低フォドマップ食:IBSでの位置づけ

Uno Y

 

ノーベル賞を受賞した本庶佑教授が「ネイチャー、サイエンスに掲載された論文の9割は嘘」と発言しましたが、であれば、それらよりもインパクトファクターの低い雑誌の掲載論文は全て嘘かもしれません。

 

しかし、この「嘘」という言葉の意味は、全くの捏造論文が9割という意味ではなく、後の研究によっても「普遍的な事実」である研究は1割にすぎないという意味でしょう。

たとえば、「Xという病気はAによる」という論文は、後に、原因Bが発見されれば、嘘になります。その際、「XBが原因である」としても、その後、Cが発見されれば、嘘になります。その繰り返しで、永遠に嘘になります。そうではなく、ABCも全て影響していて、それらがどのように関与し合っているのか?という多変量解析を行っても、その後、さらに因子が発見されれば、その関係も崩れます。

 

過敏性腸症候群の場合はさらに複雑です。

まず、診断基準が曖昧であるという最大の問題があります。現在まで、低FODMAP食が有効だという研究報告は2006年に設定されたRomeIIIが用いられてきました。この基準では腹痛がなくとも腹部不快があれば、下痢、便秘の多くは過敏性腸症候群でした。しかし、2016年にRomeIVに改定され、そのため腹痛のない腹部膨満、腹痛のない下痢、腹痛のない便秘は過敏性腸症候群から除外されました。このように診断基準が厳しくなった背景は、なんでもかんでも過敏性腸症候群にしてしまうことによる弊害をなくして、原因や治療効果をより明確化するためだと思います。そのため、これまでの研究で、対象者がRomeIIIで、90%の患者に有効であったと結論されても、もし、そのほとんどが腹痛のないケースで、無効であったものすべてに腹痛があったのであれば、現在の基準では過敏性腸症候群には無効であるとなります。ですから、RomeIIIで有効であった低FODMAP食であっても、その適応をRomeIVの過敏性腸症候群だけに絞った場合には、有効率は低下する可能性があります。しかし、対象をRomeIV+機能性下痢(腹痛なし)+機能性下痢(腹痛なし)とすれば、有効性はRomeIIIと同じになるので、低フォドマップ食の有効性は得られるのは間違いありません。RomeIV+機能性下痢(腹痛なし)+機能性下痢(腹痛なし)は、機能性腸障害という母集団に含まれるので、「過敏性腸症候群に低フォドマップ食が有効である」というのではなく、「機能性腸障害のなかには低フォドマップ食が有効な場合もある」というのが、最も正しい表現でしょう。しかし、あまりにも、インパクトがなく、つまらない。。。

 

以上から、なぜ、過敏性腸症候群では腹痛が起こるのか?その腹痛にFODMAPがどのように関与するのか?について、きちんと整理する必要があります。これまでのRomeIIIでの基準では、単にFODMAPが腸内で水分を増加させ、腸内で発酵するためガスが多くなるということだけで説明することができました。しかし、水分が多くて下痢をしても腹痛を来すとは限りません。たとえば、大腸内視鏡のために大腸で吸収されない腸洗浄液を飲んで下痢をしても腹痛は生じません。また、大腸にガスが増えても必ずしも腹痛を生じません。(大腸ガスが増加して何故便秘になるのかは、これまで私は論文で報告してきました。つまり、この件については私としては理論的に解決したと思っています。これは、PubMedに掲載されているので、この理論は私のプライオリティーです)そして、痛みについては、痛みを来す機序に腸内体積増加がどのように関与するのか?そのフローチャートのアルゴリズムでは、条件によって腹痛を来すか、来さないかが分かれます。その条件についても、部分的にこれまで、報告してきましたが、今後、明快なアルゴリズムを提示できると思っています。そのアルゴリズムには、FODMAP、胆汁酸、アレルギー、自律神経、血流など、複雑に関与しています。つまり、FODMAPは過敏性腸症候群の一つの因子であり、それがすべてではない。しかし、それを制御すること、つまり、低フォドマップ食はフローチャートの流れを停止させる重要な位置にある。それが、私がいきついた低フォドマップ食の考え方です。結論として、高FODMAP、そのものが過敏性腸症候群の唯一の原因ではないが、低フォドマップ食は、過敏性腸症候群の症状行きつくまでの流れを阻止することができる。

333図1
過敏性腸症候群のアルゴリズム(黒塗りは未公開のため公開できません)