EV不発、日産がハイブリッド大量投下に転換

世界に先駆け、本格的な量産EV(電気自動車)「リーフ」を投入し、EVの先頭を走る日産自動車。連携するルノーとともにEVを次世代自動車の本命と位置づけてきた。だが、その戦略はどうやら修正が必要となったようだ。

日産の志賀俊之COOは12月12日、環境への取り組みに関して会見を開き、既存車種のモデルチェンジを含めて2016年までに15モデルのハイブリッド車(HV)を投入することを明らかにした(うち1モデルはプラグインハイブリッド)。

 日産のHVはこれまで2モデルのみの投入にとどまり、トヨタ自動車やホンダに比べて消極的だった。トヨタは15年までに21車種のHVを投入する方針を示している。これまでの実績を考えれば、日産はかなり急速にHVのラインナップを拡充することを目指しているといえる。EV開発で培った電池やモーターなど最先端の電動技術はHVに生かせるとして、追い上げに自信を見せる。

「長期的にはEVや燃料電池車へシフトする」

志賀COOは、「最終的には、EVや燃料電池車(FCV)といった排気ガスを出さない電気モーター駆動車にシフトしていく、という長期的な流れには変化はない。方針を変えたわけではない」と言う。

 だが、新たに打ち出したHVの大量投下は、EVを先行させたエコカー戦略を修正したことを意味する。

2010年12月に、本格的なEVとして日産が世界で初めて市場に投入したリーフは、現時点までの全世界累計販売台数が約4万3000台、日本で1万9000台、米国で1万7000台、欧州その他で7000台となっている。

 それなりの実績にも見えるが、日産のもくろみどおりには売れていない。というのも、日産では神奈川県の追浜工場で年間5万台の生産能力を保有しており、能力に比べると4割程度の販売実績にとどまっているからだ。現実的には、航続距離や充電インフラ、価格などの問題などからEVの販売はスローペースで推移している。

 一方、エンジンとモーターを併用するHVは、既存の燃料インフラを活用しながら、航続距離、燃費を大幅に向上させるエコカーとして、もはや主流の存在。トヨタ「アクア」「プリウス」は車名別の販売台数ランキング(自動車販売店協会連合会調べ)で、今年7月から上位1〜2位を独占し続けている。

ハイブリッドの隆盛は当面続く

EVや燃料電池車が将来的には爆発的に普及するというシナリオはありえる話だが、その前に解決しなければならない航続距離やインフラ、価格など山積する問題を考えれば、HVの隆盛は当面続くとみて間違いない。日産もEV重視にこだわっていられなくなったということだろう。

 現在、日産は、高級セダンでFR(後輪駆動)HVと、ミニバンで簡易型HVを商品化しているが、すでに、FF(前輪駆動)用の排気量2.5リットル、2リットルのHVエンジンを発表している。この新しいHVエンジンを搭載した車種は13年に北米に投入されるほか、早い時期に2リットルのHVエンジンを積んだ車種が日本にも投入される見込みだ。

もともとHVに関しては、導入しても排気量2リットル以上の中型車を超えるジャンルというのが、日産の基本スタンスだった。HVは、システムがかさむ分、もともと低燃費・低価格の小型車に適用した場合には、燃費向上の効果が薄れ、逆にコストアップが目立ってくるからだ。

 日産は、コンパクトカー以下は、排気量を小型化して燃費を向上しつつ過給器で出力を補う「ダウンサイジング過給」エンジンが最適と見なしていた。秋に投入した新型「ノート」はこのエンジンを搭載し、高い燃費性能を実現、実際、コストパフォーマンスではコンパクトHVに引けを取らない。

コンパクトカーこそがハイブリッドに合う

ただ、この方針も軌道修正し、コンパクトカーへのHV導入も進める見通しだ。トヨタの「アクア」が大ヒットしたように、燃費のよさが大きなウリになるのはむしろコンパクトカーのジャンル。現状、低燃費エンジンコンパクトカーとHVコンパクトカーでは、実用燃費やトータルコストでは大差ないものの、カタログ燃費では大きな隔たりがある。

 コンパクトカーや小型車でHVラインナップを欠いた場合、燃費競争でイメージ的にも不利になる。すでに発表済みの中大型HVに加え、コンパクトHVを速やかに投入できるかがHV追い上げのポイントになりそうだ。