東海道新幹線 「安全神話」さらに高め 地震対策を強化

20120519-00000561-san-000-0-view【関西の議論】

 日本の“大動脈”として、多くの利用者を運んでいる新幹線。最も早く開通した東海道新幹線があと2年で「50歳」を迎えようという中、全国の新幹線でいまだに「乗客の死者ゼロ」が続いており、高い安全性が実証されている。東海道新幹線を運行しているJR東海は、先月、東日本大震災の教訓などを得て、さらに地震対策の強化を行うと発表した。

「P波」で列車停止へ

JR東海が今月から工事にかかるとした機能強化は、まず、直下型地震に対する早期警報機能を強化するため、沿線に設置した地震計を改良。これまでは、地震のときにくる2つの波のうち、後からくる大きな波「S波」が一定以上になった場合に列車の停止指令を出す仕組みだったが、先にくる小さな波「P波」を感知した時点で震度を推定できるよう強化。震度4程度に達すると判明した段階で、列車停止指令を出せるようにしたという。

 機能強化で、停止指令を出すのがどのくらい早くなるかというと、1、2秒程度だという。「1、2秒でも、車両をより低速に、あるいは停止させることで、安全性を高めることができる」(JR東海関西広報室)

 また静岡県以西の地域では、南海トラフを震源域として東海・東南海・南海の3つの巨大地震が連動して起こる可能性(場合によっては4連動)が指摘されているため、たとえ沿線から遠く離れた地域でも、連動型地震の想定震源域で大きな地震が起こった時点で「連動型」と見越して、列車の停止指令を出すようにした。

バックアップ強化

このほかにも、通信回線が絶たれた場合のバックアップ回線を衛星電話化したり、地震計の予備バッテリーの持続時間が4時間だったものを、沿線地震計を24時間、遠方地震計を72時間と大幅に増強したりするなど、バックアップ機能も強化。

 機能を強化した4つの項目のうち、想定震源域内の地震を「連動型」と見越して列車停止指令を出すことや、バックアップ機能の強化など3つについては、東日本大震災などで得られた知見をもとに行うことにしたという。

 またJR東海管内の在来線は、新幹線の地震防災システムの情報を活用しているため、機能強化によって在来線の地震対策も強化されるという。JR東海は、すべての機能強化について、約3億6千万円をかけて、来年夏までには完了させる予定にしている。

災害の教訓生かす

もともと地震大国日本を走る高速鉄道として、新幹線では地震対策が重要視されてきた。そのことは、早朝(午前5時46分)の発生だった平成7年の阪神大震災は例外的としても、夕刻(午後5時56分)に起こった16年の新潟県中越地震や昼(午後2時46分)に起こった東日本大震災でも、一人の死者・負傷者も出さなかったという事実からも証明される。運行開始から数年で大事故が起こった“中国版新幹線”の例をみても、安全確保と、それを維持する難しさが並大抵でないことがわかる。

 また新潟県中越地震で走行中の新幹線が脱線すると、JR各社が一斉に脱線の防止設備を取り入れるなど、災害の教訓を真摯(しんし)にフィードバックしている。

 一方で、地震の被害想定を進める国や自治体は「新幹線の被害」を想定している場合がみられる。たとえば大阪府の平成19年の被害想定では、上町断層帯での地震(マグニチュード7・1、午後6時)の場合、456人の死者を想定している。府の危機管理室は「新幹線の安全性を細かく精査したわけではないので、数字に強い根拠はないが、高速鉄道なので、何らかの被害想定は必要と考えている」としている。

 被害想定についてJR東海は「被害の内容はさまざまにかわるため、想定することが困難」としている。しかしJR側が事故のシミュレーションなどを行うことも、安全性のアピールにつながるかもしれない。

コストよりリスク重視 関西大社会安全学部教授 安部誠治氏

大地震による被害防止・軽減策の第一は新幹線構造物の耐震強化。これまで国の「新幹線、高速道路をまたぐ橋梁(きょうりょう)の耐震補強3箇年プログラム」などによって、かなりの耐震補強が図られており、東日本大震災で新幹線の死傷事故が発生しなかった。JR西日本も山陽新幹線の耐震補強をほぼ完了させている。

 第二は走行中の列車の速やかな減速・停車。1980年代から導入されてきた早期地震警報システムの一つに、P波(初期微動)とS波(主要動)という地震波の違いに着目し、P波の検知で列車を緊急停止させるシステムがある。東日本大震災は震源域が広範囲であったためこのシステムは作動せず、S波の検知で新幹線を減速させた。今後はS波を検知する地震計の増設が課題となる。

 第三は列車の脱線防止対策。平成16年の中越地震で営業運転中の新幹線が脱線したことを契機に始まった対策で、脱線防止ガード、逸脱防止ガード、車両ガイドなどがある。

 以上の対策は相当なコスト負担を伴うが、地震のリスク(発生確率×被害の大きさ)の大きさを考えると、着実に推進していく必要がある。

1200カ所被害も50日で“復活” 東北新幹線

東日本大震災が起こった際、東北新幹線はどうだったのか。JR東日本によると、東京−新青森間で当時計18本の新幹線が営業運転中で、福島県と岩手県の間を走っていた5本の速度は時速270キロ前後に達していたが、揺れが来る前に時速30〜170キロ程度も減速したため、すべての車両が安全に停止でき、回送列車の一部が脱線しただけだったという。

 沿線の構造物の被害は、決して小さかったわけではなく、電柱が折れたりレールがゆがむなど、計約1200カ所の被害を確認。それでも、過去の震災を教訓に、高架橋の橋脚やトンネルの耐震補強を進めていたため崩落などの重大な被害は免れ、阪神大震災や新潟県中越地震を上回るペースで復旧作業は進み、東日本大震災発生から50日目で全線再開を実現させた。