宇野良治、医師、医学博士
Office Uno Column
ひき続き、再公開します。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
初回公開日:20143年10月22日
乳酸菌で便秘になる理由
英国研究クループの発表から
宇野良治
2014年5月に発表された英国の論文から、乳酸菌で過敏性腸症候群や便秘を来す理由を考察する。その抄録とイントロダクションと結果は以下に示す。
World J Gastroenterol. 2014 May 7;20(17):5000-7. doi: 10.3748/wjg.v20.i17.5000.
Caecal pH is a biomarker of excessive colonic fermentation.
Farmer AD, Mohammed SD, Dukes GE, Scott SM, Hobson AR.
Abstract
AIM: To ascertain whether caecal pH is different in patients with irritable bowel syndrome (IBS), whose primary symptoms are bloating and distension, to healthy controls.
METHODS: Motility and pH data were reviewed from 16 patients with Rome III defined IBS and 16 healthy controls, who had undergone a wireless motility capsule (WMC) study using a standardized protocol. Motility measures were anchored around known anatomical landmarks as identified by compartmental pH changes. Sixty-minute epochs were used to quantify antral, duodenal, ileal, caecal and distal colonic contractility. The maximum and minimum pH was measured either side of the ileo-caecal junction.
RESULTS: No differences were seen in motility parameters, compartmental transit times or maximal ileal pH between the two groups. Caecal pH was significantly lower in patients compared to controls (5.12 ± 0.05 vs 6.16 ± 0.15, P < 0.0001). The ileal:caecal Δchange was greater in patients than controls (-2.63 ± 0.08 vs -1.42 ± 0.11, P < 0.0001). There was a significant correlation between caecal pH and right colonic contractility (r = 0.54, P = 0.002).
CONCLUSION: Patients with bloating and distension have a lower caecal pH compared to controls. The measurement of caecal pH using the WMC provides a quantifiable biomarker of fermentation potentially identifying those patients that may preferentially benefit from antibiotic or dietary interventions.
Keywords: Caecal pH, Caecoparesis, Bloating, Colonic microbiota, Fermentation
Core tip: Colonic bacterial fermentation has been implicated in the pathogenesis of irritable bowel syndrome. Hitherto, the measurement of fermentation in vivo in humans has been invasive and technically challenging. A major by product of colonic bacterial fermentation are short chain fatty acids. These short chain fatty acids act to reduce colonic pH. Herein, we demonstrate that the measurement of caecal ph using the wireless motility capsule provides a quantifiable biomarker of fermentation potentially identifying those patients with irritable bowel syndrome that may preferentially benefit from antibiotic or dietary interventions.
INTRODUCTION
Bloating and distension are both common and vexatious symptoms with community-based estimates of prevalence of 19% and 8.9% respectively[1]. Bloating is largely regarded as a subjective sensation of abdominal swelling, whereas distension refers to an observable increase in abdominal girth[2]. Bloating is associated with a reduction in quality of life, is a cause for healthcare seeking and represents a considerable challenge to manage effectively[3,4]. Bloating and distension are common complaints in patients with functional gastrointestinal disorders (FGID) such as irritable bowel syndrome (IBS) and functional dyspepsia[5-7].
The pathophysiological mechanisms that account for bloating and distension are poorly understood. They have been proposed to include disturbances in the handling of gas and its elimination from the gastrointestinal (GI) tract[8], psychological factors[9], carbohydrate malabsorption[10], musculoskeletal abnormalities[11], sensorimotor aberrancies[5], small intestinal bacterial overgrowth (SIBO)[12] and alterations within the GI microbiota[13].
The human microbiota is a complex symbiotic ecosystem residing largely in the GI tract. The composition and concentration of the microbiota varies along the length of the GI tract[14]. In humans, the colon receives digested material from the small bowel where it is mixed, stored and eventually excreted as faeces. The anaerobic breakdown of carbohydrates and protein by bacteria, largely occurring within the proximal colon, is through a process known as fermentation, the principal products of which are short chain fatty acids (SCFA)[15,16]. The direct in vivo measurement of SCFA concentrations in the human proximal colon is technically difficult and invasive[17,18]. Given that the degree of bacterial fermentation is directly proportional to the concentration of SCFA, the measurement of segmental intra-colonic pH is an inverse surrogate proxy of the degree of fermentation occurring within that territory[19]. It has been over 40 years since the stereotypical pH profile of the GI tract was first investigated using radio-telemetric techniques[20]. Upon entering the acidic environment of the stomach there is an immediate fall in pH, followed by a sharp rise on exiting the stomach, and a further fall in pH some hours later, a fall hypothesized to occur across the ileo-caecal junction (ICJ)[21]. Until recently, controversy remained as to the exact location of this fall in pH, as previous methods directed at validating position of the capsule within the GI tract were subject to limitations, particularly regarding accurate anatomical localization. These concerns were resolved in a study by Zarate et al[22], using a dual-scintigraphic technique of direct GI manometric measurements and pH evaluation using a wireless motility capsule (WMC), demonstrating that the drop in pH did indeed occur across the ICJ. The WMC is an ambulatory and relatively non-invasive diagnostic technique that continuously samples intraluminal pH, temperature and pressure as it traverses the GI tract. As changes in GI microbiota and fermentation have been linked to the development of bloating and distension, it is not known whether the measurement of caecal pH and the pH gradient across the ICJ, using WMC, offers a relatively non-invasive objective surrogate biomarker of this process. The WMC also allows examination of the hypothesis that these pH changes influence motility and transit parameters. In this retrospective study we aimed to address these knowledge gaps
盲腸のpHは、過度の結腸発酵のバイオマーカーである
要旨
目的:健常者を対照として盲腸のpHは、膨満感や膨満のある過敏性腸症候群(IBS)の患者と異なるかどうかを確かめること。
方法:ローマIIIの診断基準によりIBSと診断した16人と、16人の健康な対照に対し、標準化されたプロトコルを使用して無線運動性カプセル(WMC)による計測を行った。腸の運動性測定の部位認定はpHの変化によって識別されるように既知の解剖学的位置設定の方法で行った。60分のepochsは、幽門、十二指腸、回腸、盲腸および遠位結腸の収縮性を定量化するために使用された。最大および最小pHが回腸盲腸接合部の両側として測定した。
結果:回腸では両群間の運動パラメータ、区間の通過時間または最大のpHの差異はなかった。盲腸のpHは、対照と比較して、患者で有意に低かった(5.12±0.05対 6.16±0.15、P <0.0001)。回腸と盲腸の変化は、コントロールよりも患者で大きかった(-2.63±0.08対-1.42±0.11、P <0.0001)。盲腸のpHおよび右結腸収縮の間に有意な相関があった(R = 0.54、P = 0.002)。
結論:膨満感や膨満を有する患者は、対照と比較して盲腸のpHは低い。WMCを使用した盲腸のpHの測定は、潜在的に抗生物質または食事介入から利益を得ることができる患者を特定する発酵の定量化として可能なバイオマーカーになりうる。
コアのヒント:結腸内の細菌発酵は過敏性腸症候群の病因に関与している。これまで、生体内の発酵の測定は侵襲的かつ技術的に困難であった。結腸細菌発酵の副産物は短鎖脂肪酸である。短鎖脂肪酸は結腸のpHを下げるように作用する。本論文では、ワイヤレス運動性カプセルを使用して、盲腸のpHの測定し、潜在的な抗生物質の関与や食事介入の有効性を知り得ることで、発酵の定量によって過敏性腸症候群を有する患者を診断できるバイオマーカーになりうることを実証する。
はじめに
膨満感や膨満は、それぞれ19%と8.9%の有病率であり、両者は社会生活での好ましくない症状である[1]。膨満は腹囲で観察増加を指すのに対し、膨満感は、主に、腹部の主観的な感覚である[2]。膨満感は生活の質の低下に関連付けられた医療を要する原因であり、効果的に管理する必要がある[3、4]。膨満感や膨満は、過敏性腸症候群(IBS)および機能性消化不良のような機能性胃腸障害(FGID)の患者での一般的症状でもある[5-7]。
膨満感や膨満を占める病態生理学的メカニズムはよく理解されていない。これらは、胃腸管からのガスの除去処理における障害[8]、心理的要因[9]、炭水化物吸収不良[10]、筋骨格異常[11]、感覚異常 [5]、小腸細菌異常増殖(SIBO)[12]、腸内細菌叢の変化[13]が関与していると考察されている。
人間の微生物は、消化管に主として居住する複雑な共生生態系である。腸の細菌叢の組成および濃度は、消化管の長さによって変化する[14]。人間では、大腸が小腸からの消化された材料を受け取り、混合保管され、最終的に糞便として排泄される。主として近位結腸内で発生する細菌による炭水化物およびタンパク質の嫌気的発酵として知られるプロセスを介して、主に短鎖脂肪酸(SCFA)が産生される[15,16]。直接in vivoでのヒト近位結腸におけるSCFA濃度の測定は、技術的に困難であり、侵襲的である(死直後の剖検、手術時の測定)[17,18]。細菌発酵の程度はSCFAの濃度に正比例すると仮定すると、結腸の区域内のpHの測定は、その地域内で発生する発酵の度合いと反比例する関係にある[19]。消化管のpH測定は40年以上前から遠隔ラジオ無線技術で研究されてきた[20]。これまで、胃の酸性環境から出ると急激のpHが上昇し、その数時間後にpHの更なる変動があり、それが回腸盲腸接合部に発生するという仮説があった[21]。しかし、消化管内のカプセルの位置を確認した研究では、そのpHの急激な変化は盲腸の正確な解剖学的局在を反映していないのではないかと最近まで、論争されてきた。しかし、これらの懸念は、2010年、サラテらによる研究で解決された[22]。それによれば、無線運動性カプセル(WMC)を用いた直接GIマノメーター測定とpHの評価のシンチグラフィー技術を使用して測定した結果、pHの急激な低下が実際に回盲弁を超えて渡って発生しなかったことを実証した。WMCは、連続的に管腔内のpH、温度および圧力を歩行中でも測定できる、比較的非侵襲性の診断技術である。消化管の微生物叢と発酵の変化は膨満感や膨満の発生に関与しているが、WMCを使用して、盲腸のpH及びpH勾配を測定することは、間接的に発酵の程度を知る比較的非侵襲性の客観的なバイオマーカーとなり得る。また、WMCはまた、pHの変化は運動性と通過時間のパラメータに影響を与えるという仮説の検証も可能である。
材料および方法
患者:省略
健常対照群:省略
除外基準:省略
ワイヤレス運動性カプセル調査:省略
コンパートメント通過時間:省略
運動性の測定
WMCは消化管通過時間を測定することに加えて、また、腸管の収縮と収縮の振幅の周波数を測定し、消化管の横断管腔内の圧力を測定することができる。運動性は、pHのランドマークの周りに固定された曲線(AUC)下の領域として提示されている。
盲腸のpHの定義
WMCによる盲腸のpHは、サラテらによって定義された方法に従って、回腸ピークからの低下し、その底値で安定したpHと定義した。
典型的な無線運動性カプセルの表示。回腸盲腸接合部の温度(青線)、pH値(緑線)と収縮(赤線)を示している。盲腸のpHは、回腸盲腸で安定したpH最下点と定義した。
統計分析:省略
結果
参加者の特徴:省略
区域間の通過時間:コントロールとIBS群に差はなかった。
運動性の比較
幽門、十二指腸、回腸、患者と対照の間に盲腸と結腸運動における目立った差はなかった。
区域のpHの比較
患者と対照の間で回腸までのpHの目立った違いはなかった(7.7±0.1対7.6±0.1 、P = 0.17)。しかし、盲腸のpHは、対照と比較して患者で有意に低かった(5.12±0.05対 6.16±0.15、P <0.0001)。
回腸と盲腸のpH差:盲腸の収縮に盲腸のpHおよび盲腸のpHとの関係
回腸と盲腸のpH差は対照と比較して患者で有意に高かった(-33.8%±0.84対 -18.7±1.5、P <0.0001)。
また、盲腸のpHと右結腸収縮の間に相関関係があったR = 0.54、P = 0.002)。
考察(抜粋)
本研究では、IBSでは、対照と比較して有意に低い盲腸のpHを有することを実証した。
大腸の酸性の環境は、発酵およびその後のSCFAの産生によって維持される。
盲腸の過剰な発酵は盲腸収縮性の減少と相関することを観察した。
短鎖脂肪酸濃度は盲腸(127ミリモル/リットル)で最大で、横行結腸(117ミリモル/リットル)から次第に下降し、遠位結腸(90ミリモル/リットル)であり、区域での差がある[17]。
発酵基材の濃度は、小腸から盲腸に流入した時が最高であり、最大の発酵が鼓腸および膨満が右結腸内で起こることを示している[27]。
IBS患者における研究では、結腸発酵の関与が指摘されてきたが、一致した見解はなかった[28.29]。
タナらは高性能ガスクロマトグラフィーを用いてSCFA濃度を測定し、短鎖脂肪酸が高くなるとIBSの患者消化器症状が悪化し、生活負担となることを示した[30]。
ヒトでは、短鎖脂肪酸の90%-95%が酢酸、プロピオン酸および酪酸から構成され、塩と水吸収の刺激、結腸粘膜の血流を調節、抗発癌性、免疫調節などの利点が考察されている。
また、短鎖脂肪酸は消化管運動を修正する腔内化学的刺激として機能するが、これらの効果は刺激または阻害であるかどうかは、実験方法の違い、実験動物の違い、対象消化管部位の違いによって様々な結果が出ているため。不明としかいいようがない。
ヒトで短鎖脂肪酸を結腸内注入したという実験では、運動性に影響を与えることが示されていなかった[44]。
今回の研究結果で、pHおよび盲腸の収縮との間の相関を実証した。
人間において短鎖脂肪酸濃度の上昇と盲腸の発酵上昇が、近位結腸の運動活性を阻害するか停滞の度合いにつながることが示された。
これまでの動物実験では、短鎖脂肪酸が遠位結腸、あるいは菌胃結腸の運動を抑制する、あるいは促進するなどの定まった見解は得られていないが、大腸の区域での短鎖脂肪酸の作用の違いは認識されている。
・・・・・・・・・・・・
簡単にまとまめると、
これまで大腸での短鎖脂肪酸の作用については、人間での実験は非常に難しかったため、詳細がわからなかった。そのため、主に動物実験が行われてきたが、その結果が人間にマッチしたものとはいえなかった。短鎖脂肪酸が増えると大腸のpHが反比例して減ってゆくため、大腸のpHを測定することで、短鎖脂肪酸が大腸機能に与える影響を知ることができる。特に盲腸では短鎖脂肪酸が最も多い部位なので、その盲腸でのpHと腸管の動きを知ることで短鎖脂肪酸の影響を調べることができる。しかし、カプセルpH測定器での解剖学的位置の同定が不確かであったため、それらの研究は不確かなものであった。しかし、2010年から、カプセル測定器での盲腸の位置が正しく判定することができるようになった。そして、pHと腸の動きを同時に測定できるカプセル装置を用いて人間で測定したところ、盲腸のpHは、過敏性腸症候群の患者は健常者よりも低く、さらにpHの値と腸の動きに相関関係を認めた。つまり、短鎖脂肪酸は、腸内のpHを低下させるとともに、腸(盲腸と右側結腸)の運動を阻害するということがわかった。
・・・・
以上である。
つまり、こういうことである。
(図)
さて、
人間の右側結腸とは、上行結腸から横行結腸の中ほどまでを示す。
人間の排便は、この部分から生じる大蠕動によって、急速に便が直腸まで運ばれることから始まる。
(図)
慢性便秘ではこの大蠕動が失われていることが多い。
今回の英国の研究報告では、短鎖脂肪酸が多いほど、pHが低いほど、右側結腸の動きが悪化すると導かれた。
このことは、短鎖脂肪酸が増える食事、大腸のpHを下げる食品を摂取することは、大蠕動を抑制し、便秘になることを意味している。
前々回、記した疑問、
つまり、なぜ、医師、医学者は「乳酸菌が便秘に有効」という、
臨床の現場と矛盾した「定説」を受け入れて来たのか?
という答えは、
「2010年まで、正確な腸管位置を同定したpH測定や運動性の評価が、人間の実験では困難であったため」
と結論できる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<後記>
その後、私は、論理的に
人間の大蠕動は飲食によって物理的に誘発される影響が大きい
と結論した。
しかし、物理的影響による推進力は、盲腸から右側結腸の拡張
と運動抑制があれば、止まってしまう。つまり、それが便秘の理由ある。
医師の父が生きていた頃、学会から帰ってこう言った。
「最近の研究は動物研究ばかりで、人でやってもいないのに、
人に効果があるでしょうという。証拠もないのに。
あれはねえ、動物学で、医学ではないな。」
乳酸菌は乳酸を産生し、pHを下げます。
「われは海の子」って歌ありますが、
海のpHって知ってますか?
8.1です。弱アルカリです。
人間の血液pHは平均7.4
実験動物のpHは?
マウスは7.39
モルモットは7.18-7.56
ブタは7.3
ちなみに、
爬虫類は7.5~7.7
2022年9月27日 宇野
新着ランキング1位!
Twitterフォローで応援お願いします!!
電子版のみ販売継続中です。
https://bccks.jp/bcck/146814/info