最新版「生涯給料」トップ1000社

あなたが勤める会社に新卒で入社し定年まで働いたときに取得できる給料の総額(生涯給料)はいくらになるのか? 同業他社や周りの会社との差は? そして、リーマンショックや円高、東日本大震災などにより事業環境が激変する中、給料はどう変化しているのか。

そんな問いへの答えを出すために、企業ごとの「生涯給料」を試算し、その結果をまとめた。まずはその上位20社と、リーマンショック前(2007年)との比較で、減少幅の大きい企業20社を次ページ表にそれぞれまとめている。

 生涯給料2億円が一つの目安といわれる中、その倍である4億円以上を得られる企業はかなりある。減少額について見ても、社内制度の変更といった要因がある会社もあるが、07年に比べ1億円以上の違いが出た企業もある。

賃金カーブの変化ないが中身は大きく変貌

個別の企業ごとの数字も気になるが、全体として日本の給料はどう変化しているのか? 結論からいうと給料は全体的に下がる傾向となっている。

 その要因としていちばん大きいのが賞与の減少だ。賞与(特別手当を含む)は、1990年代をピークに実に3割以上も減少している。賞与は業績に連動しているといわれるが、企業業績の回復すべてを反映しているわけではない。

 「景気がよくなれば正社員の給料が改善するというのは、過去の話」(第一生命経済研究所経済調査部の熊野英生首席エコノミスト)と、いえる。

 一方、決まって支払われる月額の所定内給与は、00年ごろから頭打ちとなっている。各年代別のモデル賃金(家族構成など標準的なライフスタイルを前提とした給料)の変化を見ても、5年前とほとんど変化が見られない。

 「賃金カーブは変わっていないのが実状。月例賃金や何かの手当をカットすることは、不利益変更となるため、リストラ時以外に行うのは難しい」(労務行政研究所『jin‐jour』編集長の原健氏)。月例賃金は、ベースアップなどによる上昇がないのに加え、こうした下方硬直性もあり、大きな変動が見られない。

 ただ、その中身、月例賃金の構成要素は大きく変わっている。

 構成要素を詳細に見ると、年齢や在籍年数といった、年功序列的な給料(属人給)は、成果主義の導入が叫ばれた00年ごろから、その割合を大きく減らし、職務や仕事内容に応じて支払われる仕事給(職能給も含む)が大きなウエートを占めるようになった。最新の調査でも、月額給料の8割を仕事給が占める結果になっており、大きなトレンドは変わっていない。

 こうした仕事給のウエートの高まりによって生じた変化は、同一企業内での賃金格差を顕在化させた。

 産労総合研究所の調査によると、同一企業での上位昇進昇格者と下位昇進昇格者の基本賃金の差は、35歳で対象企業平均7.7万円、50歳になると同平均17.4万円となっている。

 分布で見ると、あまり差をつけない企業が多いが、それでも、高年齢層を中心に金額の差を広げる企業は少なくない。

 さらに、月額給料以上に評価や査定による格差を設けているのが賞与で、それを含めた年収ベースで見れば、その差はさらに開く。

 65歳雇用義務化が給料に及ぼす影響も無視できない。NTTグループは、40〜50代の賃金カーブを緩やかにして、雇用延長の原資とする新賃金制度を提案。新たな給料変革の波が生まれつつある。そんな状況だからこそ、現在は他社や業界との比較を通して、自らの給料について考えるべき、格好の機会といえる。

最新版 生涯給料1000社

勤めている会社に新卒(22歳)から定年(60歳)まで在籍したら、そこで得られる給料は総額でいくらになるのか? 答えを導き出すために東洋経済が「生涯給料」を推計した。

 この推計には、二つのデータを使っている。一つは、主に上場企業が、会社の状況や業績、財務内容を記載・公表する「有価証券報告書」、もう一つは、厚生労働省が調査・公表している「賃金構造基本統計調査」だ。

 賃金構造基本統計調査は、厚生労働省が年に1回調査・公表している資料で、業種ごとに5歳刻みで平均給料が掲載されている。「運輸業で働く30〜34歳の平均給料は○万円」といった形式だ。企業の規模別や男女別、学歴別でも公表されている。サンプル数も多く、賃金の相場を見るうえでも貴重な資料となっている.

 この資料の5歳刻みのデータを基に1歳刻みの年収カーブを算出して、業種ごとの賃金カーブを推計。これに各社が公表している有価証券報告書に記載されている企業の平均年収と平均年齢を当てはめて、19〜65歳の会社ごとの賃金カーブを算出、そのうち22〜59歳のモデル賃金の合計を生涯給料とした.

 算出額には、賞与や残業代なども含まれているが、退職金については、会社ごとの推計可能なデータがないため、含まれていない。

 賃金構造基本統計調査、有価証券報告書ともに、最新のデータとして2011年(11年度)の数字を使用している(有価証券報告書は3月期決算だと12年3月期のデータ、賃金構造基本統計調査は12年2月に発表された11年全国調査結果の概況を用いた)。

 推計結果は次ページ以降に記載した。誌面の都合で、従業員50人以上の企業の生涯給料上位1000社を業界別(業界の順番は業界平均額の多い順)に掲載している。業界別の平均額については右表にまとめた。対象企業3587社の平均生涯給料は2億1179万円となっている。

 純粋持ち株会社の場合は、社名の横に「純」と表示し、純粋持ち株会社のデータで算出している。純粋持ち株会社は管理機能に特化している場合があり、従業員は給料の高い少数の人しかいない可能性がある。数値を見る際は注意が必要だ。

 参考までに、40歳のモデル年収を記載した。平均賃金は、会社ごとに平均年齢が異なり比較しにくいが、年齢をそろえることでより比較しやすくなるだろう。

 また、本誌では08年に同様の試算を行っており(データは07年のもの)、その差額も記載した。リーマンショックや東日本大震災以前の生涯給料からの変化も見られるようになっている。

 それでは各業界ごとの生涯給与ランキングを見ていこう。

テレビ業界は大幅削減のピークは越える

高額給料で有名なテレビ局だが、日本テレビHDは2年前、組合に対して賃金の2〜3割カットや定期昇給の先送りを提案し話題となった。労組は36時間ストライキを打つなどしたが、会社側は導入を決めた。だがその後、視聴率や業績の回復を受けて定期昇給が復活。昨年6月からは以前の賃金水準まで戻した新制度が導入されている。

 TBSは2009年の持ち株会社制移行に伴い、ホールディングスより賃金水準が2〜3割低いTBSテレビへの転籍を進めた。視聴率、業績の低迷が続く同社の現状を考えると、人件費抑制は至上命令に違いない。

電力業界は原発停止が響き、年収2割カットも

電力会社の生涯給料が大幅に下がったのは、東京電力の原発事故に伴う全国での原発停止が大きい。原発依存度の高い電力会社を中心に、人件費の圧縮に踏み込んだためだ。東電はすでに管理職年俸の25%カット、一般職年収の20%カットを実施した。

 今後も東電に次いで家庭向け電力料金の値上げ申請を行った関西電力と九州電力が、社員の年収をそれぞれ16%、21%削減する方針を表明。北海道電力や東北電力、四国電力も値上げ申請を示唆しており、やはり2割前後の年収カットを余儀なくされる可能性が高い。

電機業界は重電は復調、半導体関連は厳しい

全体的に生涯給料が上昇したのが重電3社だ。中でも目立つのが日立製作所。事業見直しやリストラを実施したことで、2010年度には最高益を更新して賞与は大きく伸びた。三菱電機と東芝も同様で、足元の業績堅調が賞与に連動して押し上げた格好だ。

 一方、半導体製造装置大手の東京エレクトロンは大幅ダウン。06年度から07年度にかけては世界の半導体メーカーの旺盛な設備投資を背景に高水準だったが、リーマンショックで急ブレーキ。足元も需要は鈍く、ピーク時と比べると賞与の大幅ダウンを強いられている。

倉庫業界は地味ながら着実な利益増がカギ

倉庫業の生涯給料が2007年と比較し増加しているのは、やはり堅調な業績が背景にありそうだ。業界トップの三菱倉庫以下、営業利益を着実に伸ばしている企業が多い。

 倉庫業ではオフィスビルやマンションなどの賃貸事業を兼営し、営業利益に占める賃貸事業の比率が高いところが多い。歴史の古い会社が多く土地の簿価が低いので、賃貸事業の粗利が高いためだ。実際、営業益に占める賃貸事業の比率は三井倉庫66%、住友倉庫56%など、収益の下支えに貢献している。倉庫事業自体も収益が安定している。

自動車業界は好業績の反動でトヨタなどが減退

自動車業界の生涯給料はトヨタ自動車を筆頭に総じて落ち込みが目立つ。その大きな理由は企業業績の落ち込みだ。トヨタは2003年度から07年度まで5期連続で純益1兆円超という空前の好業績を謳歌した。対して11年度は回復基調とはいえ、絶頂期には遠く及ばない。

 ホンダやスズキなど、リーマンショック前に好業績だった会社はおおむね同じような傾向だ。一方、経営危機からの再建途上だった日産自動車や三菱自動車は07年当時の企業業績の水準が相対的に低く、年収も見劣りしていたことが比較ではプラスに効いている。

食品業界は原材料高一巡し震災特需も

食品業界の生涯給料は2007年比で若干のプラスになっている。業界では「11年度は業績が好調で賞与が多かった」(森永乳業)、「震災後の売り上げが好調で賞与が増えた」(マルタイ)という声もある。

 07〜08年には世界的な原材料高となり、穀物をはじめ海外産野菜、乳製品、包装材などが高騰。食品各社の収益を圧迫した。一方で、11年3月の東 日本大震災直後には、食品各社は買いだめ特需に沸いたうえ、震災後の自粛ムードから広告宣伝やキャンペーンを控えた企業が多く、一時的に利益がハネ上がっ ている。

百貨店は構造不況が続き地方が一層厳しい

2011年まで15年連続で業界売上高を低下させた百貨店業界。リーマンショックの後には高額品の不振が直撃した。百貨店各社は早期退職制度を拡充・新設するなどコスト削減を余儀なくされた。残った社員も残業禁止やボーナス削減など懐は冷え込む一方だ。

 より厳しいのは地方百貨店だ。09年に近鉄百貨店は課長級以上の管理職で7〜10%、係長級以上で2〜5%の月額給与減額を実施。一時はボーナス遅配などもあった。金沢市の大和も7店を3店に縮小し、10年春に489人の希望退職を実施した。