二塁手  高橋洋 ブログ

応援演説で対立候補に「大年増の厚化粧」と放ったことばが都民の怒りと同情を買い、結果的に圧勝への大きなポイントとなったのではないかという一連の報道をみていて、へーなるほどなと思った。当然ながらこの場合、そのことばに本人がどうリアクションするかという政治家としてのいわば「腕」が試されるわけで、その反応により世論は右にも左にも動くことになるのでしょう。彼女はそういう意味で完璧なリターンエースを放ったのかもしれない。「顔のあざをカバーするための化粧」というショットはおそらく誰も打ち返すことはできない。積みの一手ですよね。で僕は、彼女の「あざ」それ自体が実際にはどうなのかとか、彼の暴言がどういった権利をどこまで侵害しているかとか、そういうことについてはいま興味がない。僕がへーなるほどと思ったのは、もし報道が伝えるように「厚化粧」発言が都民のこころをグッと彼女へ向ける追い風になったのだとしたら、「あざ」というものはそれだけ強い同情に値する存在なんだな、ということである。誤解を恐れるのでもうすこし丁寧に言うと、「あざ」ということばがここではなにかとても「可哀想なもの」という響きで聞こえてくるような気がして、そのことに改めてうーん…ああそうか…と感じたのである。女性の、それも顔に存在する「あざ」というものはやはり相当に強いコンプレックスなのでしょう。男である自分が生半可「そんなに気にしなくてもいいのになあ」と普通に思って生きていることを、反省する。というか反省しました。程度の差はあれ…じゃないな、きっと程度に関係なく抱えるコンプレックスなのだろうから、自分のような人間の無神経が当人を無神経に傷つけその罪にさえ気づかない無神経…つまり件の発言者とある意味同じじゃないですか…という感じになってしまうのだろう。なんてことを考えたのは、自分にも生まれつき「あざ」があるからなんだけども。

 

ひだりがわの腰骨の下あたり、野球でスライディングしたときについジョリッとこすってしまう位置に、だいたいパスケースくらいの形・大きさのあざがある。生まれたときからなので、たぶん消しゴムくらいのサイズから始まり身体の成長に合わせ同じ比率で拡大したのだろう。色は、地黒な僕の肌よりもさらに日サロで三段階くらいアップさせたような茶。ベルトラインから下なのでもっとも色白をキープしているベースにのっかった茶色いあざは、裸になるとよくわかる。逆に、ふだんその存在を意識されることはない。それでも思春期の頃は、大人になるにつれてこの「あざ」が消滅しないだろうかと期待したことがあった。もちろんそれは、それまでとくに意識などしていなかった「あざ」が突然コンプレックスへと変貌する時期であり、そうなると「可哀想な」存在であるあざをなんとか人目に晒したくないと自意識過剰に陥るわけである。…男の子なのに、顔でもないのに。しかしながら身体の成長につれて仲良く育つそのあざと日々付き合うことで、おとなになると結局はなんでもない当たり前の存在へ変わっていく。ただ、他人にとってはそうではないのだなと思わされたことがあった。学生のころつき合っていた女の子に、あるとき一冊の写真集を渡された。見ると、自分たちと同世代くらいの若い男女(たぶん俳優さんだったと思う)が抱き合ったり歩いたり…なんかそんな感じのいい雰囲気の写真。で、なんでこれをおれに?と不思議に思っていると、「その人も、あざがあるんだよ」と彼女は言う。「あざ」…たしかにその男の子の身体にはあざがあった。彼女はそれ以上なにも言わない。僕はしばらくしてから気が付いた。そうか…彼女は僕に対してなんとなく励ましてくれているのか、と。彼女はただ、素直に優しいのだと思う。けれど僕はそのとき、へーなるほどな…と思った。うーん…ああそうか。で、いま都民として僕が思うことは、決まったからにはもろもろ頑張っていきましょうよ、ということなんだけども。

某メガバンクのATMで預け入れをしていた。そこは受付のない無人機。僕は通帳と現金を入れる。ふたが閉まり機械が紙幣を数えるシャンシャンという音がする…はずが、代わりにギーという不吉な音。…ん?なに? やがて「お取り扱いできなくなりました」という表示。ん? もう一度試そうとするが、通帳も現金も機械に呑まれたまま戻ってこない。取り消しボタンを探すが「取り扱えない」の一点張り。仕方なく画面横の受話器を取る。ツーツー、ツーツー。通話中?誰と? いぶかりながら再試行するが、何度やってもかからない。おっとマジかこれ…ふと見上げると、機械の斜め上にもうひとつ受話器が。え?こっち? 元の受話器をよく見たら音声案内とある。はあそうですかあ…と取ると、相手はクレームセンター的なクールダウン効果満載の「申し訳ございません」。上品な応対の彼女が「○○支店の○番機をお使いでいらっしゃいますね」と状況の説明を求める。「ではそちらのATMは無人機ですので、係の者がそちらに向かい対応させていただきます。高橋様はお急ぎでいらっしゃいますか?」「ええ急いでます、どれくらいかかりますか?」「そこから一番近いセンターから伺いまして30分くらいでございます」「はっ?」と思わず聞き返した。「30分てちょっと遅くないですか?」「申し訳ございません最短でそれくらいかかるかと」 うーん…さっき急いでる?って聞かれておれ急いでるって答えたんだけどなあと思いながら「では僕は係りの方が来られるまでここで30分待つということですか?」「いえいえその機械は止まったままふたが開くことはございませんので通帳も現金も無事ですから機械の前は離れて頂いて結構です」と。いやいや…そういうことじゃなくて… グッと堪えて「ではここを一度離れてから戻りますから、できるだけ急いでもらえるよう伝えていただけますか?」「はいかしこまりました、大変申し訳ございません」 などなどあって僕はその辺をブラブラとコーヒーを飲んだりして時間をつぶした。

 

ATMに戻ろうと歩いていた。少し離れたところをやはり同方向にトボトボ歩くやたら厚着の男が見えた。こんな暑い日に大変そうな恰好だ。彼は重そうなバッグを下げサンダルを引っかけるような気怠さでじつに低速で下を向いて歩いていた。というより何かに絶望してさまよっているようなトボトボ感。へーと観察しつつ歩いてると、某メガ警備会社のユニフォーム。ん?もしや、あなたが?と当然先着しATM前で彼を待ち受けるかたちの僕を見て、その30代くらいの男はハッと顔を上げお仕事モードに復帰した。いやいや…全然急いでねーし…マジかよ… グッと堪えて彼の作業を見守る僕。その間も残り三台の正常な機械で人々は入れ替わり取引を終えていく。僕はもう10分以上待っている。最初に「少しお時間頂きますから」とトボトボ男に言われたが、にしてもふた開けて通帳と現金取り出すだけでそんなにかかるんかい?という無音ビームを男の背中に浴びせる。男は機械を何度もガチャガチャやるがらちが明かない様子で仕方なくケータイをかけ「…そうなんです…それが分からないんです…この場合どうやって…」と機械のマニュアルを誰かにレクチャーされているのか。しかしふと見ると男の右手には通帳と現金が握られていて…えっ?取れたの?じゃなにこの時間?もしや故障の原因究明及び正常復帰までそれらは渡せません、という正規マニュアルにのっとった感じ?と思ったらここでようやく僕は堪えるのを止めた。通話中の男に向かって、それ機械の修理はテメーらがあとでやればいいだろ!お待たせしましたと返却するのがまず最初だろーが!という趣旨のクレームをとても冷静で論理的なトーンで伝えた。そしたら男はまた受話器に向かって「あっ今お客さんがさきに返してほしいって言ってるんですけど…どうしましょうか…」とか言い始めたので、普通ここでドロップキックじゃね?と思ったが、もうすでに急いでいた予定は諦めるしかなかったので、そちらも同様に諦めることにした。

何年か前に仕事でご一緒したことがあるが、そこからまあまあ時間が経っているしその仕事でそこまでガッツリからんだわけでもないからもしかしたら相手は僕のことをおぼえてないかもなと思いながら現場へ入り、実際お会いしてみたらその辺が読めないくらいあいまいな笑顔で挨拶されるので、まあいいやとそこはスルーする、というようなことはたまにあります。もしも、「あの時はお世話になりました」なんて話題を振ったはいいが、相手が「ん?あれ?なんだっけ?この俳優さんと仕事したことあったっけ?なんだなんだ?」と頭をフル回転させながらさりげなく話を合わせてもらうのもなんだか気まずいですからね。以前、あるドラマでいただいた台本を読むと相手役の俳優さんが数年前にガッツリご一緒した方だった。当然僕は現場で「ご無沙汰してます~」と笑顔で挨拶する。向こうも「あ~、どうも~」と笑顔。僕らはガッツリ仕事したその時以来はじめてお会いしたから、結構な久しぶり感でなごやかな雰囲気。と思ったら、その方の笑顔がキープされたまま次のことばが出てこない。「えーっと…あれ?あれ?」と脳内検索がはじまったのを目の前で認識してしまった僕が「うわっ、やっちゃったか…気まず~今日これふたりだけのシーンなのに…」とあわてた数秒後に、検索エラーだったのか「あれって、何年前でしたっけ?」と笑顔で聞かれ、「えーっと、もう○年くらい経ちますかね~」と笑顔で返した僕。…のヒントもむなしく「ああ~、そうか…もうそんなに経ちますかあ…」でフェードアウト。沈黙。ここでもうこの話題はシューリョーです。

 

9月に開幕する舞台『クレシダ』の主演・平幹二郎さんとはお久しぶりで、ポスター撮影のさいに挨拶させていただいたら相変わらずダンディーな低音で「よろしく~」とニヤリ。「うわっ笑ってる、いや覚えてる、つか当たり前か、変わらないな、スゲーな、よし負けずに頑張ろう」と僕は身が引き締まる思いでした。その撮影スタジオで、浅利陽介さんと花王おさむさんにもチラとお会いした。そのとき「高橋洋です、よろしくお願いします」とこちらは改まり、当然向こうも「○○です、よろしくお願いします」となったわけだが、僕はおふたりとも以前ご一緒したことがあって、だけどここでパッと思い出せる感じではなかったかもしれないとヘンに気を遣い、とりあえず「ああどうも~」風のスマイルでそこはスルーしつつ気持ちよくわかれた。おふたりの反応からも、覚えてらっしゃるのかどうなのかよく分からなかった。で、稽古に先駆けて俳優による台本の読み合せがあった。もちろんまだカンパニーとして始動したばかりで空気は硬いけれど、まあちょっとした雑談もしながらこれから頑張りましょうねと気持ちをひとつに向けていく。しかし僕としては、ことばはいくつか交わし始めたものの依然として「お久しぶりですよね~」風な空気を発することができないモジモジした自分に「喝!」を入れたい。…まあべつにどっちでもいっか…うーんでもなんか、思い切ってこんど話してみようと思います。いやこれですね、おふたりに対して全然「おや?」みたいな感じじゃなくて、全然。ただただどっちなんだろう?忘れてるのかな?覚えてるけど切り出さないだけかな?むしろおれが忘れてると思われてるのかな?…なんてグジグジと自分のへっぴりが気持ち悪いだけの話で、ほんと。

 


舞台『クレシダ』 
 
https://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2016/cressida/

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