリストクセノスは、振動周期8 : 9の比率をもとに計算された6つの全トーンというものは1オクターヴよりもわずかばかり大きい、というピタゴラスの理説における難題に関する過誤を取り除いてみせたのです。アリストクセノスはこの述定を、トーンの定義として五度と四度の差異と定義することで書き換えてみせました。四度は2トーン半、そして五度は3トーン半と。こうすることでオクターヴは同一の10のメッツォトーンに区分され、これにより「トノイ」理論あるいはドッピア(2倍)オクターヴの音階が平明に解かれるようになったのです。ディスイウンクトゥスの二つのテトラコルド*を上下にコニウンクトゥスのテトラコルドと付加音、プロスラムバーメノンと称される1トーンを加えることによって拡張して**...」伊版p.174.

* 一方の最高音が他方の最低音と同一ではなく、これら二つの音の間にインターヴァルが置かれるような連結法
** たとえば武井成美「アニキウス・マンリウス・セベリヌス・ボエティウスとその音楽」そのIX、宮崎大学教育学部紀要 芸術・保健体育・家政技術 60 (1986)、pp.2-6等々参照。

『魔法の館』


1642年、ジュリオ・ロスピリオージ作ルイジ・ロッシ曲『魔法の館Il parazzo incantato』を歌ったのもパスクァリーニだったという。
ロスピリオージといえば、スウェーデン女王クリスティーナがローマに到着した折のバルベリーニ家での祝宴の台本を手がけた人でもあった。
パスクァリーニは当ブログの主人公であるパロンバーラ公爵マッシミリアーノと同時代の人ということになる。



ヤロウスキーはあんまり好きではないけど...他にみつからなかったので。

マルカントニオ・パスクァリーニ

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カルロ・ジェスアルドにつづき、17世紀カストラート歌手として活躍したパスクァリーニの登場。

なんの話かというと、ヘルムート・クラウザーの『メロディエン』という小説。

Helmut Krausser, Melodien, Hamburg 2002, tr.it. G.Giri e L. Bortot, Siena 2006

ピーター・グリーナウェーとマイケル・ナイマンの『料理長と泥棒とその妻と愛人』と『ラスト・テンペスト』に捧げる、と記されたところからしてなかなかキッチュなものがたり。

第一部の主役は、謎の錬金術師カスティリオ。
第二部の主役が、ジェスアルド。
そして第三部の主役がパスクァリーニ。

挿入される文献やら文学作品やらがよくできた創作なので、登場人物も仮構かとおもいきや。
図はウィキペディアのパスクァリーニ項に出ていたアンドレア・サッキ作『アポロンに戴冠されるパスクァリーニ』(1641 メトロポリタン博物館蔵)。

ひょっとすると第一部、アグリッパとトリテミウスがボヴィルスの悪口を言ってみせるところに居合わせるカスティリオも史上の人物かも?

コンコルディアとディスコルディアふたたび


ヘルツォークの『ジェスアルド、五声の死』。以前、ミルヴァの登場する場面を引いたことがあったけれど、その全体をユーチューブに見つけたので...

ライモンド・デル・サングロがつくった解剖像二体がカルロ・ジェスアルドが殺した妻マリア・ダヴァロスとその愛人だ、とまことしやかに話す人が出てきたり、その二人をカルロが殺害した寝台とやらいうものまでててくる。

http://www.youtube.com/watch?v=lE7vu9LlPE8&feature=BFa&list=PL6D04B4ED165B4875&lf=results_main

あらためてなぜジェスアルドか、というと。それはまた後で...

sabato furioso

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ちょっと街の外に出ていて帰ろうとすると、地下鉄駅は鉄柵が降りているし、街路は横付けパトカーで封鎖されているし...まさかこんなに近くでこんなことが起こっていたとは...
おまわりさんたちの間をやっとのことで抜けて帰宅。テレヴィ・ニュースでなにが起こっているかを知る。
そして今日、なにが起こっていたかを確かめました。いやはや。びっくり。

ビザンツ世界とオットー朝

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ゲルベルトゥスのR. R. R.はRe(gno)、王(朝)のR.でもあった。
ランスは神聖ローマ帝国とフランクに挟まれたロレーヌ...
ラヴェンナは法王庁と神聖ローマ帝国をむすぶビザンツの前身...
そしてローマ...

地方豪族の徴税権が中央集権化されていく過程がゲルベルトゥスの晩年、怒涛のように垣間見える。

そんなわけで、またまた逸脱。オットー二世にとついだビザンツ后妃のものがたり。
キアラ・フルゴーニ女史の中世鼻眼鏡等々で触れられていたあの「フォークを使う東方の尊大な后妃」というのがテオファノのことであったことにあらためて想到。

R. Gregoire, Theofano, Una Bizantina sul trono del Sacro Romano Impero, Milano 2000
P. Golinelli, Adelaide, Regina santa d'Europa, Milano 2001

新オルド...

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呆然とするうち、クレーの新しい天使がにやりと笑ってみせたりするのです。

新たなる修道秩序...の図

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そのおおよそ二百年後。
フィオレのヨアキムの『形象の書』に挙げられた新修道秩序の図。
これは通常、縦形のヒエラルキアとして読まれているのだけれど...

前の修道院付属設備の平面図を誤読し(てみせ)たもの、としか見えなくなってくる。
すると、中央のコロンバ(鳩)の文字すらもが、ボッビオの聖コロンバヌスに見えてくる眩暈...

巡礼の宿

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ヌヴォローネの論考に挙げられている図はどうやら9世紀のサン・ガッロ大修道院西側に設けられた(?)巡礼貧窮院の平面プランらしい。
その中のひとつ...

San Gallo, Stiftsbibliothek, MS 1092.

脱線...

c0eb5c26.jpgまたまたいつもの脱線...
Archivum Bobienseを探して。今度はタイトルからしてゲルベルトゥスとは関係なさそうな巻だが...

Archivum Bobiense Studia 3; La fondazione di Bobbio nello sviluppo delle comunicazioni tra Langobardia e Toscana nel Medioevo, Conv.intnl.1999.

をぱらぱらめくっていると、監修者ヌヴォローネ師の聖コロンバヌス巡礼とボッビオについての論考のなかに、ちょっとびっくりするような挿絵を見つける...
 
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