February 23, 2017

“おいしいとこどり”してませんか?:『学校臨床ヒント集―スクール・プロブレム・バスター・マニュアル』 4

学校臨床ヒント集―スクール・プロブレム・バスター・マニュアル
若島 孔文 金剛出版 2003-01
売り上げランキング : 346283
by ヨメレバ
【推奨対象者】スクールカウンセラー(SC)に成り立ての方,SCとして上手く活動出来ていないと感じる方
 
 本書は“ブリーフセラピー”“家族療法”で著名な現,東北大学大学院教育学研究科・教育学部准教授の若島孔文氏によって編まれた,問題が尽きない学校現場の中で「いかにスクールカウンセラーが教員と協働しながら学校問題を解決するために動けるのか」,その問題解決の実際を紹介した手引書です。

内容は以下の通りです。

はじめに◆若島孔文
 
第1部 辞令がきた!
第1章 スクールカウンセラーという仕事:生田倫子
第2章 スクールカウンセラーの守秘義務:生田倫子
コラム機ヽ惺擦箸いΧ間◆小野寺哲夫
コラム供 屮レる」とは !?◆若島孔文
 
第2部 相談室を経営しよう!
第3章 相談室の経営――マネージメントって何?:佐藤宏平
第4章 教員との良い連携,悪い連携:花田里欧子
第5章 養護教諭と住み分ける:菅原佳世
第6章 子どもとの相談:佐藤宏平・石井宏祐
第7章 保護者との相談:若島孔文・吉田克彦
コラム掘,海海蹐龍擬質蠱粍として―“役割フリー”というあり方◆石井宏祐
コラム検,い犬瓩硫魴茴〆監9平
コラム后,い犬瓩罰惺嗣簑蝓蹴惶蘰發亮匆馘勢力,自己利益と社会的責任◆福島 治
コラム此〜闇いらの引き継ぎ◆松田るり
 
第3部 それでも問題はいろいろ起こる
第8章 授業をする:佐藤智昭
第9章 教員研修をする:佐藤智昭
10章 外部機関との連携:久保順也
11章 病院との連携:花田里欧子
12章 予防的治療こそはスクールカウンセラーの醍醐味である:勝亦健介・若島孔文
コラム察.團◆Ε汽檗璽箸隆躙雲◆小野寺哲夫
コラム次 ̄海里茲Δ淵曠鵐箸力但\古栂兒
コラム宗仝綰ぜ圓悗琉き継ぎ◆松田るり
 
付録1 「病気かな?」に気づくポイント―思春期に多い精神疾患症状の見極め方:花田里欧子
付録2 紹介状の書き方:花田里欧子
(目次より;敬称略) 

 “スクールカウンセラー(以下,SC)”は公立学校への配置が拡大されており,その専門性に対する期待も高まってきていると思います。しかしながら,本書のはじめに書かれているような,こんな事例を依然として耳にすることがないでしょうか?

 教職員の誰ともかかわらず,古城の牢獄のような部屋にいるスクールカウンセラーがいます。彼の存在を知る生徒はいませんが,来る日も来る日もそこで彼は生徒を待っているのです。養護教諭も最初は「誰もこないですね」と気を使っていたものの,今では彼の存在を忘れているかのようです。目の前にある箱庭がむなしく見えます。

 生徒指導の先生がスクールカウンセラーに,気になる生徒を送り,その後の状況をたずねると,スクールカウンセラーは「今,ラポール形成中です」と言います。先生はさすがスクールカウンセラーとばかりに「生徒をよろしくお願いします」と頼み込みました。それから1ヶ月,2ヶ月たっても,たずねるたびに「ラポール形成中」と言うのです。「いったいお前はいつまでラポール形成中なんだ!」と心の中で叫ぶ生徒指導の先生,戸惑いを隠せません。

(はじめにより一部抜粋) 
 今でこそ“チーム学校”と言われ,“協働”“連携”による問題対応が重要視されるようになってきたとはいえ,まだまだ手探り状態の学校関係者は多いのではないかと思います。本書は,まさにSC黎明期において,学校で生じるさまざまな問題と悪戦苦闘した経験から生み出された経験知が凝縮されており,「SCとして上手く働けていない」と思ったときに役立つ内容となっています。


 具体的には本書は3部構成となっており,第1部はSCの業務紹介になっています。ここでは未経験者でも業務の雰囲気がイメージできるように,中学校における一日のSCの活動が紹介されています(第1章)。SCとして活動したことがない人はここで紹介されている“SCとしての守秘義務の守り方”は是非学んでおきたいところです(第2章)。

SCは限られた時間で活動をしなければならないため,学校側と必要に応じて情報を共有しながら,協働して問題解決することが必須となってきます。守秘義務を全面に出して,一切の情報を学校側に流さなければ守秘義務で悩むことはなくなりますが,

筆者のまわりでも,学校とうまくやれなくなってしまったカウンセラーの話を耳にしますが,そのほとんどの原因は相談室のブラックボックス化,密室化です。(p.20)
と述べられているように,学校側からは不信感を持たれて活動できなくなります。しかし,情報を共有しようにも「どこまで共有すれば良いのかわからない」というジレンマも出てくるのも現実です。

こうした場合に“集団守秘義務”という考え方を知っているだけでもだいぶ違うのですが,本書では“守秘義務ジレンマ”の具体的な解決手段がいくつも紹介されています。個人的に大いに参考になったのは,「具体的な情報ではなく一般化した情報を使う」(p.26-27)テクニックです。これは,

 オープンにしなければならない事項がある際に,生徒が話した情報の論理段階を上げたものをオープンのするということで情報の氾濫をくいとめるのです。以下に例を挙げます。

例2「昨日帰ったら,お父さんがお母さんのことを殴ってたところだったのね,そのあとお母さんが離婚するから大学には行かせられないって言ったの」
→「両親の不和が著しく,大学進学への不安材料になっています」
→(もう一つ上の論理段階)「家庭問題があり,大学進学に不安を抱えています」
(p.27;例1は割愛) 
というもので,包み隠さずすべてを説明するのではなく,伝わることが大事だということに気づかせてもらいました(そもそもSCがダラダラ説明していては,多忙な教員は聞いてくれなくなります)。


 第2部では,相談室の運営(第3章)や教員との連携の実際(第4章),養護教諭とのすみ分け(第5章)など,さまざまな方面のSC活動のマネジメントの仕方が紹介されています。特に“相談室の経営”は,スクールカウンセラー便りの見本や,相談室を初めて開室する際のポイントなどが紹介されており,前例のない場所で働くSCには参考になるところが多いと思います。

教員との連携や養護教諭のすみ分けもそうですが,子ども,保護者との相談(第6,7章)はブリーフセラピー的な要素を紹介しつつも,単なる事例解説とは異なり,常に学校全体で問題を解決しようとする姿勢が貫かれています。

こうした学校全体の中で活動しているという意識を持つことで,

 カウンセリングにつないだら,それで万事問題が解決した,というわけではありません。重要なのは,スクールカウンセラーまかせではなく,必ず教員にも一緒にかかわり続けてもらうという姿勢です。具体的には,カウンセリング後のお互いの情報交換に先生方にかかわってもらうこと,つまり,教員はスクールカウンセラーから,生徒についての見方や考え方を伝えてもらう。スクールカウンセラーは先生方に学校での様子,教職員しか知り得ぬ情報を伝えてもらうということです。こうしたやりとりを繰り返しているうちに,お互いがなくてはならない存在だということに,気づいていくことになるでしょう。
(pp.61-62) 
という連携の“持続性”が生まれ,学校全体で問題対応を行う素地ができあがり,

頑張りすぎ屋のスクールカウンセラーが一人で問題に対処しようとすると,先生方の協力が得られませんよ,協力が得られないとケースも効率よく改善されない(p.52)
という事態が防がれるわけです。鼻息荒い,駆け出しのSCは十分気をつけたいところです。


 第3部は,SCが担当する授業や職員研修のノウハウ(第8,9章),外部機関・病院との連携(第10,11章),予防活動の重要性(第12章)など,より発展的(故に疎かにされがち)なSC活動の実際が紹介されています。

ここで紹介されているのは授業や研修のネタというよりも,「スクールカウンセラーの授業に乗らない生徒がいるときに」(p.119)などのトラブルシューティングが多く,困ったときにとても参考になります。また外部機関・病院との連携も,具体的な連携例が紹介されており,連携しましょう!といった中身のない類書と違ってより一歩踏み込んだ内容となっており,これも非常に助かります。

特に,統合失調症が疑われたチハルさん(仮名)の対応例は考えさせられました。子どもが親への連絡に抵抗した際,

担任には,「スクールカウンセラーがうるさくいうので,仕方なく親を呼んだ。私はチハルさんの気持ちを尊重したかったのだが」というスタンスをとってもらい,スクールカウンセラーはいわば「悪者」になることにした。つまり,スクールカウンセラーとチハルさんの関係は悪くなっても,学校とチハルさんはつながる,という図式である。
(pp.156-157;赤字強調筆者) 
と,SC自らを「悪者」にすることで,学校側との連携が絶たれないようにするという発想はこれまでの私にはなかったものでした。とにかく子どもや保護者(家庭)のことを考え,日々の生活の中でサポートをしやすい環境を作っていくためには,面談で素晴らしい技法を活用して解決にもっていくよりも,こうした人間関係を意図的につないでいく戦略が必要ではないかと思います。これこそ,人間心理に通じたSCならではの技ではないでしょうか。

どうしてもSCは,教員に怒られた子どもをフォローするというおいしい役を担いやすいです。しかし,子どもはSCと会う時間よりも学校で教員と過ごす時間の方が多いのです。ですから,

 生徒というのは,普通厳しいことを言う人は自分から遠ざけ,フォローしてくれる人は近づけます。つまり,フォロー役はラポールをとりやすいのです。もし,担任が指導しスクールカウンセラーがフォローに回るならば生徒側は,(一般的には)たとえ一時的にでも担任を「きらいになる」かもしれず,スクールカウンセラーは「やさしい」人として株を上げるでしょう。つまりスクールカウンセラーは,学校側から見ると,「おいしいとこどり」に見えてしまいます。
(中略)
 生徒と教師の関係をマクロに見るという観点から,担任と生徒がこれから良い関係を築いていくための援助なら何でもするという気概が重要ということです。実際に,担任にフォロー役をやってもらって,「担任に対してこれまでむかついていたけど,こんなに自分の肩を持ってくれるんだ」と生徒が感動して問題行動が全くなくなったケースも2,3経験しています。
(pp.28-29;赤字強調筆者) 
という,「おいしいとこどり」にならない配慮ができるようなSCになりたいものです。


 以上の通り本書は,SC黎明期から前例のないSC活動を切り拓き,一筋縄ではいかないさまざまな問題に立ち向かっていった“学校臨床の先人達(=スクール・プロブレム・バスターズ)”の知恵と工夫が結晶化した手引書です。どこぞの優等生っぽいテキストにはないこの泥臭い内容こそ,日々の活動に悩むSCにとって大きな助けとなると思います。

ちなみに,巻末に付録として収録されている,精神疾患症状の見極め方のポイント紹介状の書き方も地味に役立ちます。


【関連文献】 
●スクールカウンセラーとして求められるものを知るために…
オススメ
『学校が求めるスクールカウンセラー─アセスメントとコンサルテーションを中心に』
(スクールカウンセラー(以下SC)事業の歴史を振り返ると共に,これからのSCのあり方を法律や制度を含みながら包括的に示し,学校現場における臨床心理士に求められることをまとめたSC必携のガイドブックです。SCとして活動する上で必須の知識だけでなく,SCを取りまく現状を俯瞰した上で「学校から求められるSC」のあり方と具体的な職務について,これまでの実践経験を踏まえた上での包括的な枠組みが示されており,本書と合わせることでSCとして“入る”ための準備がしやすくなると思います)

オススメ
『スクールカウンセラーの第一歩―学校現場への入り方から面接実施までの手引き』
(赴任当初の動きや,学校内での立ち振る舞い,面接予約・記録の管理,守秘義務と連携のバランス,教員や保護者,子どもとの関係づくり,など初心SCが悩み不安になりがちなポイントについて丁寧に解説したオリエンテーションブックです。初心のSCが学校現場に入っていく,まさに初期のプロセスを丁寧に描き,そこで誰しもが感じる疑問,不安について具体的に解説し,「第一歩」を踏み出すための方針が示されており参考になります)

●子どもと家族への対応を学ぶために…
オススメ
『教師・保育士・保健師・相談支援員に役立つ子どもと家族の援助法―よりよい展開へのヒント』
(児童相談所や保健所あるいは学校などで子どもと家族の相談を受け持つ支援者が迫られる対応の難しい事例について,家族療法の考え方をベースに広い視野から現場で出来る援助を考えるポイントを解説したテキストです。家族療法的な考えをベースとしながらも,子どもと家族という柔軟な発想が一層求められる支援の実際を分かりやすく紹介するとともに,クレーム対応や障碍,虐待への対応,関係機関との連携まで網羅された支援の指南書となっています)

●発達障害のアセスメントについては…
オススメ
『「臨床心理学」13(4)-特集 対人援助職の必須知識 発達障害のアセスメントを知る』
(知能検査だけに留まらない発達障碍支援に必要な包括的なアセスメントの視点・ツールについて最新の情報をコンパクトに紹介した雑誌です。従来の“知能・認知機能”評価だけに留まらない幅広い視野から発達障碍支援に必要なアセスメントの視点とツールが包括的に紹介されており,知っておきたい情報がコンパクトに収録されている本誌は忙しい心理士にとって非常に有用な情報源になると思われます)

●発達障碍の支援法の1つであるABA(応用行動分析)についての分かりやすい本は・・・
オススメ
『できる!をのばす行動と学習の支援―応用行動分析によるポジティブ思考の特別支援教育』
(特別なニーズを要する子どもを支援する際に,応用行動分析(ABA)の考え方を用いて個人と環境の相互作用に着目し,不適切な行動を減らそうとするのではなく適切な行動を学習しやすくするという子どもの良いところを見つけてのばす支援法について書かれたテキストです。イラストが豊富に示されており,専門家でない人にもおすすめです)

『プラス思考でうまくいく行動支援計画のデザイン』
(応用行動分析(ABA)などと同じように障碍のある個人の問題行動を場面文脈から理解し,代替スキルの教授や環境調整などを通じて支援をしていこうとする一連のプロセスである“プラス思考的行動支援計画(Positive Behavior Support Plans:PBS)”に関するテキストです。支援ツールとしてのABAを,子どもの生活を向上させるという長期的な視点のもとに活かす大切さを教えてくれます)

●支援の実際については・・・
オススメ
『クラスで気になる子の支援 ズバッと解決ファイル―達人と学ぶ!特別支援教育・教育相談のコツ』
(多忙な教師や保護者向けに,通常学級にいる様々な困難な支援ニーズを持つ子どもを支援する方法を,具体的・実践的・取り組みやすいというポイントからその道のベテランが"ズバッ”と解説したガイドブックです)

『発達障害の子どもたち』
(アスペ・エルデの会を立ち上げられ,長年発達障碍の問題に従事されてきた児童青年期精神医学者が,発達障碍の誤解と偏見を解きつつ,その全貌を概観した解説書。実際の事例が豊富であり,特に特殊支援学級に通わせるか否かという問題については統計的なデータも参考にしながら,納得のいく解説を行っています)

●思春期・青年期の発達障碍支援に関しては・・・
『思春期・青年期の発達障害者が「自分らしく生きる」ための支援』
(「思春期・青年期」という学校から社会という心理・社会的な移行期に求められる支援の在り方について,学際的な立場から具体的な支援の実際とそのポイントを分かりやすく記した既存の本の間隙を埋める貴重な本です)

●発達障碍を持つ進学希望者を支援する方,あるいは受け入れ側の担当者の方は…
『発達障害のある高校生への大学進学ガイド──ナラティブ・アプローチによる実践と研究』
(システム構築・実施の当事者の方々が支援を受ける学生へのインタビューや,高校教員や大学職員へのニーズ調査,英国での支援紹介などを通じて,類例の少ない高大以降支援体制や大学における発達障碍支援のあり方とシステム構築の実際を紹介したガイドブックです)

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