二塁手  高橋洋 ブログ

今朝、駅に向かう道がやけに混んでるなと思ったら、乗用車とバイクの事故だった。消防車が車両の通行を制限するなか、ストレッチャーに乗せられたバイクの運転手が救急車に運ばれていた。道の真ん中に無残に横転した大型スクーターは衝撃で壊れた車体の破片を辺りにまき散らし、そばに停められた乗用車の運転手らしき女性はおろおろしながらその様子を見ていた。バイクって、ほんと怖いな。事故したとき真っ先にケガするのは無防備な運転手なわけで、そのわりに多くのドライバーがバイク特有の機動性を生かして車のすぐ脇をサッとすり抜けて行ったりする。抜けられた側は、死角から一気に現れ過ぎ去っていくようでヒヤッとします。この事故の原因が何なのかはわからないけど、停めてあった乗用車に大きな傷跡が見当たらなかったから、出会い頭でガツンとぶつかったというよりもきわどく接触してバイクがバランスを失ったのかなと思う。大事になってなければいいけど。ただ自分も以前、バイクに乗っていたからなんとなくわかる。オートバイを運転するのって、車を動かすよりも楽しいと感じることが結構あります。からだひとつで風を切って疾走するのは、その身体が無防備であるからこそ高揚するのです。二輪と一体になってスピードに乗り、カーブで遠心力と対峙するスポーティな感触は、四輪ではなかなか味わえないのですよね。たまに乗りたいなあと思うこと、あります。しかし今の事務所に入るとき、バイクだけは乗るな乗ったらクビだと言われちゃったので、まあしょうがない。

 

ずいぶん以前、事故を起こした。運転していたのは僕より五つくらい年上の先輩で、僕は助手席に乗っていた。ひとりは音楽を、もうひとりは芝居を生業にしようと夢見ていたともにアルバイトである。見通しの良い片側二車線の左側を50キロくらいで走っていた。100メートルくらい先に白い乗用車が同じくらいの速度で走っている。夏の夕方、肉体労働を終えた僕らはとくに会話するでもなく、今日も一日バイトで終わってしまうむなしさとけだるさが充満する車内で、たぶん先輩はボンヤリしてたのだと思う。前の車が減速して止まったことにまったく気づかず、あわてて急ブレーキをかけたが最後はそのままガツン。うわーやっちゃったー!と焦ったが、先輩は黙ったまま運転席を降りない。すると前の車から女性が降りてきてオロオロしながら「すみません!」と謝った。いやいや…そりゃハザードも点けずにこんなところで停まるのもマズいけど…前方不注意で気づかなかったのはこっちじゃない? しかし先輩はなお車から降りることなく、彼女を追い払うように手で払って「いいから、いいから」と言った。女性はあきらかに戸惑っていたが、戸惑ったまま結局車に戻り発進していった。彼女が見えなくなると、先輩は車から降りてバンパーの凹み具合を確認する。そして車に戻ると深く息を吐き、初めて動揺を表した。ハンドルに置かれた両手はカタカタ震えている。「運転、代わりましょうか?」と僕は聞いたが、「大丈夫」とすぐに発進させた。けれどその指先は相変わらず小刻みに震えていた。しばらく走った後、「やっぱり代わってくれる?」と先輩は車を停め、僕は胸をなでおろす。その日、事務所に社用車を返してから帰るまで彼は、衝突のことを誰にも言わなかった。

仕事柄ちょくちょく警察の取調室という場所に入ることがある。と言ってもそれはスタジオ内につくられたセットである場合がほとんどなのだが、この取調室という小部屋がいついかなるときも異様に殺風景なのだ。「殺風景」というテーマでデザインを煎じ詰めた最高傑作のよう。四角い部屋に、変哲がなさすぎる机とイス、たとえ窓はあっても外はあまりよく見えない。以上。次第に息苦しくなり「早くここから出してくれー!」と叫びたくなるような(というかそれが目的…?)灰色の硬い空間。そこに、被疑者と刑事。不思議なことに、被疑者としてそこにいても刑事としてでも(今回みたいに監察官でも)、おなじように息が詰まる。実際の取調室もこんな感じなのだろうか?それともこの殺伐感はややドラマチックに誇張されているのだろうか…いやいやそれはないだろうな、きっと綿密にリサーチした結果どのドラマや映画においてもこのような圧迫感満載の小部屋が再現されているのだろう。自分はとくに閉所恐怖症ではないのだが、もしも取調室という空間でいかつい刑事に「お前がやったんだろ!いいかげん吐いちまったらどうだ!」なんて来る日も来る日も延々怒鳴られたら(…これも実際こんなふうに取り調べているのだろうか?)、ここから逃れたい一心でもって「はい、わたしがやりました」とつい『自白』してしまうかもしれない。その可能性は否定できないなと僕は個人的に思う。思ってしまう。誤解されると困るのだがもちろんこれは、警察の取り調べ云々についての意見ではなくて、あくまで空間がひとに及ぼす心理的圧迫についての感想、ですからね。

 

ドラマ『BORDER 贖罪』でもそのような取調室でのシーンがいくつかあった。そしてやはり、リハでセットに足を踏み入れた瞬間から異様な閉塞感がじわっと押しよせる。なんというのか、単に狭く密閉された空間というよりも、それこそ檻のなかに閉じ込められたような遮断された空気なのである。孤絶。言ってもドラマの、フィクションのセットなのにね。僕は休憩中に一度、だれもいないその取調室にしばらくじっと立っていたのだが、なにかが気持ち悪かった。そんなふうに感じることはふだんまったくないのに。気持ち悪いと感じるものの正体がなんなのか分からないまま、たしかにイヤな空気にちょっとビビって外へ出ようと思った。あとからふと思ったのは、完全に明かりが消え落ちた舞台上の静寂である。それに似ている。ガランとした明るい劇場でひとり舞台の上に立つのは大好きなのだが、照明がすべて落ちたあとのステージに小さな手元明かりだけをたよって立つのは、逆にとても怖い。なんだろうか?気配?人魂?…よくわかりませんが。とにかくあの取調室には、これまで出演させていただいた作品のどの取調室よりも窒息させられた。以上。そういえば、気持ち悪くなって外に出ようとしたとき、ふらっと小栗旬さんが入ってきてしばらく他愛のない話をした。今回のドラマでも彼はストイックに役に向き合っている。はじめてご一緒したとき僕は「小栗旬」という俳優の存在を知らなかった。なんて自由なやつなんだろう…というのが強烈な第一印象で、いまもそれは変わらない。オグリのことについては、こんどまたガッツリ絡んだとき書こうかな。


テレビ朝日スペシャルドラマ『BORDER 贖罪』
http://www.tv-asahi.co.jp/border/

初舞台からまだ一年経ったか経たないか…の頃でしょうか、ある芝居の稽古半ばあたりでパンフレット作成のためのプロフィール確認作業があった。制作さんが作った僕のプロフィール(マネージャーなどはまだいないので)をチェックするように渡されると、そこには最終学歴が書かれてあった。ん?と引っかかる。学歴って…なにか演劇に関係あるのだろうか?…純粋な疑問。そのことをそのまま制作サイドにつたえると、ふつう学歴は載せますよ(その会社ではだと思う)と言われた。そういうものか…と一旦は受け入れかけたがやはりどうしても理解できない。俳優が舞台に立つうえでどこの大学を卒業しているか、なんて情報に果たしてなんの意味があるのか? まぁ今ならですねそんなことどっちでもいいわけで、そうした方が良いというなら何の抵抗もなく素直にはいどうぞなのだが、まだ20代半ばの自分は妙にトゲトゲしていてそういう慣習(?)をくだらねーと感じた。で、その学歴うんぬんのくだりはカットして下さいとお願いした。分かりました、とその場は収まる。数日後、あるスタッフが僕にさりげなく…というかやたら奥歯に物を挟みながら聞いてきた。内容は要するにこうだ。こちらが把握している髙橋洋さんのプロフィール(きっとそれ以前にどこかで作られたものだと思う)にある「○○大学卒業」というのは本当なのか? その経歴がじつは偽であるから髙橋さんはパンフレットに情報を載せることを拒んでいるのではないか?…というものである。その内容を理解するのに僕は結構な時間がかかった。それほど意外な質問で、かつ遠回しな表現だったから。ああ…世間ってこんな風に考えるんだ学歴のことを…と勉強させてもらったわけです。

 

ひとがどこの大学を(学校を)出ているかいないか?というモノサシを、僕自身はまったくどーでもいいと思っている。もちろん今も。だから、「自分、○○大卒です」オーラを振りかざすような人間にもし出会ったら、にっこり笑って静かにドン引きすると思うのですが、ふだん生きていてあまりそういうひとに接する機会はない。…のは、自分がなんとなくそういうオーラを避けてるのかな。ともかく、芸能という現場ではあまりその種の吐き気を感じないでいられるわけだが、その芸能がつくるドラマのなかにおいては結構出てきますよねザンネンな人種が。「私、東大出身なんで」というツンとしたキャラクターを見かけることがままあるように思う。東京大学に対して、あるいは東大卒の方に対して個人的にはなにひとつ含むところはありません。ただ明快な記号としてそういう人物が配置されると、むしろ東大出身のひとにはちょっと可哀想だなあと思うこともあります。みんながみんなそのキャリアを振りかざしてなんかいないですよね?きっと。大なり小なり振りかざしてるのかな…? うーん、よくわかりませんがそうではないことを祈ります。ドラマ『オトナ高校』では、東大出身であることを分かりやすく振りかざすひとと、サラッと振りかざすひとがそれぞれ出てきます。主演の三浦春馬さんは、じつに気持ち良いくらいのトップフォームで振りかざしてきます。そんなキャラクターを演じていても、どこか憎めない愛されキャラだなチクショーうらやましいな。春馬くんとは映画『東京公園』以来久しぶりだなと思っていたら、「もう六年ですよー」と言う彼はまだ27歳だって。うわ~未来が燦然と伸びているのだなうらやましいな、ってやっぱり思うのでした。


テレビ朝日ドラマ『オトナ高校』
http://www.tv-asahi.co.jp/otonakoukou/

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