マイクロソフトはモバイルの「第3の勢力」になれるのか?

昨年6月発売のau「IS02」(東芝)以降、日本ではWindows系のOSを採用したスマートフォンが発売されておらず、この分野でのマイクロソフトの存在感は低下している。だが海外では最近、スマートフォン向けの新OS「Windows Phone 7」を採用した端末が注目を集めており、Windows Phone 7はアップル「iOS」、グーグル「アンドロイドOS」に並ぶ「第3の勢力」になるのではないかといわれている。日本でも年内には、Windows Phone 7採用端末が発売されるだろう。

 Windows Phone 7とはどういったOSなのか。なぜ今、注目されているのか。マイクロソフトはアップル、グーグルと争い、再びスマートフォンの覇権争いに加われるのか。現在開催中の「Mobile World Congress(MWC) 2011」から、その行方を探る。 MWC初日の14日、マイクロソフトCEOのスティーブ・バルマー氏が基調講演に立った。1時間弱の講演時間のほぼすべてを使い、Windows Phone 7の現状と今後を解説したバルマー氏。端末購入者の満足度の高さを強調するとともに、「アプリの数も順調に増えている」とした。バルマー氏によれば、Windows Phone 7端末購入者の93%が端末に満足しており、購入者の9割が知人に薦めているという。また、Windows Phone 7採用端末は約4カ月前に発売されたばかりだが、すでにアプリストアには約8000本のアプリが集まっているという。

 特に満足度の高さに関して、大きな原動力と考えられるのが、Windows Phone 7の独特の画面インターフェースだ。メイン画面は、アプリのアイコンが縦方向にタイル型に並ぶ独特のデザイン。単なるアイコンではなく、最近連絡のあった友人の写真、天気予報の内容などさまざまな情報が表示される「ライブ」なアイコンになっている。

 さらに、Windows Phone 7はOSのレベルでFacebookを統合している。電話帳機能は完全にFacebookと一体になっており、友人の近況と電話帳がひと続きに表示されるという、思い切ったつくりだ。

 今回の基調講演では、こうしたWindows Phone 7の特徴を活かしつつ、弱点の補強や次の差別化要素につなげるための新機能が多数発表された。まず、マルチタスクへの対応。これまでのWindows Phone 7は一部機能を除いてシングルタスクだったが、年内にマルチタスク化される。そして、「パソコン向けと同等」(バルマー氏)の、「インターネット エクスプローラー 9」ベースのブラウザーが、同じく年内に提供される。

 加えてバルマー氏が強調したのが、「インテグレーション(統合)」の重要性だ。年内にはFacebookに加えてツイッターの関連機能もOSに統合されるほか、マイクロソフトのオンラインストレージサービス「SkyDrive」との連係強化も発表された。また、Windows Phone 7は当初から、ゲーム機「Xbox 360」との連係機能を売りにしている。

 マイクロソフトが「インテグレーション」を強調する理由は、「今や消費者は端末を選んでいるのではなく、プラットフォームを選んでいる」(バルマー氏)から。アップルはiPhone、Apple TV、そしてiPadと端末群を広げ、iTunesと連係したさまざまなコンテンツの楽しみ方を提案している。端末とサービスが切り離せないものになった今、自社・他社を問わず魅力あるソフトやサービスを取り込んでいくことが不可欠なのだ。

 一方、端末に関しても、マイクロソフトは大きな手を打った。世界最大の携帯電話メーカー・ノキアとの戦略提携だ。提携自体はMWCの前に発表されていたが、今回のバルマー氏の講演ではノキアCEOのステファン・エロップ氏も登壇。「ノキアのデザイン力や最新のハードウエアを作る力を、Windows Phone 7で活かすことができる」と語った。さらにエロップ氏は、提携のメリットについて、Windows Phone 7とXboxの連係機能などを生かすことで「テレビなどあらゆる機器をターゲットとして取り込めるようになる」(エロップ氏)とした。

 優れた操作性や安定性、強力なオンラインサービスやゲーム機との連係など、すべてをワンパッケージで提供して差別化を図るマイクロソフト。ソフトやサービスの面で遅れを取っていたノキアが、それに乗った、という構図だ。

 端末メーカーとしては妥当な選択のようにも思えるが、一方ではマイクロソフトに主導権を握られる可能性も否定できない。実際、現状でWindows Phone 7端末を供給しているメーカーは、すべてアンドロイド端末も同時に開発しているメーカーだ(サムスン電子、LG エレクトロニクス、HTCなど)。

「2011年は、昨年以上に変化の早い年になる」と語ったバルマー氏。Windows Phone 7の先行きは、まずは今回発表した新機能をいかに早く提供するかにかかっているだろう。パソコン用と同機能の高速なブラウザーが提供されれば、それだけで大きな差別化要素になる。ただ、2大ライバル――アップル「iOS」とグーグル・アンドロイドも猛烈な勢いで進化している。追従するのは容易ではない。