懲戒解雇された場合、使用者に解雇予告手当の支払を請求できるでしょうか。
 労働基準法は、使用者が労働者を解雇するときは少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならないと定め、使用者が30日(以上)前に予告しないときは、平均賃金の30日分以上を支払わなければならないと定めています。これを解雇予告手当と呼んでいます。(20日前に予告したというような場合は、解雇の日までの20日分の日割り賃金と、10日分の解雇予告手当を払うことになります)
 労働事件をそれなりに扱っている弁護士の感覚では、答えは、「たいていの場合は請求できる」、より正確には、「使用者が労働基準監督署から除外認定を受けた場合以外は請求できる」です。

 政権の言葉では「労働規制の緩和」、実質は労働者の権利剥奪・労働者いじめに熱心な安倍政権の手で、現在「国家戦略特区」なるものが推進されています。この「国家戦略特区」に進出する「グローバル企業及び新規開業直後の企業等」がわが国の雇用ルールを的確に理解できるように「雇用労働相談センター」なるものが設置されることになり、そこでの相談で使われるものとして「雇用指針」というものが定められました(実物はこちらで入手できます)。
 この雇用指針では、懲戒解雇について、次のように書いています。
「懲戒解雇は懲戒処分の最も重い処分であり、通常は解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、また、退職金の全部又は一部が支給されない。」
 この記述は「雇用指針」の20ページにありますが、この指針のどこにも、解雇予告手当を支払わないためには労働基準監督署の認定(除外認定)を受けることが必要だということは書かれていません。厚生労働省が作成した(少なくとも関与した)文書で、労働基準法に明記されている手続が書かれていないということ自体驚きますが、弁護士の感覚では法律相談でこんな回答したら間違いと言うべきですし、恥です。

 労働基準法には、解雇予告手当について定めた条文の中に「ただし…労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない」という規定があります。これだけ読むと、懲戒解雇の場合は支払わなくてよいと読めそうです。しかし労働基準法ではその場合には労働基準監督署(条文では「行政官庁」)の認定(この認定を「除外認定」と呼んでいます)を受けなければならないという規定があります。その規定の仕方が、「前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する」という、業界人以外にはわかりにくい体裁のため、気がつきにくいのですが。
 そのため素人が書いたものには、先ほどの雇用指針の表現のように、除外認定のことに触れもしないで「懲戒解雇は懲戒処分の最も重い処分であり、通常は解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、また、退職金の全部又は一部が支給されない。」なんてものも多々あります。しかし、プロが除外認定のことに触れないで「懲戒解雇は懲戒処分の最も重い処分であり、通常は解雇予告も予告手当の支払いもせずに即時になされ、また、退職金の全部又は一部が支給されない。」なんて回答したら、誤りですし、恥なのです。

 労働基準監督署が除外認定をする際の基準は通達で定められていますが、例えば欠勤については「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」とされていて、要件としても簡単ではありません。また除外認定は原則として解雇日(解雇予告手当の支払期日)までに受けている必要があります(通達では、除外認定は原則として解雇の意思表示をする前に受けるべきものであるが、解雇後に除外認定がなされた場合遡って効力があるとされています。その通達には、除外認定申請を遅らせることは労働基準法違反だとも書かれています)。除外認定の申請に相当程度の資料を提出する必要があり、申請を受けた労働基準監督署は労働者への事情聴取も行いますから認定される場合でも相当の日数がかかります。そして、今説明したように除外認定の申請をすると労働基準監督署は労働者を呼び出しますので、除外認定を申請したことは労働者にもわかり、労働基準監督署が除外認定をしないと判断した場合にもそれが労働者に知れることとなります。
 そういうリスクを考えると、除外認定を受けられることが確実であり、しかも解雇までに日数的な余裕を持たせられる場合でなければ、除外認定申請をせず予告手当を払うよう助言するというのが、労働事件を扱い慣れている使用者側の弁護士の通常のパターンだと思います。
 ですから、労働事件を扱い慣れている弁護士の助言を受ける使用者は、懲戒解雇の場合でも解雇予告手当はたいていは払うというのが現実だと思います。

 「雇用指針」の表現通りの助言を受けた使用者が、除外認定の手続もしないで労働者を懲戒解雇し、「懲戒解雇だから解雇予告手当を支払わない」と言ったらどうなるでしょうか。
 この場合、労働基準法違反ですから、労働者が労働基準監督署に使用者が解雇予告手当を支払わないと申告したら、労働基準監督署から使用者に解雇予告手当を支払うように指導がなされます。解雇予告手当の不払いには罰則があります(規定上「6か月以下の懲役」もあります)から、普通の使用者は指導に従って支払うことになるでしょう。
 日本の法律を知らないと言って「雇用労働相談センター」に相談に行った外国企業の経営者がこんな助言を受けてそれを真に受けたら、だまされたと思うんじゃないでしょうか。財界の利害を最優先にする人たちに押されて発言力が小さくなっているという事情はあるとしても、厚生労働省が関与して作成した指針で、このようなレベルのものがまかり通るのは情けないし、間違った情報を与えられる経営者にも、それにより使用者から不当な扱いを受けることになりかねない労働者にも不幸なことです。

 懲戒解雇だからといって、除外認定も取っていないのに解雇予告手当は払わないと言われた労働者はどうすべきでしょうか。解雇予告手当は平均賃金の30日分です(30日未満ではあるが予告期間がある場合は、より少なくなります)から、そのために法的手続を取るとかそのために弁護士に依頼するというのは費用倒れになりがちです(労働審判ではなく裁判を起こす場合には、解雇予告手当と同額の付加金の支払が命じられることもあります。しかし、付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の自由ですので、必ず命じられるわけではありません)。先に説明したように、この場合は労働基準法違反なので、労働基準監督署に申告すれば、労働基準監督署が使用者に支払を指導してくれることが多いと思いますから、まずはそうしてみるべきでしょう。
 「雇用労働相談センター」は労働者からの相談も受け付けるようですが、このような「雇用指針」に基づいて助言されるのなら不安ですね。
 なお、解雇予告手当を請求するのは、解雇は争わない(解雇は有効と認める)ことが前提ですので、懲戒解雇が不当だ(無効だ)と主張する場合は、解雇予告手当請求ではなく、地位確認(解雇無効)の訴訟や労働審判などの手続を取るということになります。

 解雇予告手当の除外認定の問題以外の点も含めて、この「雇用指針」には労働相談の実務上間違いであったり不適切な記載がいくつかあるので、第二東京弁護士会労働問題検討委員会では、それを指摘した意見書を作ることになり、現在作業しています。
(2014年6月21日)