堀江貴文 元社長堀江貴文・ライブドア元社長(35)は言った。東京都港区のホテルに、黒いTシャツ姿で現れて。「ぼくは本は読まないんです。本は固定された情報なんで、古くなっているものもあるし、余計な表現もあって、読むのが大変なんです」。以前からですか? 「そうですね。拘置所の中ぐらいです、読んだのは。『沈まぬ太陽』(山崎豊子著)とか、経済ものも。時間がいっぱい余ってやることがなかったんで」

 後から、元社長が読んだ「まんがで読破 蟹工船」(イースト・プレス社)に目を通すと、10分で読了。なるほど早い。先日、久しぶりに開いた小説は3時間かかった。劣悪な労働条件を強いる資本家に、労働者が団体で立ち向かうという流れは原作と同じだが、記者には漫画の絵は迫力がありすぎた。

 さて、ホリエモンの蟹工船評である。「若い人に人気といっても、とりあえず読んでみたという人が多いんじゃないでしょうか。今の現場はあんなひどくはないでしょ、多分」。経営者としても、実感がないという。「ライブドアは本社だけでも1000人を超えていたけど、正社員とバイトだけで、派遣社員はいなかった。他の社員たちには申し訳ないけれど、優秀な技術者が何人かいれば、稼いでくれると思っていた。そういう人たちのモチベーション(動機付け)が上がるように賃金を払えばいいと考えていた」

 元社長自身、社員の経験はない。東大在学中に起業し、アルバイトと経営者という立場だけだ。「新卒って何だろうって思っていました。大学3年のころから就職活動してという、みんなが当たり前と思っていることが好きじゃなかった。自由に働きたいから会社をつくったわけです。スーツを着たくないし、出社時間も自分で決めたい。自分の好きなことを10年続けてきた。忙しいフリーターみたいな感覚でした」

向かい合うのは、4年ぶりだ。04年11月、プロ野球への参入を楽天と争い敗れ、仙台で会見した。あの時と比べると穏やかな顔つきだ。「そう言われます。時間の使い方が緩いから」。今も六本木ヒルズに住み、株や債券の運用、オーナーを務める会社の給料で生計を立てている。ゴルフや旅行に行くこともある。

 東京地検に、ライブドアの株価をつり上げる目的で買収発表で虚偽事実を公表したとして逮捕されたのは06年1月。それから3カ月後に保釈された思いを、自筆で公表した。

 当時の心境は。「ぼくはあんまり落ち込まないし、すごい良いことが続いても一過性のものだと思ってきた。諸行無常です。ああいう事件があろうがなかろうが、ずっとそうだった。ライブドアという会社を永続させたいとも思っていなかった。そういうふうに思っていたほうが、精神のバランスがとれるんじゃないですかね」。胸の前で、右手を波のように動かしながら続けた。「感情の起伏がこんなふうじゃ大変じゃないですか」。会社経営が順調な時も「(気持ちが)ハイになるんですけど、なり過ぎない」。拘置所にいた時も「検事が何か言っても、あまり落ち込まない」。

 若くして事業に成功し、大きな資産を手にした堀江元社長は「勝ち組」と呼ばれた。「勝ち組の象徴? どうなんですかね。勝ち負けの二元論を言われたところで、何かいいことありますか。興味はなかったですよ」。失礼だが尋ねた。自身の今の状況を、負け組とも思わないのですか? 「思わないですね。二元論で考えられることでもないかな。『負け組』っていい言葉じゃないですよね」