史上初の2団体王座統一戦、世界王者vs世界王者。
世界王者vs.世界王者。6月20日、ボディメーカーコロシアム(大阪府立体育会館)で行なわれるボクシングの世界タイトルマッチは、従来の世界戦とはひと味もふた味も違う。決戦の舞台に上がるのは、WBC世界ミニマム級チャンピオンの井岡一翔(井岡)とWBA同級王者の八重樫東(大橋)。別団体の日本人世界王者が王座統一戦を戦うのは、史上初めてのことだ。
この両者、一般に馴染みが深いとすれば井岡だろう。元世界チャンピオンの井岡弘樹会長を叔父に持ち、日本最速記録となるプロ7戦目で世界タイトルを奪取。2度の防衛戦も難なくクリアした23歳はスター街道をひた走るサラブレッドである。
統一戦の開催が発表された4月の記者会見でも、存在感を大いに発揮したのは井岡だった。
「主役は自分。日本ボクシング界に新たな歴史を刻みます」
その後も「相手が何をしても無駄な抵抗」「白熱の好勝負という期待を裏切る(完勝する)」など、専門誌上で過激な発言を連発して前哨戦をリード。井岡にとっては統一戦といえどもスーパースターへのステップに過ぎないというわけだ。
「脇役」を自認する八重樫の試練のボクシング人生。
「脇役」を自認する29歳の八重樫は試練のボクシング人生を歩んだ。7戦目でイーグル京和にアタックした世界戦はアゴの骨を砕かれて惨敗。日本タイトルからの出直しを余儀なくされ、世界初挑戦から4年かかってようやく頂点にたどりついた。関係者の予想はズバリ「井岡有利」に大きく傾く。井岡は単に無敗というだけでなく、その実力は玄人筋からも評価が高い。無駄のない動きとシャープなパンチ。駆け引きや試合運びにも長け、ここぞという場面を逃さない勝負勘も抜群だ。
ではこの試合、大方の予想通りに終わるのかと言えば、そう簡単にいかないのがボクシングである。
八重樫は身体能力が高く、躍動感あふれるファイトを身上としている。魂を削り合うような打撃戦をするかと思えば、スピードを生かして相手を揺さぶる術も知っている。井岡の緻密さに比べると粗さは否めないが、決して引き出しの少ないチャンピオンではない。
ともに臨機応変にボクシングを組み立てられるタイプだけに、試合のシミュレーションは極めて困難だ。息詰まるような駆け引きの応酬が繰り広げられるかもしれないし、スタートから闘志むき出しの打撃戦に突入する可能性もある。
辰吉丈一郎vs.薬師寺保栄戦の再現はあるのか?
ならば勝敗を分けるポイントは何か。あえて不利の下馬評に甘んじる八重樫陣営に聞いてみた。「八重樫は1カ月前にオファーをもらって短期間で試合に臨んだことも、けがで十分な練習ができずにリングに上がったことも、1回にダウンを食らってから巻き返して逆転勝ちを収めたこともある。ギリギリの試合では、こうした経験が必ず生きる」(松本好二トレーナー)
脇役が主役を食った試合といえば、1994年12月のWBC世界バンタム級タイトルマッチを思い出す。絶対的な有利を伝えられた暫定王者の辰吉丈一郎は、正規王者ながら知名度の低い薬師寺保栄にまさかの敗北を喫した。
21世紀の脇役も審判の下るその時を待ちわびている様子だ。
「僕は大穴かもしれませんが、1番人気が勝つとは限らない。大穴がきたときのファンの熱狂を思うと、楽しみで仕方がないんです」
本命の井岡か、大穴の八重樫か。ゴングは間近に迫っている。