2014年12月03日

Winds Cafe 215 楽曲解説〈Golden Vanity〉

01. Golden Vanity, Bob Fox, THE BLAST, 2006, Trad.

 原詞はぼくが聞き取ったものですので、正確さは保証しません。不悪。日本語はあくまでも語られている内容の大意です。

I knew a ship from the north country
And the name that she went under was the Golden Vanity
They feared they'd be taken by the Turkish galley
As she sails on the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
As she sails on the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
As she sails on the Lowlands low.

Now the first who raised his hand was a little cabin boy
Saying, 'Captain what will you give me for the galley's to destroy?
I vowed I will win the day if you should me employ
To sink her in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
To sink her in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
To sink her in the Lowlands low

'I will give you gold and silver in great store
My daughter you shall marry when we return to shore
Dressed up silk and finery you'd never more before
If you'd sink her in the Lowlands low

So the boy bade his breast and over the side went he
And with some auger he swan across the sea
He swam until he came to the Turkish gallery
As she sails on the Lowlands low

Now some were playing cards and some were playing dice
He bored the three holes once he bored the three holes twice
He saw the waters flowing in and it dazzled in their eyes
And he sank her in the Lowlands, Lowlands low
Lowlands, Lowlands
He sink her in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
To sink her in the Lowlands low

And turn himself around him and back again swam he
He swam until he came to the Golden Vanity
Saying, 'Captain, pick me up, for I'm drowning at sea
And I'm drowning in Lowlands low
In the Lowlands, Lowlands
And I'm drowning in Lowlands low
Lowlands, Lowlands
And I'm drowning in Lowlands low

'I will not pick you up,' the captain he replied
'I will shoot you, I will drown you, I will sink you in the tide
For the captain he did rue and the promise he denied
And he left him in the Lowlands low

So the boy was forced to swim to the starboard side
And up to his ship mates full bitterly he cried
'Ship mates, take me up, for I'm drowning in the tide.
I'm drowning in the Lowlands low.'

Well the ship mates took him up but on the deck he died
So they stitched him into the hide so fair and wide
They threw him overboard and he drifted in the tide
He drifted in the tide in the Lowlands low
In the Lowlands, Lowlands
He drifted in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
He drifted in the Lowlands low

And the just three days later the weather fine and clear
The voice came from the Heaven in the smote of the captain's ears
'Captain, for your cruelty you'll pay a price right here
I'll sink you in the Lowlands low

Well the captain laughed the scornful laugh an evil man was he
He feared no retribution in so peaceful was sea
But soon a wave was breaking all the Golden Vanity
And she's sinking in the Lowlands low
In the Lowlands, Lowlands
And she's sinking in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
And she's sinking in the Lowlands low

Now the sailors in the wreckage were rescued from the sea
But the wicked captain was perished with the Golden Vanity
A giant wave came over her and swept him out sea
And drowned him in the Lowlands low
In the Lowlands, Lowlands
And drowned him in the Lowlands low
Lowlands, Lowlands
And drowned him in the Lowlands low


北国から出た船が一隻
名前は「金のうぬぼれ」
トルコの軍艦に捕まってしまうとおののいた
ロウランドを渡っている折りに

初めに手をあげたのは若い船室がかりの少年
「船長、あの軍艦沈めたら、なにをくれます?
やらせてくれたら、ご期待はうらぎりません」

「黄金も白銀もたっぷりくれてやる
陸へもどったら娘もくれてやる
おまえなんぞ、さわったこともないような絹の服も着せてやる」

そこで若者は船縁からとびこんだ
錐を1本かかえて海を泳ぐ
トルコの軍艦まで泳いでいった

軍艦ではトランプに興じるものもあり、サイコロを振っている者もあり
若者は錐で3つ穴をあけ、さらに6つ穴をあける
水がどうどう流れこみ、あわてふためくトルコ兵
そしてあっさり沈んでしまった

若者はくるりと体をひるがえし、「ゴールデン・ヴァニティ」へと泳いでもどる
たどりつくとさけんだ
「船長、引上げてくださいよう、溺れちまいそうだ」

船長の答えるに「いんや、引上げねえ。
おまえなんぞ、鉄砲で撃って、溺れさせてやる」
船長は約束を踏みにじり
若者が沈むにまかせた

若者はやむなく右舷へと泳いでまわる
同僚の船員たちにうったえる
「ひきあげてくれよう、溺れちまうよう」

船員たちは若者を引上げてやったが、甲板で若者は死んでしまった
そこで遺骸を皮に包んで縫いあわせ
船縁から海にほおりこみ、遺骸は潮に流れていった

それから3日後、よく晴れて穏やかな天気
天上から船長の耳に声が聞こえた
「船長、おまえのむごいふるまいのつぐないをしてもらうぞ
おまえはここで沈むのだ」

船長は心がよこしまで、あざけりの笑い声をあげた
こんなおだやかな海で、天罰なんぞありっこない
ところが大波がまきおこり、ゴールデン・ヴァニティをひと呑み

船乗りたちは海から助けあげられた
心のまがった船長は船もろともに海の底
巨大な波にさらわれて
海の藻屑となりました


  Child の286番(V巻収録)であり、Roud では122番。PBEFS の新旧双方に収録されていますが、基になったシンガーが異なり、歌詞も若干異なります。話の大筋は同じで、キャビン・ボーイが船に引上げられながら死ぬラストも変わりません。また Stan Hugill の SHANTIES FROM THE SEVEN SEAS にも収録があります。

 イングランドではセシル・シャープたちの運動で、伝統歌を習うことが小学校の教育課程に採用されています。これもその1曲で、したがってイングランドで小学校教育を受けた人ならば、たいていは知っているもの。そちらの基になっているのはPBEFS新版に収録されている版です。

 ブリテン島と北米に広く採集されていて、とりわけ北米で人気があったようです。アイルランドではほとんどうたわれていなかったそうな。サミュエル・ピープスもとりあげてます。

 'Golden Vanity' とはご覧のとおり船の名前です。北米ヴァージョンではこの名前は様々ですが、イングランド版ではほぼこれに統一されている由。他の名前としては The Sweet Kumadie や The Golden Victory などがあります。チャイルド版では船長はサー・ウォルター・ローリーに擬せられています。ブロードサイドで残っている最古の版は17世紀後期で、その頃には〈サー・ウォルター・ローリー、ロウランドを航海する〉と呼ばれていました。この古い版では船名は Sweet Trinity です。

 ここでは「敵」はトルコですが、フランス、スペイン、オランダなどもあります。面白いことに伝統歌の「敵」にはドイツがないですね。第一次世界大戦が始まり、戦場でうたわれたものにはさすがに出てきますが、19世紀までは見た覚えがありません。ドイツは大英帝国にとっては敵とするに値しなかったのか。基本的に好意を持っていたのか。王室がドイツと縁が深かったので忌避したのか。あるいはその全部か。ひょっとすると「トルコ」はドイツの婉曲表現なのかも。

 うたっているボブ・フォックスはライナー・ノートで、このうたの普及版の結末で船長に報いがないのが気に入らずにいたのが、カナダの伝統歌を集めた歌集で船長が神様から報いを受ける結末のある版を見つけた、と書いています。少なくとも19世紀までのほとんどの版では、少年が死ぬところでうたは終わります。人びとは、無情な結末を少なくとも受け入れていたわけです。それがどういう理由によるものかは、今は定かではありませんが、報いが無い方がうたのインパクトは強いでしょう。

 シンガーはイングランド北東部出身で、1970年頃からフォーク・クラブでうたいはじめ、1978年に Stu Luckley(元 Hedgehog Pie)とのデュオでレコード・デビューしています。基本的にソロかデュオの人で、バンドに参加しても短期間です。近年では、新しい Radio Ballads のプロジェクトに参加しています。ニック・ジョーンズ、デイヴ・バーランド、ヴィン・ガーバットなどに続く世代で、イングランド音楽の今の隆盛はこういう人たちが地味に支えた基盤の上に立っているとも言えます。

 とりあげた録音はフォックスのソロとしては3作目《THE BLAST》(2006) 収録。

The Blast
Bob Fox
Topic
2009-08-12

 

 この他にも〈The Old Virginia Lowlands〉や〈The Green Willow Tree〉などのタイトルのものも含め、録音はたくさんあります。フォックスのように、沈鬱な基調でうたっている例はむしろ少なく、ユーモラスだったり、陽気な海のうただったりする方が多い。歌詞とメロディが対照的性格のうたはたくさんありますが、少年が死ぬ結末の方が圧倒的に多いとなると、あるいはこれは元はコミカルな効果を狙ったものかもしれません。「敵艦」での様子も、戦闘を前にしているとは到底思われず、滑稽な情景にも見えます。

 このあたりは細かいところを突っ込んでもあまり意味はないかもしれません。とはいえ、報われない結末が伝承されてきた理由はあれこれ想像をたくましくしたくなります。

 さらに詳しいうたと録音についての情報は英語ですがこちらをご覧ください。(ゆ)




yosoys at 11:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック ソフト