May 07, 2017

“才能”という都合の良い言葉に別れを―ポジティブ心理学の新展開:『やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』 4

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける
アンジェラ・ダックワース ダイヤモンド社 2016-09-09
売り上げランキング : 81
by ヨメレバ
※電子書籍あり
【推奨対象者】“才能”という言葉で自分の限界を決めている方,ポジティブ心理学に興味のある方 

 本書は,近年アメリカの教育界で注目される“GRIT(グリット)=やり抜く力”の第一人者でペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)心理学教授・Duckworth, A.L.個人HP)によって書かれた,人が何事かを成すために重要なのは「才能」よりも「やり抜く力」であることを自身の研究やエクスパートたちのトレーニング方法から示すと共に,「やり抜く力」を内側,外側からのばす方法も紹介したポジティブ心理学の一般書です。

内容は以下の通りです。

はじめに ──「生まれつきの才能」は重要ではなかった!

PART 1 「やり抜く力」とは何か? なぜそれが重要なのか?

第1章「やり抜く力」の秘密── なぜ、彼らはそこまでがんばれるのか?
「肉体的、精神的にもっとも過酷」な環境/最後まで耐え抜くのは「どんな人」か?/もっとも「有望」なはずの人が次々と辞めていく/挫折した後の「継続」がきわめて重要/「情熱」と「粘り強さ」を持つ人が結果を出す/ 「やり抜く力」はこうして測る/才能があるのになぜ踏ん張れないのか?/「学力、体力、適性」のちがいは問題にならない/「やり抜く力」が強い人ほど進学する/グリーンベレーとの共同研究の結果/どんどん勝ち進んだ子どもたちの共通点

第2章 「才能」では成功できない──「成功する者」と「失敗する者」を分けるもの
「呑み込みが悪い」のによい成績を取る子どもたち/粘り強く取り組めば「理解」できる/才能、熱意、努力……なにが「成功する者」の秘密か?/ひたすら「同じこと」を考え続ける/人は「本来の能力」をほとんど生かしていない/同じ能力なら「努力家」より「天才」を評価してしまう/バイアスが生む「4年と4万ドル」の差/「マッキンゼーの面接官」を喜ばせる単純な方法/なぜ「もっとも革新的な企業」が悲惨な末路を迎えたのか?/才能を「えこひいき」することの悪影響/「やってみなければわからない」という考え方/「知能テスト」はまったく信頼できない

第3章 努力と才能の「達成の方程式」── 一流の人がしている当たり前のこと
一流の人は「当たり前のこと」ばかりしている/圧倒されると「才能がすごい」と思ってしまう/自分が「ラク」だから人を神格化する/「才能」「努力」「スキル」「達成」はどう結びつくのか?/努力は「二重」に影響する/「偉大な達成」を導く方程式/「何分間走れるか」で、その後の人生が予測できる/「今日、必死にやる」より「明日、またトライする」/「2倍の才能」があっても「1/2の努力」では負ける

第4章 あなたには「やり抜く力」がどれだけあるか?──「情熱」と「粘り強さ」がわかるテスト
「ものすごくがんばる」のは「やり抜く力」とはちがう/あなたの「やり抜く力」はどれくらいか?/「情熱」とは、ひとつのことに専念すること/「哲学」がなければ失敗する/「究極的関心」が目標に方向を与える/「やり抜く力がない」とはどのような状態か?/「最上位の目標」が存在しない/バフェットがパイロットに伝授した「目標達成法」/「同じ目的」につながる目標を生かす/「なんでも必死にがんばる」のは意味がない/「グリーンベレー式」機転で目標に向かう/どうしたら「自分に合った仕事」ができるか? /世界で「トップレベル」になるにはなにが必要か?/「究極の目標」は絶対に変わらない/IQと「功績の大きさ」は関係があるか?/偉大な人とふつうの人の決定的なちがいは「動機の持続性」

第5章 「やり抜く力」は伸ばせる──自分をつくる「遺伝子と経験のミックス」
自分はどのようにして「こんな自分」になるのか?/「やり抜く力」をつくる遺伝子とは?/この100年で人の「IQ」は異常に上がった/ひとりが賢くなると、まわりも賢くなっていく/年上ほど「やり抜く力が強い」というデータ/ どんな経験が人の「性格」を変えるのか?/「環境」が変わると、一瞬で自分が変わる/現実が作用する「成熟の原則」/「あきらめる」ことがいいとき、悪いとき/「やり抜く力」を強くする4ステップ

PART 2 「やり抜く力」を内側から伸ばす
第6章 「興味」を結びつける── 情熱を抱き、没頭する技術

メガ成功者たちは必ず「同じこと」を言う/「堅実がいちばん」という考え方を説く人/「好きなことを仕事にする」は本当にいいのか?/金メダリストはどう「興味」を育むのか?/「情熱」は一発では人生に入ってこない/自分ではっきりとは気づかずに「関心」を抱いている/「好き」にならないと、努力できない/ スキルは「数年ごと」に「3段階」で進歩する/最初に厳しくしすぎると「取り返し」がつかなくなる/興味を観察する親が、子どもの「情熱」を伸ばす/親がジェフ・ベゾスに与えた独特の環境/人は「見慣れたもの」からは目をそらす/エキスパートは「ニュアンス」に興味を覚える/取り組むべきことを「発見」する簡単な質問

第7章 成功する「練習」の法則── やってもムダな方法、やっただけ成果の出る方法
メガ成功者は「カイゼン」を行い続ける/「1万時間の法則」は本当か?/「意図的な練習」をしなければ上達しない/エキスパートはこの「3つの流れ」で練習する/「意図的な練習」の原則は誰にでもあてはまる/スペリングが強くなる「3つの秘密」/時間の長さより「どう練習するか」がカギ/「意図的な練習」は1日に3〜5時間が限界/「フロー」に入れば、努力はいらない/優れたパフォーマンスは「必死の努力」が生み出すのか?/「フロー」と「やり抜く力」は密接に関連している/「目標設定→クリア」を繰り返し続ける/なぜ彼らはつらいことを「楽しく」感じるのか?/困難な目標に挑戦するのを好んでいる/ラクな「練習」はいくら続けても意味がない/「優秀な人」の姿勢を知る/毎日、同じ時間、同じ場所での「習慣」をつくる/「いま、この瞬間」の自分を見ながらチャレンジする

第8章 「目的」を見出す── 鉄人は必ず「他者」を目的にする
「これは人の役に立っている」と考える/幸福になる方法は「快楽を追うこと」と「目的を追うこと」/彼らはどれだけ「快楽」と「目的」を追っているか?/3番目の答えの人は「やり抜く力」が強い/「意義を感じない仕事」を続けることは耐えられない/どの職業でも「天職」と感じている人の割合は変わらない /「ひと夏の経験」で人生のすべてが変わる/「大きな目的」のためなら、粘り強くがんばれる/「役に立ちたい」プラス「興味」が大きな力を生む/「手本の人物」に出会うことが重要な体験になる/それは「社会」のどんな役に立つのか?/もっと「意義」を感じられるように変化を起こす/「この人のようになりたい」と具体的に考える

第9章 この「希望」が背中を押す──「もう一度立ち上がれる」考え方をつくる
「成績全体を下げる授業」をやめるべきか?/手応えがないと「学習性無力感」にハマってしまう/「楽観主義者」は無力感を乗り越えられる/「楽観主義者」か「悲観主義者」かがわかるテスト/「鉄人」は楽観的に考える/失敗への「解釈」のちがいが粘り強さを生む/マインドセットが「努力できるかどうか」を決める/子どものころの「ほめられ方」が一生を左右する/成績のいい子を特別扱いすると「固定思考」になる/言葉と行動が「裏腹」になっていないか観察する/「つらい体験」で冒険心が旺盛になる/心を「強くする」経験、「弱くする」経験/この仕組みが「逆境に強い脳」をつくる/脳は「筋肉」のように鍛えられる/「悲観的な考え方」をやめる/「他人の力」を使って立ち直る

PART 3 「やり抜く力」を外側から伸ばす
第10章 「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法──科学では「賢明な子育て」の答えは出ている

「やさしい育て方」と「厳しい育て方」はどっちがいいか?/育て方の優劣を決める「エビデンス」/「やめられなかった」から成功した/「能力」があるんだから続けなさい/「最後までやる習慣」を身につける/厳しくしつつも温かく支える/「自分で決められる」感覚を持たせる/親が愛情深くて「どっしり」と構えている/自尊心が「自分ならできる」という自信につながる/自由を与えると同時に「限度」を示す/膨大な研究の「パターン」と一致した見解/どんな子育てがいいか「一目瞭然」の研究結果/「賢明な育て方」診断テスト/「親をまねる」という強力な本能/「やり抜く力」の鉄人の多くは、親を手本にしている/「高い期待」と「惜しみない支援」を組み合わせる/この「フィードバック」で意欲が激変する/「無理」という思い込みがなくなる体験を持つ/「支えてくれる人」との出会いが成功をもたらす/「しっかりと見る」ことで変化を起こす

第11章 「課外活動」を絶対にすべし──「1年以上継続」と「進歩経験」の衝撃的な効果

「大変」なのに「楽しめる」唯一の行動/「2年以上」「頻繁な活動」をした子は将来の収入が高い/「成績」では成功はまったく予想できない/「最後までやり通す力」が決定的要因だった/「1年以上継続」「進歩」を経験した人が成功する/ビル・ゲイツが考案した「マイクロソフトの採用基準」/「複数の活動」を最後までやり通す/やり通すことで「やり抜く力」を鍛えられる/研究結果に合致する「ハーバード大の合格基準」/「最後までやり通す経験」から人格が形成される/課外活動をしなければ「やり抜く力」は下がるのか?/「難しいこと」を続けると、貪欲に取り組めるようになる/「勤勉さ」は練習によって身につけられる/「つい子どもをほめてしまう」という問題/おとなも子どもも「やり抜く力」が身につく4つのルール

第12章 まわりに「やり抜く力」を伸ばしてもらう── 人が大きく変わる「もっとも確実な条件」
「やり抜く力」の強い集団の一員になる/「偉大な選手」になるには「偉大なチーム」に入るしかない/ まわりの価値観が「自分の信念」に変わる/フィンランド人の傑出した力「シス」の秘密/肚のなかに「エネルギーの源」があると考える/「徹底的なコミュニケーション」が人を変える/何でも試して「うまくいったこと」を続ける/「強靭な精神力」の有無がわかるビープ・テスト/暗唱で「言葉の力」を自分のものにする/失敗しても「やり抜く力」を持ち続けられるか?/「言葉遣い」を変えて、価値観を変える/ささいなことでも「最善」を尽くす/「ごほうび」だけではうまくいかない

第13章 最後に── 人生のマラソンで真に成功する
「やり抜く力」が強いほど「幸福感」も高い/「やり抜く力」が強すぎて「困る」ことはない/「履歴書」に書く長所、「追悼文」に書く長所/能力があるのに「ムリ」と思い込んでしまう/誰でも「天才」になれる

訳者あとがき

(目次より) 
 TVを観れば「東大王」(TBS),「さんまの東大方程式」(フジ)などの東大生の頭脳バトルや,子ども4人を東大理靴妨縮鮃膤覆気擦榛監ママの教育方法が注目を集め,スポーツ界でも羽生結弦選手や大谷翔平選手などの超一流アスリートが話題になるなど,昔も今も「天才」への関心は衰えることがないようです。

そしてまた,そのような「天才」たちを見ては「あの人たちは私とは違うんだ。あの人たちが成功しているのはもともと"才能”があったからだ」「天才」ではない「凡人」であることを自分に納得させ,変わらぬ日々を送っていくという光景は日常茶飯事です。

著者のDuckworthが「やり抜く力」を研究する動機づけは,まさにこの「天才」「才能」が成せる業なのか,という暗黙の了解への異議申し立てにありました。

 子どものころから,「天才」という言葉を耳にタコができるほど聞いた。
 まるで口癖のように,父はいつも突然こう言った。
 「いいか,おまえは天才じゃないんだぞ!」
(中略)
 父は「非凡な才能」や「生まれ持った能力」にやたらとこだわる人で,つねに他人の能力を品定めしていた。そして,自分の知性がどれだけ優れているか,わが子の頭脳がどれだけ優れているかについても,並々ならぬ関心を抱いていた。
(中略)
 「お前は天才じゃない」と親に言われ続けて育った少女が,おとなになって「天才賞」を受賞するとは。しかも受賞の理由は,人生でなにを成し遂げられるかは,「生まれ持った才能」よりも,「情熱」と「粘り強さ」によって決まる可能性が高い,と突きとめたことなのだ。
(pp.1-3) 
また,著者は大学3年の夏休みに,恵まれない家庭の中学生を対象とする「サマーブリッジ」という教育プログラムに参加します。このことが転機となり,卒業後も同様の境遇にある子どものための教育プログラムをゼロから立ち上げるだけでなく,その後マッキンゼーの経営コンサルタントという輝かしいキャリアを捨ててまで教職に就くこととなります。

さらに,教職の現場で呑み込みが良く才能を感じさせた生徒よりも,最初の呑み込みは悪いものの粘り強く取り組み続けた生徒の方が成績が良かったという体験をし,

つまり,私は「才能」に目を奪われていたのだ。
(中略)
「才能には生まれつき差がある」などと決めつけずに,努力の重要性をもっと考慮すべきなのでは?生徒たちも教える側も,もう少し粘り強く頑張れるように,努力を続ける方法を考えるのは,教師である私の責任ではないだろうか。
(p.37)

(前略)教師として働くうちに, 「子どもたちの可能性を引き出して,本人たちが思ってもみなかった大きな目標を達成するに手助けをしたい」という思いがいっそう強くなった。
(p.217)

 その後の数年間の教師生活のなかで,私はますます,才能によって運命が決まるとは思わなくなり,努力のもたらす成果に強い興味を抱くようになった。その謎を徹底的に探るため,ついに私は教師を辞めて心理学者になった。
(p.38) 
とあるように,“心理学”によって科学的に「やり抜く力」を研究する道に進んでいくことになります。

そして大学院の指導教官こそが,『オプティミストはなぜ成功するか』で有名な“ポジティブ心理学”の旗手Seligman, M.E.P.その人なのです(認知療法の創始者Beck, A.T.の元で自身が提唱した“学習性無力感”の対処法を求め“学習性楽観主義”の研究をしたことなどが9章に書かれています)。

こうしてSeligmanの薫陶を受けながら,著者は「やり抜く力」を明らかにしようとしていきます。PART1では「やり抜く力」が試されるさまざまな状況において行われた研究が紹介されています。

研究のスタートは,米国陸軍士官学校における「ビーストバラックス」と呼ばれる厳しい基礎訓練の中退率に関する調査でした。士官学校での入学審査では,SATやACT(大学進学適正試験)のスコアや高校時代の成績順位から算出された総合評価が最も重要な選抜基準となっているのですが,評価が高い=最も有望で「才能」のある人に限って訓練開始早々辞めてしまうという問題がありました。

そこで,著者は一流のビジネスパーソンや,アーティスト,ジャーナリスト,学者,医師,弁護士などを対象にインタビュー調査を行い,

「Perseverance(粘り強さ)」→根気
「Passion(情熱)」→Consistency of Interest:(関心の)一貫性
※矢印右側は現在の翻訳&因子名

という2つの要素から成る,“GRITスケール”(p.83)を作り上げ,「ビーストバラックス」の士官候補生たちを対象に調査を行います。すると,GRITスケールの結果(GRITスコア)は選抜基準となった総合評価とは関連がなく,訓練を耐え抜いた人ほどGRITスコアが高いことが明らかとなります。つまり,

「才能があっても,やり抜く力が強いとは限らない」(p.26)

わけです。

ちなみに,GRITスケールの各国版はこちらにあります。日本語版作成の論文はこちらです。
上記ページを参照すると本書に載っている10項目版とは異なる,12項目版や短縮版8項目が現在は使われていることが分かります。日本語版もこの短縮版を元に作成されているようです。

著者はこの他にもGRITスケールを用い,

・リゾート会員権販売会社営業職の退職率
・公立高校の中退率,高等教育への進学率
・米国陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の「選抜コース」の脱落率
・スペリングテスト(日本における漢字テストのようなもの)の全国大会おける勝率

などさまざまな状況において,「やり抜く力」が重要であることを明らかにしていきます。こうして,「才能だけでは成功できない」(p.69)ことを著者は明らかにしたのですが,Seligmanから「君には理論がない」(p.68)と手酷い指摘を受けてしまいます。しかし,「やり抜く力」の研究をしている本人らしく,めげずに“達成の心理学”の理論を打ち立てるべく研究を重ね,以下のような事実に行き着きます。

 「才能」とは,努力によってスキルが上達する速さのこと。いっぽう「達成」は,習得したスキルを活用することによって表れる成果のことだ。
(中略)
<才能×努力=スキル>
(中略)
<スキル×努力=達成>
 「才能」すなわち「スキルが上達する速さ」は,まちがいなく重要だ。しかし両方の式を見ればわかるとおり,「努力」はひとつではなくふたつ入っている
 「スキル」は「努力」によって培われる。それと同時に,「スキル」は「努力」によって生産的になるのだ。
(pp.70-71;赤字強調筆者) 

 私の計算がほぼ正しければ,才能が人の2倍あっても人の半分しか努力しない人は,たとえスキルの面では互角であろうと,長期間の成果を比較した場合には,努力家タイプの人に圧倒的な差をつけられてしまうだろう。
(中略)
 努力をしなければ,たとえ才能があっても宝の持ち腐れ。
 努力をしなければ,もっと上達するはずのスキルもそこで頭打ち。
 努力によって初めて才能はスキルになり,努力によってスキルが生かされ,さまざまなものを生み出すことができる。

(p.78;赤字強調筆者) 

 ここで,「知ってるよ,“継続は力なり”ってことでしょう?そんなお説教じみたことを聞きたいんじゃない」「結局この“やり抜く力”というのも,“才能”なんでしょう?」「どうせ遺伝的に決まっているに違いない。“やり抜く力”が最初から強いように生まれてくるんだ」という反論も聞こえてきそうです。

しかし,双生児研究からは,

双子が同じ回答をする確率は「粘り強さ」の項目で37%,「情熱」の項目では20%だった。これは,他の性格的特徴の遺伝率の推定値とほぼ同じ程度と言える。つまり簡単に言えば,人によって「やり抜く力」の強さに差があるのは,ある程度は遺伝的な要素によるが,経験による部分も大きいことを意味する。
(p.118) 
ということが明らかとなっており,「やり抜く力」も伸ばしていくことができると著者は主張します。そしてPART2PART3では「やり抜く力」を内側,外側から伸ばす方法が紹介されています。


 PART2では,「やり抜く力」を内側から伸ばす方法として,

「興味を掘り下げる」
「自分のスキルを上回る目標を設定してはそれをクリアする練習を習慣化する」
「自分の取り組んでいることが,自分よりも大きな目的とつながっていることを意識する」
「絶望的な状況でも希望を持つことを学ぶ」
(p.357)
ことが挙げられています。このPARTを読めば,Amazonの批判的(というか悪意のある)レビューであるような「やり抜く力」がただの根性論や精神論とは一線を画してることがよく分かります。

まず最初の段階は「努力」したいと思えるような「興味」をもてる対象を見つける段階です。途中で辞めさせないこと重視するあまり,小さいときから子どもに無理にでも何かをやり続けさせようとする保護者の話を聞くことがありますが,

 第一に,おとなになったらなにをしたいかなど,子どものころには早すぎてわからない。いくつかの長期的研究で,数千名を対象に追跡調査を実施した結果わかったことは,ほとんどの人は中学生くらいのときに,特定の職業への興味のあるなしがぼんやりと見えてくるということだった。
 しかし,やはり心に留めておきたいのは,中学1年生では(たとえ「やり抜く力」の鉄人になりそうな子どもでも),将来なにをしたいか,はっきりとはわからないということ。その年齢では,ようやく自分の好き嫌いがわかり始めたばかりだ。 

 第二に,興味は内省によって発見するものではなく,外の世界と交流するなかで生まれる。興味を持てるものに出会うまでの道のりは,すんなりとは行かず,回り道が多く,偶然の要素も強いかもしれない。
(p.145;赤字強調筆者) 
とあるように,最初の段階では何に「興味」があるかはっきりとわかることは少なく,いろいろな対象に触れながら本当に「興味」を持てる対象を探すプロセスがあることは忘れてはなりません。

そして「興味」を持てる対象が見つかったら,今度は練習です。ただ,根性論と異なるのが「意図的な練習」を強調している点です。つまり,「何のためにやっているかも分からず,やったらやりっぱなしでフィードバックも求めない,惰性でやっているマインドレスな練習」とは異なり,現状よりも少しだけ高い目標を定めて練習をしてはしっかりと改善点を洗い出し,さらに練習を重ねるという“意図性”が重要なのです。

しかし,ほとんどの人はおそらくこの段階で「意図的な練習」の大変さに根を上げてしまうでしょう。

実際,著者がインタビューをした際,トップアスリートたちはやはり「意図的な練習」の大変さを強調していますし,前述したスペリングテストにおける「やり抜く力」が強い生徒たちの練習日誌を見ると大変な思いをして「意図的な練習」に取り組んでいることが分かっています。

ではなぜ,このような大変な練習に取り組むことができるのでしょうか?

著者は確信が持てないとしつつも,

ひとつの可能性としては「やり抜く力」の強い生徒たちは,他人よりも多く「意図的な練習」に取り組んでいるうちに,しだいに努力が報われるようになり,努力をすることじたいが好きになるという考え方ができるだろうか。「努力の結果が出たときの高揚感がクセになる」というわけだ。
 もうひとつの可能性は,「やり抜く力」の強い生徒はほかの生徒よりも,努力することを「楽しい」と感じるので,他人よりも多く練習するという説。「困難なことに挑戦するのが好きな人たちもいる」というわけだ。
(pp.190-191;赤字強調) 
ということを指摘します。最も,これだけでは「達成」に向かい続けることは十分ではないでしょう。

「興味」
「練習」に加えて,「自分たちのすることは,ほかの人びとにとって重要な意味を持つ」(p.205)などの「目的」に気づいていくこと,そして困難にあっても再び立ち上がって進みつづけられるような「希望」を持てる心を作ること,も挙げられています。
「希望」の部分はじつにSeligmanの弟子らしい内容です。“認知行動療法”も紹介されいます)

 
 PART3では,「やり抜く力」を外側から伸ばす方法として,

親,コーチ,教師,上司,メンター,友人など,周りの人びとが,個人の「やり抜く力」を伸ばすために重要な役目を果たす。
(p.357) 
ことが挙げられています。

つまり,本人が「やり抜く力」を育てていくためには,惜しみない支援や関心を与えたり,失敗してもまたやり続けようと思えるような励ましをしたりすることが重要ということです。

また,どのように育てるかという画一的な育て方よりも,そうした支援や励ましを受けて子ども自身が「やり抜く」ことが大切であることに気づき,きっと自分は「やり抜く」ことができるのだと自信を持ってもらえるような働きかけを,保護者以外の人も含め周囲がしていくことが重要であるということが指摘されています。

そのために,フットボールチームの例やフィンランドの国民性などを紹介しながら「やり抜く」ことを重要視している集団や文化の中に入ることも1つの方法として紹介されています。

ここで特に強調されているのが,ある程度まとまった年数課外活動に従事することです。

なぜ,課外活動なのでしょうか。

GRITスケールのような自記式アンケートは“社会的望ましさ”が影響しやすく,自分をよく見せようと高めの数値をつけてしまうことなどが避けられません。

その代替指標として「課外活動をやり通した経験」「課外活動で挙げた実績」を数値化した(グリッド・グリッド;p.313)が用いられたわけです。その結果,このスコアが高い高校生ほどその後の大学の中退率が低く,教職に就いた際の退職率も低いことが明らかとなり,課外活動への従事が推奨されているわけです。


 以上のように本書は,人生において何かを達成するためには「才能」よりも「やり抜く力」にあることをさまざまな研究やインタビューによって明らかにするとともに,「やり抜く力」を伸ばすための具体的な指針をも分かりやすく示した一般書です。

心理学の知識がある方が読めば,師Seligmanの精神をしっかりと受け継いだポジティブ心理学のテキストとしても読めると思われます。

個人的に残念だった点として,

・自身の実証的な研究と他の研究の引用,そして著名人へのインタビューが入り乱れて紹介されているため,「やり抜く力」を科学的に実証したという印象が薄れやすい
(やっぱり選ばれた人だけが「やり抜く力」を持っているんでしょう?という感想をもたれやすい)

・母親としての思い入れが強いのか,前半部分でせっかくプロとそうでない人の練習方法などの比較を紹介しているのに,段々と「子育て」本のような内容になっていってしまう。そのため,大人がこれからどうすれば良いのかが分かりにくい

の2点が挙げられます。

最大の不満は,翻訳自体はとても読みやすいものの,

子どものころの「ほめられ方」が一生を左右する(p.242)

などの,原著にないやや過剰で誇張された見出しがつけられており,かなり扇状的な本に脚色されている点です。これはおそらく翻訳出版元のダイヤモンド社(ドラッカーの『マネジメント―基本と原則』などを出版しています)の意向が反映されたのだとは思いますが,原著者の意図が誤解されてしまうおそれがあり,正直良い印象はありません。そこがとても残念でした。


しかしながら,本書で著者がニーチェの言葉を引用しつつ,

 「我々の虚栄心や利己心によって,天才崇拝にはますます拍車がかかる。天才というのは神がかった存在だと思えば,それにくらべて引け目を感じる必要がないからだ。『あの人は超人的だ』というのは,『張り合ってもしかたない』という意味なのだ」
 言い換えれば,「天才の才を持つ人」を神格化してしまったほうがラクなのだ。そうすれば,やすやすと現状に甘んじていられる。 
(p.66;) 
と言及しているように,私たちには「あの人と私は違う。あの人にはもともと才能があったから」などと,「才能」という都合の良い言葉で自分の境遇を合理化して済ませてしまいがちな傾向があることに気づかせてくれるなど,本書はとても刺激的な内容だったことは間違いありません。

加えて何事かを成すには相応の努力と,それを「やり抜く力」が必要であるという当たり前の事実をつい忘れがちなことにも気づかされます(もちろん根性論などではなく)。

そういえば,少し前に流行った「リーガル・ハイ」の2期で,有名アニメ監督(伊東四朗が演じていました)のスタジオで監督の過酷なしごきに耐えかね心身を病んでしまった若手作画スタッフが,監督をパラハラで訴えるというストーリーがありました。その裁判の最後の方で監督が語った,

私の目から見たら才能のあるヤツなんて1人もいない。
どいつもこいつもバカばっかりだ。
そもそも才能なんてものはな,自分で掘り起こして見つけるものなんだよ。
俺だって天才なんかじゃない。
誰よりも必死で働き,階段を1つ1つ,踏みしめてきただけだ。
振り向いたら,誰もついてきてない。
怠けた連中がふもとでこうつぶやく。

「あいつは天才だから」

冗談じゃない!

ゆとりで育ったのんびり屋どもが,本当に嫌いだ!
俺より時間も体力も感性もあるやつが,何で俺より怠けるんだ。
だったらくれよ,無駄遣いするんだったら俺にくれ!
もっともっと作りたいものがあるんだ。
俺にくれ!
(リーガルハイ2 7話より;赤字強調筆者) 
というセリフをふと思い出しました。

一生懸命何事かを成し遂げた人のことを差して「天才」の一言で片付けてしまうのは,あまりにも失礼です。もちろん心身の限界を越えるような無理はいけませんが。

何かを得たいと思うならきちんとやり抜かねばならない。

ですがそのためには,もちろん根性論ではなく「やり抜く力」が重要です。そして,その「やり抜く力」を高めていくためのプロセスを我々人間は明らかにしていく必要があるのだという著者の強い「情熱」が感じられる本でした。

蛇足ですが,ペンシルベニア大学のあるフィラデルフィアはあの『ロッキー』の舞台です。『ロッキー』のようにまさに「やり抜く力」が題材となった映画の舞台の街から,「やり抜く力」の本が出るのは何かの縁を感じます。



【関連文献】
●ポジティブ心理学系の本として…
『オプティミストはなぜ成功するか』(投稿予定) 

●「悲観的な考え方」への対処法として…
『自分でできる認知行動療法 うつと不安の克服法』
(認知行動療法に初めて取り組む人向けのセルフヘルプ本です。取り組みやすく続けやすいような配慮がなされているだけでなく,生活の質を高めるための行動を増やしていくことにも配慮したワークが多数取り入れられており,類書で挫折した人でも安心して取り組める内容になっています) 

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