じめじめした遺跡に「音」が静かに響き渡る……

それは日常聞くことのない、音。


耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな「音」だったが、この遺跡にあるのは水の滴る音と、ときおり聞こえる羽音だけ。

遮る「モノ」は何もない。


……ここはイクシオンの住処である「エイシスケイブ」のさらに奥「タルタロッサ・パレス」。


この危険な秘境に訪れる者は滅多になく、周囲には誰もいない。




その異質な「音」は大小二つの影から聞こえているようだった。

ひとつはどこにでもいる「ニューター男性」のシルエット。


…もうひとつはこの遺跡の住人「タルタロッサ ルーク」のシルエットだった。


二つの影は折り重なって、一つの塊となっていた。

「ニューター男性」が「上」に、「タルタロッサ ルーク」が「下」に。



…その男は自分の倍ほどもある「タルタロッサ ルーク」に覆いかぶさっていたのだ。




彼はかすかに微笑んでいるようにみえたが、眼光はナイフのように鋭く、狂気をはらんでいた。

しかし流れるような銀髪は美しく、思わず見惚れてしまうほど。




…グエエエエエエェ!




甲高い鳴き声が聞こえる。

「タルタロッサ ルーク」 の断末魔だった。

と、同時に男の口から滴り落ちる赤い液体……



整った顔立ちから凄惨な笑みがこぼれる。



   暗黒命令「サクリファイス ディナー」



男は喰っていたのだ。「タルタロッサ ルーク」を。

羽を毟り、弄ぶことを楽しみながら……






男の名は「Leslot」といった。




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「やぁ!久しぶりだね」

私はできるだけ気さくに声をかけた。



彼に会うのはネヤで少し冒険の手ほどきをして以来だったが、この短期間で弓の二次シップ「スナイパー」となっていることに驚きを隠せない。

いや…なによりもこの「タルタロッサ パレス」を島に来て間もない彼が一人で平然と歩いていることが驚きだった。


「どうも……何か用ですか?」

彼は滴る血液をぬぐいながら、私に一瞥くれただけですぐに戦いに戻る。


「いや…一人で戦ってるのが見えたから来てみたのだけど、何も心配はいらないようだね」


「……」


「そうだ…PT組んで一緒に遊ばない?」


「……」


彼は何も答えなかったが、私は有無を言わさずPT申請を飛ばした。



これが「Leslot」との本当の出会いだった。




彼の戦い方は独特だった。

弓で相手を射るだけでなく、調教「マンカインド フェイタライズ」で下僕化させたペットをけしかけ、用が済んだら「サクリファイス ディナー」で喰う…


また、「テラー チャーム」「スケイプ ゴート」「ハンギング ウイングス」も使いこなしていた。


暗黒命令でタルタロッサの動きを封じ、調教で服従させ、そして最後には食べる…



「ふふふ…」


彼の微笑みは、不気味だった。



そして彼はいつも「独り」で戦っていた。

それから何度か彼を見かけることがあったが、常に「独り」だった。一時の仲間である下僕すら、彼の食糧にすぎなかった。





だから私は   


   「僕のFSに入らないか…?」


  
彼を『夢戦記』に誘った。


挿絵



彼のように一人で遊ぶことだって楽しいのは分かっている。

しかし、一人では行けない場所も多くある。

私は彼にこの島のことをもっとよく知って欲しかった。楽しいことはたくさんある、と。





「まぁ…貴方のFSなら入ってもいい…です」



彼は「FSとは何か」ということを私に聞いた後、すこし考え、そう答えた。


「ところで…」

「夢戦記ってのには、何人くらいいるんですか?」

当然の疑問だ。


「えっと…誘ったのは君が最初だ…あと一人いるけど」

バツの悪そうに答える私。



「…3人…少ないですね。まぁいいですけど」

少し落胆したそぶりをみせるが、元来「ソロ プレイヤー」である彼には人数など関係ないのだろう。すぐに元の表情に戻る。


「誘うアテはあるから心配しないで」

私はある「戦乙女」のことを思い浮かべながらそう答えた。

(彼女ならきっと…)





   こうして、暗黒の弓使い「Leslot」を仲間に加え動き出した『夢戦記』



この時、まだ私は知らなかった。

この不気味に微笑む暗黒弓使いが遂げる変貌を……









その男、不死身につき(後編)へ続く