日本低フォドマップ(FODMAP)食推進会:宇野

 

 

私は2013年から低FOMAP食を推進してきました。何事も、推進し始めた頃は、その危険性には目を向けず、その利点だけを見出そうとします。人との出会いであっても、困っている時に出会った人は運命の出会いに思え、良いところしか見えず、「あばたもえくぼ」のように、本来の姿が過大評価されます。そして、だんだんと悪いところが見えても信じた自分を疑わず、欠点を打消そうと考えます。しかし、数年が経つと実像が見えてきます。そして、客観的に、その相手を変えようと努力します。低FODMAP食についても、まさにそうでした。これまで、ほとんど有効な治療法がなかったIBSにおいて、低FODMAP食は、まさに画期的なものでした。それは、私ばかりではなく、世界中の研究者、医師、IBS患者自身も飛びついたのは、その理論の合理性でした。そして、その有効性が5080%という優れた結果の報告に感激しながら論文を読んだものでした。

 しかし、それから数年が経ち、だんだんと、その問題点が指摘され始めました。たとえば、その有効性が5080%という結果にしても、そもそもIBS患者では、どんな治療でも、たとえ無効な治療であっても、2040%が有効であるということがわかっています。医学的用語ではプラシーボ効果といいますが、そのプラシーボ効果を除外すると、さほど有効ではないかもしれません。また、低FODMAP食が有効であるという研究では、通常に食しているFODMAP量よりもはるかに多い量の高FODMAP群と比較していました。さらに、低FODMAP食で明らかに有効なのは、その1日総量が3g以下であるのに対し、実際に低FODMAP食で指導している総量は9gと非常に高い量で、日本人では症状を来す量、つまり、高FODMAPに値するものであり、そのため、日本では13g以下にすべきであると著書に記したのが2015年でした。そして、今年、私は、イギリスでの低FODMAP食の1日総量が9gであることは理論的に矛盾があり、プラシーボ効果ではないかと意見書を送りました。

 この低FODMAP食が懸念されていることは、腸内細菌叢(腸内フローラ)が変化してしまうことと、大腸内で発酵して産生される短鎖脂肪酸が低下することです。それに対して、先のイギリスの研究では19gという、私にしてみれば、高FODMAP量を低FODMAP食として研究した結果、腸内フローラも短鎖脂肪酸も影響がないという結果を出しています。つまり、低FODMAP食に関して、有効性を示す時は1日量が少なく、副作用に関しては1日量を多くしているという実態が見えてきたのです。はっきり言って、それは、インチキです。そのため、私は、考え方を変えました。

 まず、明らかに正しいことだけに徹する事です。何を食べて良いか?どれだけ食べて良いか?という曖昧な考えを捨てました。排除期の46週は、明らかにFODMAPでないものだけにすべきです。低FODMAPというのではなく、無FODMAPにすべきです。そして、全く症状が無くなったことを確認してから、チャレンジ期に移行します。長期経過はチャレンジの連続になります。そのため、FODMAPの総量は低FODMAP食開始前に近くなります。であれば、低FODMAP食による副作用など考えないでもいいことになります。その間、段々と、牛乳を飲むと2時間以内に下痢をするとか、ラーメンを食べると4時間後にお腹が張るなど、学習することになります。そして、それを続けているうちに、低FODMAP食を意識することなく、自分の生活に合わせて高FODMAP食品を食べるようになります。

 たとえば、私の場合は、勤務がない日の前の日は、明らかに症状の出る高FODMAP食を食べます。その後、腹痛で寝込んでも、その理由がわかっていればいいのです。また、勤務の日は、朝4時に起きて、乳糖一杯のケーキ、シュークリームを食べます。6時半までに2回下痢してから家を出ます。つまり、高FODMAPを下剤として食べています。まだ、不安な時は、勤務に入る前にコーヒーを飲みます。私は、FODMAP以外のコーヒーでも下痢をする(このことは、低FODMAP食を徹底してわかったことです)で、それで最終チェックをします。まだ、便が残っている時は、コーヒーを飲んで、すぐに下痢をします。

 1図1

最近、はまっているのは、勤務終了後、家に帰る前のラーメンです。私の場合には、小麦を食べても2時間は無症状なので、症状が出ても家に帰ってからだからです。つまり、完全に高FODMAP生活をしています。

2図1


 つまり、低FODMAP食の最終目標は、低FODMAP食をやめて、高FODMAPによって、自分の腸を操作することにあります。IBSは、自分の腸に自分の生活が操られていることが問題なのです。そして、逆に、自分の腸を自分で操ることがIBSに打ち勝つことだと私は思います。