そういうわけで、みなさんデフレしてますか?
突然ですが皆さんに言葉を贈りたいと思います。

「罪を憎んで、法則を憎まず」

何を言いたいかというとですね「経済学的な定理はほぼ物理法則と同じなので『そんなものは決めつけだ!』と言うのはやめておいたほうが良いよ」ということですね。


で、5月26日の高橋教授と原氏の討論を聞いたわけです。

内容については皆さんの判断にお任せしますが、少し気になったのは高橋教授の説明不足でしたのでここを補足します。


【財政規律のライン】
「財政規律のライン」簡単に言えば「国家はどれくらい借金をしていいか?」であり、

借金を発行した通貨建てで支払うことができることを考えれば(円建ての国債は日銀が輪転機を回せば印刷費だけですべて買い取ることができます)「どれくらい通貨を発行していいか?」ということになります。


さて、ではどれくらいの通貨発行が許されるのでしょうか?

簡単に歴史を遡れば、かつてはそれは「所有している貴金属と同じ」と信じられていました。

「金貨が貨幣だった時代」なんてイメージしやすいでしょう。
「金=カネ」だったわけです。

(日本は長らく銅銭の時代が続き、豊臣の時代に金銀両建て制に移行します)

それが近代になれば「金本位制」というやつになります、お金は紙幣ですが「ドル札を中央銀行に持っていけばXXgの金と交換ができる」という時代です。

さて、では現在の紙幣は何と交換できるから価値があるのでしょうか?

答えは皆さんのお持ちの紙幣の中にあります。

……答えは「なし」です、どこを見ても「金」どころか「銀」や「銅」との交換も謳われていません。
正真正銘タダの紙、それが現代の紙幣「信用紙幣」です。


【紙幣発行の限界はどこか?】
まあそういうわけで、昔のように「紙幣の根拠に金があるわけではない」時代になってから「どれくらい紙幣を刷っていいか?」は謎でした。

しかし、はっきりわかっていることは昔からありました「あんまり刷りすぎると良くない」そして「あまり刷らなすぎてもよくない」ということです。

「刷りすぎが良くない」というのはかなり昔からわかっていました、刷りまくるとその紙幣の価値が激減してしまうからです(が、これが社会全体に与える影響は結局良くわかっていなかったのが実態です)。

「刷らなさすぎてもよくなさそうだ」ということはケインズ=フリードマンが示した方向性で、「需要不足」の状態では政府は無理に見える借金でもして(それを通貨発行益で支えて)社会を円滑に回すほうが良いよ、となっています。


問題は「刷りすぎ」「刷らなさすぎ」のラインが良くわからないことでした。


【一定のインフレ率まではOKというのが常識】
今回の対論で朝日の原氏は「とにかくもう危険なんだ」という主張をしていました「借金はたくさんなんです、世界でも最高なんです、危ないんです」というわけです、一つ二つ沢山!!の世界ですね。

一方の高橋教授は「財政規律のラインというのは、『ターゲットにしたインフレ率達成まで』というのが世界の標準」と明確に答えています。

(つまり日本で言えば2%、実際には現在1%弱でフラフラとしています)

「信用通貨」という「貴金属」などの背景のないものの価値が何で裏打ちされているかについていろいろな考え方はありますが現在のところ「国家の生産力」がその背景になっているというのが定説です。

私も「貨幣発行量とインフレ率を事前に割り出す数式やデータ」は知りませんが、「別に完璧な予言なんて必要はない」わけです、すくなくとも日本銀行は「目標にしたインフレ率2%まで」は堂々と貨幣発行を行えば良いわけです「これが現在の研究で明らかになっている財政規律のライン」ということになります。

(実際には経済学では歴史的な研究からXXの通貨発行に対してYYの条件であればZZという結果であった、複数の事例を総合すると〜〜〜という式が成り立つという風に論が展開されています。「一個の組織」を研究する「経営学」と異なり「経済学」は「利害の一致しない人間集団」が起こす統計的な行動について研究する学問ですのでその結果はかなり確度の高い「法則」になっているわけです)。


ついでに言えば、「増税」するとデフレになります、政府が発行した通貨を税金で集めることになり、その分「本来民間企業が儲かった分」を国が巻き上げる形になるからです、結果、その分の投資が減り生産力が減るという負のスパイラル「デフレ・スパイラル」はより強くなります。

さらについでに言えば「景気が過熱しすぎ」てインフレ率が7〜8%を超えると逆に経済のパフォーマンスが下がるとも言われています、この場合バブル異常生成を防ぐために政府は増税したり、金融引き締め=通貨発行量の削減で景気を冷却する必要が出てきます。

「インフレ率」というのはちょうど「気温」のようなもので「高すぎても、低すぎてもダメ」なのです、そして「デフレ」というのは「氷点下」とほぼ同じ意味、論外なのです。


【他国に出遅れると損をする】
高橋氏は同時に「金額の総量を見るだけでなく『速度』も見ないと行けない」と主張されています。

これはリーマンショックの事例で議論になりましたが、リーマンショックはアメリカ発のショックだったにもかかわらず、世界で最も回復が遅れたのは日本でした。

これは「金融緩和」の速度が「世界の各国」に負けていて「ババ」が日本に押し付けられてしまったからです(トロいヤツはビジネスの世界では良いことありません)。


「金融緩和競争」で負けた日本は(なーに、当時の白川日銀が何もしなかっただけです)1ドル80円台という「超円高」になります(この段階でアメリカはおおよそ20%分ドルを刷り、「ドル安誘導」したわけです)。

円高の日本に劇的なダメージを与えました、ただでさえ世界経済が弱い中で突然の国際競争力の低下(1ドル100円と1ドル80円では日本製品はおおよそ20%値上がりしたことになります)により株価はもちろん賃金上昇の停止、物価の下落、商品の販売サイクルの低下による経済の速度低下……こういった一連の負のサイクルを示す言葉が「デフレ」です、まさにすべてが凍りついていく「氷点下」の世界ですね。



ただ今回の議論で現在行われている「国の借金が多すぎるか?それを日銀が買う財政ファイナンスは許されるのか?」という対話については一つの結論が出ているのに気づくと思います。


現在の国の通貨に対する根拠は「国の力そのもの」で政府だ民間だ日銀だ、とは別れていないということです。

そしてその是非を示す指標は「インフレ率」であるということです。


……最後に感覚的に言えばインフレ率が1%では「寒すぎる」ってことですね。