法律相談では、弁護士は相談者が話してくれた事実、見せてくれた証拠の範囲で把握した事実に基づいて、相談者が今後とりうる方法やその場合の見通しを評価します。事実関係の中で重要なことがらについて相談者が話してくれず、その結果弁護士が知らなければ、弁護士が判断して回答したことは結果的に誤りになりかねません。
 相談者が重要な事実について話さないのは、相談者がその事実の重要性に気がつかない(重要でないとか関係ないと思った)場合が多いと思いますが、相談者がそのことが自分に不利だと思って話さないというケースもあります。

 相談者が自分に不利だと思って言いたくない事実の中には、実はたいして不利でなかったり、不利な事実に思えることが書かれている書類に実は別のもっと重要な有利な事実が眠っていたり、さらにはその事実自体が実は相談者に有利に使えるものだったりすることもあります。
 今どきは少ないとは思いますが、例えば多重債務の相談でずいぶん前から貸し借りを続けていたのに最近追加で借り入れたことしか言わなかったり、過去に借りて完済した業者のことを隠したりする人が多数いました。たくさん借金をしたことが恥ずかしいわけです。今なら多くの人がわかるように、そういうものは実は過払いでお金を取り戻すチャンス、いわば宝の山を眠らせることになりかねないことです。
 解雇されたり解雇をちらつかされているという労働相談で、使用者側から古い過去のミスを指摘されているというようなことを隠したがる人もいます。ミスがあったことは事実で、本人は解雇を争う上で不利だと考えるわけです。もちろん、そのほかにいわれている解雇理由や、そのミスがどの程度重大なものかとかその後これまでの経緯にもよりますが、解雇理由で古いミスが言われることはむしろ実質的な解雇理由がない言いがかりだという方向で評価されることも十分にあり得ます。

 相談者が言いたくない事実は、弁護士の方で相談者の話や見せてくれた資料から考えられることを質問するうちにでてくることもあります。弁護士の質問は必ずしも話してくれた事実や見せてくれた資料から論理的に出てくることに限らず、相談者の表情やいいよどみなどから気になったり、もっと直感的に聞くこともありますし、特に狙いがある訳でもないけど何となく聞くこともあります。
 相談者が相談が一段落ついたところで、実は…と言い出すこともあります。
 弁護士が質問できるかは、私はそれなりにアンテナを張っているつもりではありますが、やはりかなり偶然的だと思います。弁護士だって何でも見抜けるわけじゃありませんし、法廷で反対尋問をするときと違って、法律相談では基礎的な情報が少ないですし、そのために準備をしているわけでもないですし、相談者は証言を崩すべき「敵」でもありません。法律相談では、私は、相談者の有利に使えそうな事実、特に誰でもわかるような明らかに有利な事実ではなくて相談者が気がついていないかもしれない有利な事実をできるだけ発掘したいと思いながら聞いています。その網に相談者が主観的には不利と思っている事実がうまく引っかかるかは、できるだけすくい取りたいとは思いますが、そのときどきです。
 相談者が自ら話すのは、話をするうちに次第に弁護士との信頼関係ができてきたということか、やはり気になるので確認したいからだと思います。相談の終盤でも話してくれるのはありがたいことです。弁護士としては、それが相談者に本当に不利な事実の場合でも、話してくれれば他の事実と合わせて、何かその不利をリカバーする方法を考えられることもありますし、いずれにしても客観的には誤った回答で相談者を誤解させたまま帰すことを避けられます。相談者の方でも、自分が不利だと思って話さなかったことを話さないまま帰ったら、せっかく弁護士からよい回答を得たとしても、どこか不安が残り気持ちが悪いと思います。

 私は法律相談の際の事実関係の発掘は弁護士と相談者の共同作業だと思っています。その共同作業がうまく行ったとき、法律相談もいい結果を出せるのだと思います。相談者が自分が不利だと思う事実を隠すのは、相談者が悪いというわけでもなく、弁護士がそれを見抜けないのが悪いということでもないと思います。ただ相談者が不利だと思っているのであればなおさら、それを胸の内に抱えながら話さずに帰っては相談者にとって心が晴れないでしょうし問題解決にもならず不幸なことです。できるだけそうはならないでいい相談にしたいなと思っています。