
今回の展示空間で一番頭を悩ませたのが、博物館や資料館にありがちなガラス面をどう扱うかだった。写真専門ギャラリーによくある一般のホワイトキューブと違い、写真を近くで見ることもできず、壁面が非常に遠くに感じてしまう。
そこで、そのガラス面を現実と非現実の境目と定め、本のある方を脳内世界とすることにした。観客は脳内からガラス(視界)越しに写真(世界)を見るが、それは 当時の自分が感じていたことを疑似体験させる仕掛けになればいいと思った。
一見時系列に沿って過去、現在、未来と展示は続くが、実際はその全てが同列に存在する。本殿とも言える写真集のピラミッドが未来。その対面に自分のコアになっている精神世界やカウンターカルチャーを配置。
ちょうどガラス面ではそこが中心の柱になっていて、左右でフィルム写真とデジタル写真で分かれている。デジタルの解像度にフィルムの空気感など、それぞれには別の良さと特徴があり、本質的に全く違うものだと分かるはずだ。
四天王とも言えるガラスケースには自身の本世界のルーツとなった火の鳥、旅の原点となった観光、そしてグラウンディングさせてくれた瀬戸内海論と、特に重要な3冊を収めている。最後の一つには全ての写真を撮影したカメラが。会場の写真たちが再びそのレンズに二重に映り込んでいる。
油絵科を目指していた大学受験の失敗からの写真、写真を素材にしたコラージュ遊びから、軍艦島を契機に現実世界へ。日本中の廃墟、聖地、そして自然な流れで海外へ。そこから内なる世界へと向い、皆既日食体験を経て着地するローカル。
そして再び世界へ?
旅はまだ続く・・・