2016年06月29日

アイリッシュ・ギター入門@本屋B&B、下北沢、御礼

 遅まきながら、土曜日の「アイリッシュ・ギター入門@本屋B&B、下北沢」には多数ご来場いただき、まことにありがとうございました。

 ゲストの長尾晃司さんがすばらしく、あたしにとってもメウロコな話が続出で、たいへん充実した内容になったと思います。本当は講師にお呼びしたいような方もお客様で見えていて、内心緊張してましたが、長尾さんの研鑽の深さはあたしのそんな不安も吹き飛ばしてしまいました。

 多様なギタリストの特徴を適確に掴んで、それを誰にもわかるように提示するのは、並大抵のことではないはずです。しかも多様でありながら、一方でやっていることの基本は同じなわけです。たとえばロックやジャズのギタリストを比較するのとはまったく違います。優れたミュージシャンはまた優れた物真似師でもあるのだということを思い知らされました。

 あそこでも話しましたが、ギターはアイリッシュにあっては「異端」の楽器です。これはギターという楽器のすぐれて普遍的な性格の裏返しです。言い換えればギターはきわめて融通性が高い。世界中ほとんどどんな音楽でもギターで演奏できるし、あるいはギターで伴奏をつけられるでしょう。一方でそれゆえにある音楽にあっては完全に融合することができません。

 アイリッシュ・ミュージックにあっては、この点同じリズム楽器であってもバゥロンとは決定的に異なります。起源は中東から北アフリカであってもバゥロンはアイルランドの土着性をまとっています。アイリッシュ・ミュージックでのギターはアメリカ経由ですが、アメリカからの到来物であることはこの場合有利に作用していません。

 その「異端性」がアイリッシュ・ミュージックにとっては積極的な刺激を与えているのがギターの面白いところでもあります。ギターでアイリッシュ・ミュージックのチューンに伴奏をつけるにはある種の飛躍が必要でした。これは「異端性」が原因でもありますが、その飛躍によってアイリッシュ・ミュージックの現代音楽、同時代音楽としての側面がやはり飛躍的に強化されてもいます。

 その飛躍を編み出したのがポール・ブレディであり、それを受け継いで磐石のものにしたのがミホール・オ・ドーナルでした。ミホールが開発したアンサンブルの中の一番下のベースを担当するギターの役割を極限まで強化したのがジョン・ドイル。ベースはダブルベースに任せ、もう一度リズムを刻む、その刻み方をこれまた徹底的に推し進めたのがドノ・ヘネシー。それまで誰もやらなかった、ガット弦のクラシック・ギターを持ち込み、同時にフラメンコの手法を採用したのがスティーヴ・クーニー。これをさらに発展的に継承したのがジム・マレィ。そしてマーティン・ヘイズとのコンビで、従来とはまったく対照的なミニマルなスタイルを考案したのがデニス・カヒル。

 こうした特徴的なギタリストたちの業績を踏まえて、もう一度リズム・ギターの原点にもどり、派手ではないけれど、より細やかで微妙な演奏で、現在、共演者たちから圧倒的な支持を得ているのがジョン・ブレイクという見立てです。

 最後のドナル・クランシィはギターによるダンス・チューンの演奏として、リズムではなくメロディもしっかり弾くことを録音でやってのけてくれました。スコットランドでは1970年代後半のディック・ゴーハンや近年のトニィ・マクマナスがいますが、アイルランドではほとんど初めてです。ギターの好きな方は、アイリッシュを演奏するか否かにかかわらず、一度は聴いてみていただきたい。

 またかれが編纂したオムニバス《MASTERS OF THE IRISH GUITAR》は、今回とりあげたギタリストたちがほとんど参加して、それぞれに味わい深い演奏を聴かせてくれます。

Masters of the Irish Guitar
Various Artists
Shanachie
2006-02-21

 

 長尾さんはアイリッシュ・ミュージックにおけるギター演奏のレッスンもされています。

 当日、かけた音源のリストを以下に掲げます。


Davy Graham (1940-2008)
1964, Angi from 3/4 AD (THREE SCORES & TEN)

Three Score & Ten: Voice to the People
Various Artists
Topic Records
2009-10-20

 

Paul Brady (1947-)
1968, Hand Me Down The Tackle from THE JOHNSTONS

The Johnstons/Give A Damn/The Barley Corn (3in2)
The Johnstons
Bgo (Beat Goes on) (UK)
2013-03-04

 
1976, The Kid on the Mountain from THE HIGH PART OF THE ROAD/ Tommy Peoples

High Part of the Road
Tommy Peoples
Shanachie
1994-11-23

 

Micheal O Domhnaill (1951-2006)
1971, Angela from SKARA BRAE

Skara Brae
Various Artists
Gael Linn
1998-08-11

 
1976, The Kid on the Mountain from OLD HAG YOU HAVE KILLED ME/ The Bothy Band

Old Hag You Have Killed Me
Bothy Band
Green Linnet
1993-01-05

 
1982, Willy Coleman's from PORTLAND/ Kevin Burke

Portland
Kevin Burke
Green Linnet
1993-01-05

 

John Doyle (1971-)
1997, The Big reel of Ballynacally from SUNNY SPELLS AND SCATTERED SHOWERS/ Solas


 
2005, Fremont Center set , from IN PLAY/ Liz Carroll

In Play
Liz Carroll
Compass Records
2005-09-13

 

Donogh Hennessy
2004, Trip to Windsor from THE KINNITTY SESSIONS/ Lunasa

Kinnitty Sessions
Lunasa
2016-01-08

 

Steve Cooney
1980, The Foxhunter’s Reel from UNDER THE MOON/ Martin Hayes

Under the Moon
Martin Hayes
Green Linnet
1995-07-11

 

Jim Murray
2005, The Cat's Miaow from TUNES/ Sharon Shannon, Michael McGoldrick, Frankie Gavin

Tunes
Sharon Shannon
Compass Records
2005-04-12

 

Dennis Cahill (1954-)
1971, The Old Blackthorn; Exile Of Erin; Humours Of Tulla from LIVE IN SEATTLE/ Martin Hayes 

Live in Seattle
Martin Hayes
Green Linnet
1999-09-14

 

John Blake
2003, In the Tap Room from THE TAP ROOM TRIO

Tap Room Trio
Tap Room Trio
Cladd
2011-11-29

 

Donal Clancy
2006, Tommy Coen's Memories/ Callaghan's (Reels) from CLOSE TO HOME

Close to Home
Donal Clancy
Compass Records
2006-09-26

 


 ラストに長尾さんがトシさんと2人でやった演奏もみごとでした。メロディ演奏とリズム演奏を一人で交互にやるという形でしたが、これで一度フルのライヴも見てみたくなりました。

 打ち上げの席で、若いギタリストたちが長尾さんを囲んで盛り上がったのも嬉しいことでした。個人的にはその人たちの一部がデッド・ヘッドであることも知って、大いに心強く感じたことであります。

 バゥロン、イルン・パイプ、ギターとやってきたこの連続講演の次は10月15日、同じ下北沢の本屋B&Bでフルートを予定しています。講師は豊田耕三さんです。乞うご期待。(ゆ)



yosoys at 15:54|PermalinkComments(0)TrackBack(0)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック イベント