ピロリ菌陽性胃癌は「がんもどき」?

宇野


 

 

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近藤誠氏の「患者よ、がんと闘うな」

が出版されたのは、1996年である。

 

放置しても死ぬこともない「がんもどき」を検診で見つけて、「癌だ、癌だ」と大騒ぎをして、治療した後、「良かったですね。命が助かりましたね」と、患者を救ったと自画自賛し、人を助けたと思い込んでいるだけではないのか?

消化器内科で内視鏡を仕事にしていた私にとって、

それは大きな衝撃であった。

私だけではなく、

全国的な影響も大きく、消化器がん検診学会の全国学会の会場は一時期ガラガラとなった。
(鹿児島の学会など)

自分たちが、なにも役に立たない事をしているのではないか?という気持ちが関係者に漂っていた。


ある学会会場で、

(故)丸山雅一(元早期胃胃癌検診協会理事長)が、
「近藤説も一理ある」というようなことを言ったところ、

会場から、中年(失礼。。。)の女性が立ち上がり、

「今の発言は、これまで、先生を信じてついてきた検診の関係者に対する裏切りです!撤回してください!丸山先生は、近藤先生と闘ってください!」と、泣いて叫んだのである。

その後、消化器癌診断学の超一流の論客であった丸山雅一氏は、近藤氏を大いに批判した。
(丸山雅一:がんと向き合う精神―「患者よ、がんと闘うな」を読む)

それは、非常に面白い時代であったが、

日本の早期胃癌≒「がんもどき」

というレッテルは、私の心に残っていた。

2011年の近藤氏の著書では、

胃がんの発見率が高く、治療しても、治療しても、

胃癌死亡数が減少していないことから、やはり、「がんもどき」の早期癌を治療しているだけではないかと記された。(近藤誠. 抗がん剤だけはやめなさい.  文春文庫、2011)

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ところが、その後、

胃癌≒ピロリ菌感染

の関係がクローズアップされるようになり、

いつのまにか、

「がんもどき」が忘れられ、

ピロリ菌を除菌すれば、日本で胃癌の発生が減り、

胃癌死亡も減少するという仮説が立てられた。

しかし、

2013年からピロリ菌除菌適用が拡大してからも、胃癌発症数は増加し続け、胃癌死亡数は2010年から若干減少傾向にあるが、年齢調整死亡率に有意な変化はない。つまり、除菌による胃癌死亡抑制効果は確認されていない。

 

私は、毎日、胃の内視鏡を行っているが、自分の会話で、気が付いた。

「ピロリ菌が陰性ですが、陰性の場合は陽性よりも胃癌になりにくいんです。でも、胃癌になると、陽性よりも死にやすいんです。見つかったら、死んでしまう人が多いんです。」

「ピロリ菌陽性ですから、胃癌になりやすいのですが、胃癌になっても、10年生存率は80%というデータもあります。つまり、胃癌になっても、簡単には死にません。」

そんなことを言っているうちに、

ふと気が付いたのです。
『そうか、ピロリ菌による胃癌は、ゆっくり癌、つまり、がんもどきのようなものか?』

111図1


ピロリ菌陽性の胃癌が全て「がんもどき」ではないが、かなりの率で「がんもどき」が含まれるのではないか?

しかし、近藤説の「がんもどき」は、「治療をしなくとも、放置しても、死なない」
ということのようであるが、それは、どうも違うようである。

ピロリ菌の除菌が始まる前の、2000年までの日本のデータでは、
早期胃癌が発見されて、無治療の場合の自然経過は以下であった。

222図1

Tsukuma H, Oshima A, Narahara H, Morii T. Natural history of early gastric cancer: a non-concurrent, long term, follow up study. Gut 2000;47:618-21.

昔の早期胃癌の5年生存率は37%であった。
このなかに、ピロリ菌陽性がどれほどあったのかは不明であるが、この研究は1980年代から開始されたものであるため、ほとんどのケースはピロリ菌陽性であったと推察される。

つまり、ピロリ菌陽性の早期癌は近藤説の「がんもどき」ではない。
しかし、切除治療さえしてしまえば、予後が極めて良く、死亡しにくい。
すなわち、
ピロリ菌除菌などせずとも、胃癌を発見し、治療さえすればいいだけの話である。