ヤマダ電機のポイント加算20%と現金割引15%はどっちが得か

20100603-00000001-president-bus_all-view-000

■行動経済学の普及で進化する販促理論

 ヤマダ電機に代表される家電量販店の多くにはポイント割引制度がある。現金やカードでの支払額に応じて、次の買い物での割引に使えるポイントが付与される。多くの量販店で同様の手法が取り入れられていることから、こうしたポイント制度が消費者の強い支持を受けていることがわかる。

 さて、ポイント制度で20%の還元を受けるのと、現金で15%引きとなるのでは、どちらがより得だろうか。
 ポイント分の精算にはポイントがつかないというのが要点だ。別表に1万円の商品を3回購入したときの試算を示した。最初の購入で2000円分のポイント還元が受けられるため、「500円得した」と思うかもしれないが、3回購入時でも現金割引のほうが総計の支払額は900円少ない。ポイント還元のほうが支払額が少なくなるのは9回購入時以降となる。
 なぜ見かけ上の還元率に騙されてしまうのか。行動経済学の知見によれば、そこには二つの心理的特性が関わっている。

 第一は「参照点依存性」。人は損得について、頭の中に定めた一定の基準からの変化で判断してしまうという性質をもつ。
 会社員のボーナスは本来、臨時収入である。しかし、もしボーナスがもらえない、もしくは前期より減額されていれば、大きく失望するだろう。それは前期の額が参照点となり、それとの比較で判断するからだ。「ポイント加算20%」の参照点は「20」で、頭の中ではそれを「現金割引15%」の「15」と比較する。その結果、「5%ダウン。現金割引のほうが損だ」と判断してしまうのだ。

 第二の理由は「フレーミング効果」。人は提示の仕方(フレーミング)によって、同じ現象にも正反対の印象をもつ恐れがある。たとえばコップに半分の水が入っている場合、「まだ半分残っている」と捉えるか、「もう半分に減ってしまった」と捉えるかで、印象はまったく異なる。こうした「フレーミング効果」は、人間の判断に大きな影響を及ぼすことが知られている。
 今回の場合、「ポイント加算」というフレームを与えられると、反射的に「何かもらえる」という印象を受ける。一方、「現金割引」では、「支払う金額」に着目してしまう。頭の中でこの二つを比べたとき、人は、どちらかといえば「払う」より「もらえる」ほうに引きつけられる。

 意思決定を偏らせる人間の心理的特性には、ほかにも「時間割引」や「決定麻痺」など多くの種類があり、性差や年齢、職業や国民性に応じて異なる。
 たとえば「2時間後にもらえるケーキより、すぐにもらえるケーキのほうが嬉しい」と感じるのは満足度が「時間割引」されるからだ。この割引率は、実験により、女性より男性、中年より老人や若者のほうが高いことがわかっている。中年女性はより我慢強く、若い男性は目の前の損得にこだわる傾向が強い。
 またエアコンやテレビなど商品選びに多数の選択肢がある場合、経済合理的にベストな選択を下せない「決定麻痺」が起こりやすい。最近、「エコポイント制度」の是非が話題にのぼるが、「環境にやさしい」といった価格以外の理由を与えられると、購買行動はスムーズになる。行動経済学の立場からは、消費拡大にそれなりの効果をもたらした施策だったと評価できる。

 2002年にダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞、行動経済学の認知が高まった。これまで担当者の経験や感覚で行われていた消費者政策の理論化が進んでいる。各社が似たようなポイント制度を導入するのも頷ける。