赤毛のレドメイン家 『赤毛のレドメイン家』 イーデン・フィルポッツ
 原題 THE RED REDMAYNES (1922)

 東京創元社/創元推理文庫 111-01 (1970)
 宇野利泰 訳
 解説/中島河太郎




 『赤毛のレドメイン家』について何か書こうとするなら、江戸川乱歩の存在を無視することはできない。この小説が日本のミステリ界に深く根付いたのも乱歩の影響によるものだし、実際に『赤毛のレドメイン家』を読んでいなくても、乱歩が本作を翻案した『緑衣の鬼』によって、犯人の設定だけは知っている人も多いだろう。

 江戸川乱歩が選んだ黄金時代の探偵小説ベスト10で、『赤毛のレドメイン家』を1位と評価したことは、世の中の長編探偵小説でナンバー1だと公言したとのと同義である。それは有名な「赤毛のレドメイン一家」というレビューからも痛いほど伝わってくる。泡坂妻夫は『随筆探偵小説』を「探偵小説に対する恋文」と評したが、この書評は誰が見ても『赤毛のレドメイン家』へのラヴレター以外の何者でもなく、未読の方がいるのなら『鬼の言葉』か『随筆探偵小説』などに収録されているので、ぜひ原文で読んでもらいたい。こんなにも熱くミステリについて語った文章は他にないはずである。

 しかしながら乱歩の死後、その威光が薄れてきたのか『赤毛のレドメイン家』への評価は時間が進むに連れて下がるばかりで、そもそも日本以外にずっと読み継がれている国もないらしく、古典ミステリの代表作というランクからは外されたように思う。

 それでもこの作品を愛する人がいなくなったのかというと、決してそんなことはなく、瀬戸川猛資の『昨日の睡魔』や、『テンプラー家の惨劇』の真田啓介による巻末解説など、必読のクラシック・ミステリと評する人は存在する。

 先に書いた通り『緑衣の鬼』で犯人の正体をバラされているのだから、私自身はこの『赤毛のレドメイン家』を長い間読みたいと思わなかった。私はポプラ社のリライト版で子供の頃に初めて『緑衣の鬼』を読んだのだが、それ以降も元の大人ものを含めて4、5回は再読したと思う。『緑衣の鬼』は猟奇的な衣をたっぶり着せられているため、『蜘蛛男』や『黒蜥蜴』のような突拍子もない怪人が跋扈する通俗スリラーであり、犯人の正体など一部の設定を借りただけの別物にアレンジされていて、フィルポッツの親本とはカラーがまったく違う小説なのだが。

 ということで、恥ずかしながら『赤毛のレドメイン家』を今回はじめて完読したのだが、文章が妙に間延びした感じが拭いきれず、かなり読むのに時間がかかってしまった。こちらは犯人と仕掛けがわかっているために余計にダレてしまい、乱歩の褒めている壮大な風景や恋愛描写もそれほど楽しめなく、ダラダラと筋を追っていくのが精一杯だった。メイスンの『矢の家』など、仕掛けがわかっても再読が面白いと思えるミステリもあるが、『赤毛のレドメイン家』は初読で衝撃を受けるタイプの作品のようで、犯人がわかって読むミステリとしてはあまり適してない。

 ただ事件が解決した後、犯人の手記が長々と最後に記述されるが、ここは『緑衣の鬼』に採用されなかった場面であり、生まれつきの悪人が語る凄まじい告白はこの作品のクライマックスを飾るものとして実に相応しい。

 『緑衣の鬼』をまだ未読の人は、先に『赤毛のレドメイン家』から読むことをオススメしたい。真っ白な状態でこの長編を読んだなら、さぞかし意外な犯人の正体に感動できるし、私とは全然違う読書体験が可能だろう。ということで今回は粗筋の紹介はやめておくことにし、どうしても本書の概要を知りたい人は乱歩の書評「赤毛のレドメイン一家」を読んでいただきたいと思う。
 
 最後にこの『赤毛のレドメイン家』の文庫を紹介しておこう。入手困難なものもあるが、これだけの訳書があるのも、ミステリの古典として愛され続けた本の証なのだろう。

『赤毛のレッドメーンズ』大岡昇平訳 創元推理文庫(旧訳版)
『赤毛のレドメイン家』宇野利泰訳 創元推理文庫
『赤毛のレドメイン家』橋本福夫訳 新潮文庫
『赤毛のレッドメーン家』赤冬子訳 角川文庫
『赤毛のレドメイン家』荒正人訳 講談社文庫
『赤毛のレドメイン家』井内雄四郎訳 旺文社文庫
『赤毛のレドメイン家』安藤由紀子訳 集英社文庫

 目下のところ、1999年刊行の集英社文庫が一番新しい訳であるが、2012年現在新刊書店で入手できるのは創元推理文庫の宇野訳のみである。