山の朝は早い、夜明の空にまだ星が見える中起床、朝食、身支度、テントの撤収。
人工物の全く無い自然の中では、電磁波など普段気にせず浴びてる余計な要素が無いためか 、自分でもビックリするくらい頭が冴えてるのが分かる。

遥か彼方の山の稜線をヘッドライトが移動して行くのが見える。今、この瞬間にも頂を目指して誰かが歩いている。多分これから下界に下り、普段街で生活してる間にも、ここにはそういう人達が必ずいる。そんな事を想像しただけでソワソワ、もう タ マ ラ ナ イ。


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典型的な氷河地形のU字谷の底を進む。この辺りからブヨが大量に纏わりついて来て非常に不快。『ミュータントメッセージ』というアボリジニを題材にした小説があるのだが、あの本では確か自然のもたらすものは全て意味があるから体に蠅がたかってきたとしても気にするなと書いてた。なんでも耳の中とかを掃除してくれるらしい!

よし、自分も・・・


って絶対無理!


耳の辺りでブンブンと耐えられない。速効で虫除けネットを被りパーティー中一番の完全防御wしかしこの後もネットの網目に潜り込んでくるツワモノなブヨがいたりと森林限界を抜けるまで苦しめられることに、、。虎の子のハッカ油も全く効かず!

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そしてふと草むらを見ればトリカブトがびっしり!ここでは誰でもが下界では栽培することすら許されぬ世界最強の毒草を鑑賞できる。一説には地獄の番犬ケルベロスのよだれから生まれたとされる、その猛毒に恥じぬ妖艶な姿は見るものを激しく誘惑する。

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そんなミクロの有象無象を全て包み込むように、マクロの景色はどんどんその壮大さと美しさを増して行く。このU字の谷は通称「槍沢の大曲り」と呼ばれる場所。既にこの場所の時点で2000メートル!西日本には存在しない高度だ。まさにこれからは空中を登って行く事になる。

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そう、ここは天上世界!真夏だというのにまだまだここには雪渓が残っている。山上湖等、より槍ヶ岳を楽しむルートはこの雪渓を越えて反対側に歩いて行かなければならない。しかし今回自分達は登頂を第一目的に考えていたのでそこにドンドン突っ込んで行く剛の者を横目に、黙々と登って行く。

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ついに森林限界を越えた!そこに広がるは岩がゴロゴロと転がったデスゾーン!ここら辺りから朝は晴れていた空にドンドン雲がかかり始め、山頂は真っ白に。写真の上部には本当なら槍の姿が見えるはずなのだが、、、。

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槍ヶ岳の開祖、播隆上人が四十八日間籠ったとされる播隆窟。詳しくは新田次郎の名著『槍ヶ岳開山』に詳しい。現在でも悪天候時の避難場所として使われることもあるそうだが、今でも通用する立派な岩屋であった。中にお地蔵さんがあったので、手を合わせる。




・・・と、その時!







ふと上を見・あ・げ・る・と!!!!


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あ・・・





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゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!



ついに聖槍(Longinus)がその姿を見せた!


そこにいた一同全員の動きが止まり、しばし呆然!皆立ち尽くす。登山者を天から見守る播隆上人の心意気か、はたまたただの偶然か、時間にしてほんの3分程だったように思う。青空が見えたのはこの日この一瞬限りだった。まさにワンチャンス!

山としては国内5位の高さながら、日本人のみならず海外(実際この日も外国人登山者に多数遭遇)からも圧倒的な人気を得る理由が分かる。ここまで名前の通り槍を体現してる山は他になかなか、ナイ。



「我が名は槍ヶ岳、播隆に征服されはしたものの、未だに万人を拒み続ける北ア(北アルプス)の王!登山者よ、その意気や良し。こ度一回きり我が姿を見せてはやるが、つけあがるでない。我の力を見くびるものには、必ずや森羅万象の鉄鎚が振り降ろされるであろう・・・。」

その存在感、デスピサロか最終形態エクスデスか、はたまた'94バージョンのルガールか。

その姿は何度も何度も写真や雑誌で目にはしていたのだが、いざ目の前にすると非常に現実感が無い。人間がオーラを纏うことはあるだろうが、自然にもそれは当てはまるのだろうか?果たして目の前の隆起した岩石の塊からは、確実に凄まじいオーラが放たれている(ように見えた)!


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ああ、やっぱり行こうと本気で思ったら人はどんなところにも行けるのだなあとしきり。それが月だって可能だと思う。そして火星に人類は未だ到着できていないが、おそらくそれは単純に本気度がアポロ計画の頃と比べて圧倒的に足りないからだろう。行けると信じて疑わなかった月世界探索に比べて、火星の方は皆心の奥底では「ひょっとして無理なんじゃ?」とか「わざわざ大金かけて行く事にあんまり意味ないんじゃ?」などと思ってるんだろうナw

↑以上の妄想事プラス歩いて位置取りして撮影を3分の間にこなす。まさに一瞬だった。




さて、またもや何も見えなくなった山頂目指して歩く歩く、一歩が重い!

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ここら辺りの岩にはもう高さのある植物は存在することを許されず、足元を見れば岩の塊に苔のような粘菌?のようなものがびっしりとへばりついていた。

今回山装備に初めてトレッキングポールなるものを導入してみたのだが、これが効果絶大だった!一見軟弱で邪魔そうだから敬遠してたのだが、何で今まで使わなかったんだろう?ってくらい歩行が楽!むしろもう無いと山登り嫌w人間食わず嫌いはいけませんな。

そしてついに山頂の大槍直下、今日の宿泊場所である日本一有名な山小屋『槍ヶ岳山荘』へ到着!

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すでに視界は相当悪くなって来ている。稜線に出た為風も相当強く、今にも降り出しそうな天気に山荘の中は凄い人だ。急ぎ窓口で受付を済まし、一張り500円払ってテント場へ。

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これがまた今まで体験したことの無いくらいの強烈な場所!急斜面にへばりつくようにテントが立ち並び、目の前にはうっすらと大喰岳が見える。ここを縦走して更なる猛者達は穂高など日本近代登山史に欠かせぬ名峰へと旅を続ける。

そこに思いを馳せつつ雨が降らないうちに急いでテントを設営する。後で分かったのだがここも早い者勝ちで、最悪一杯になっていた場合は半強制的に山荘泊を迫られる事になる。山頂まで重いテント装備を運んで来た者にとっては冗談じゃ無いという話だろう。

さて・・・

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山荘から見た大槍、見えます?小さく筋になってる極彩色のウェアを身にまとった人間が。この日を逃してなるものかと、最後のアタックをかける登山者で山頂ルートは大渋滞。何でも明日からは更なる悪天候が予想されている様子。

ドンドン風は強くなり、見ていたら今の団体を最後に山頂へ向かおうとする者はイナイ。さあどうする。今登っても眺望等は望めず、視界0なのは間違いなさそうだ。運を天にまかせ明日の朝再アタックするという手もあるが?


しかし明日はもっと天候が悪かったら(雨だったら)どうする!?






これは・・・










ここまで来たからには・・・














行きますか!!

















山荘の側にあった小さな祠に手を合わせ、いざ槍の切っ先へ!

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う あ...。




これはキてるな...。






全国屈指の岩場を誇る四国の名峰石鎚山で毎年鍛錬している自分もこの急角度の連続した鎖場はサスガに未体験!

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時折降り注ぐ小雨により、足場はかなり悪い。一瞬でも気を抜けば霧に霞む奈落の底だ。激しく死を意識!しっかし好き好んでこんな所にわざわざ来るんだから、登山者というのはどこまでドMなのか・・・

(って自分もその1人かw)




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山頂直下!ラストセッションは直角に切り立った岩場に取り付けられた鋼鉄の大ハシゴを登る!同行の二人もここではサスガに冗談を言ってる空気じゃなく、無口になってる。皆本気!(と書いてマジ!)
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そしてついに!やったよやりましたよ〜。超人気百名山の為、山頂は渋滞覚悟でと聞いていたのだが、悪天候の為全然待ち時間無く登頂!

しかし槍の先端だけあって狭い!10人もいれば足の踏み場も無いくらいだ。その時急速に雨が降り出して来た!急げ〜。この後は必死過ぎて写真無し。なんとか山荘まで辿り着く・・・。

山の天気は本当に読めない、急速に周囲が暗くなって行く。

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風もドンドン強くなってきて外にいては危ない雰囲気に。急ぎ我らのシェルターへ。

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テントの窓から見たらここはどこの惑星なんだろうか?という風景。
昨日のババ平のテント場と比べても、もう1レベル非現実的な世界。

海抜3000メートルの場所で、心地よい疲れと登頂した達成感からいつの間にか眠りにつく。







続く・・・