労働事件では、労働者が解雇されたり自ら退職して勤務先を離れた後に裁判等になることが多く、在職中に裁判等になることはあまり多くありません。労働者は一日のかなり多くの時間を職場で過ごしますし、収入のほとんどはその職場から得ていますから、在職しながらその職場の経営者と裁判等をするというのは負担が重すぎるということでしょう。
 そういうことから、弁護士が在職中の労働者から労働問題について相談を受けた場合、直ちに依頼を受けて事件になるということは少なく、また相談の結論としてもとりあえず仕事を辞めたくなければ頑張れというようなことになることも多くなります。
 では、労働者が労働問題について在職中に弁護士に相談してもあまり意味がないかというと、そんなことはありません。

 例えば経営不振などを理由に給料を減額するという通告を受けた場合、労働者が合意書に署名したりしなくても、文句を言わずにその減額された給料を受け取り続けていると、労働者側も給料の減額を承認したという扱いをされかねません(そういう裁判例があります)。
 例えば契約期間を決めて(1年間とか)労働契約をしてそれを繰り返し更新してきた契約社員に対して、使用者側が契約を更新する時に今回でおしまいで次は更新しないと言ってきた場合(契約書に「不更新条項」を入れてきた場合)、本来は繰り返し更新しているので理由なく雇い止めできなくなっている労働者でも労働者が不更新条項に文句を言わないでいると、不更新条項が有効に成立したと扱われかねません(そういう裁判例があります)。
 このように、使用者側が労働者に一方的に不利な労働条件の変更を通告してきた場合、力関係から労働者側で拒否できないことが多いのですが、それでも黙っていたら後日闘うことになっても不利な取扱を受けてしまいます。弁護士に相談してもらえば、労働者からその職場の状況や使用者側の説明、さらにはその使用者が設けている職場の制度内容などの情報を得て、どういうことができるか、現時点で何をするか、将来に向けて何を準備できるかなどを助言するというか、一緒に考えることができると思います。

 退職勧奨を受けた場合、使用者の退職勧奨の理由や提示してきた退職条件なども考慮して、どのような対応が可能か、退職勧奨自体への対応や退職勧奨を拒否した場合の使用者の対応(解雇してくるか等)の見込み、将来に向けて今から準備すべきことなどを、弁護士と話し合うことができます。
 退職勧奨の際に、自ら退職しないなら懲戒解雇する、そうしたら次の就職にも響くなどと労働者を脅す使用者が少なくありません。そういう相談事例では、弁護士の目からはとても懲戒解雇などできそうもない(裁判になったら解雇無効になる)ささいなことをとりあげておどろおどろしいことをいっているケースをよく目にします。
 労働事件では、労働条件や会社が設けているさまざまな制度は、実は法律で定められていなくて労働契約や就業規則等の会社の規則類で決められていることが多く、弁護士もそういった会社の規定類や制度の説明書類を持ってきてもらわないと有効な対策が立てられないことがあります。最近では給与明細さえペーパーレスで会社のコンピュータからしかアクセスできないということも増えています。そういう書類は、解雇されてしまうとその後は入手できないということになりかねません。また、退職勧奨の際の会社とのやりとりなども、通常は密室で労働者側は1人ですから、録音でもしておかないと後から立証できないということになりかねません。
 この問題で後で争いになった時にどのような証拠や書類が必要か、今の段階で将来に向けて何を準備しておくかなどを、早めに弁護士と協議しておくことで、のちに争いになった時に、少しでも有利に進められる可能性が出て来ます。

 例えば残業代請求をしたいという場合、出勤時刻と退勤時刻をどうやって立証するかとか、その会社の制度を検討することで使用者が何を主張してくるか、残業代請求で問題になりそうな点は何かなどを予め検討して対応策を準備することもできます。

 さまざまな問題で、何か気になることがある場合、弁護士はその時点で直ちに裁判等をすることが好ましくないようなケースでも、問題点を指摘したり、相談者のために現時点でどういう行動が可能か、よりよい結果につながるか、将来に向けて何を準備しておくかなどを助言したり相談者と一緒に考えることができます。
 労働事件の場合、その労働者の労働条件や会社ごとの制度によりその労働者のために考慮したり使える材料が変わってくるので、労働契約書や就業規則などの規則類、さらには会社が関連する制度等について説明した資料など(あと給与明細も意外に役に立つことが多いです)はできるだけ相談の際に持ってきてもらえると、より有効な対策を考えられると思います。