3月末までいた部署は、都心の本社ビルにあった。
一方、
4月に異動した部署は、本社ではなく、都心から少し離れた「中野」という街にある。

本社から支店に異動したからといって、
給料が減るわけではないし(と言うより、給料は増えた)、課長という地位もそのままだが、本社にいた頃より仕事が忙しいのが不満だ。

だが、「中野」
という街に通うことは、ちょっぴり懐かしくもある。
その一方で、
複雑な想いに囚われたりもする。



平成3年4月から平成7年3月までの4年間。
かみさんと俺は、
千葉県の浦安市で同棲していた。

その頃のことだ。
かみさんが、
とても美味しい中華料理店を見つけてくれた。
おそらくグルメ雑誌か何かで探してくれたのだろう。

その中華料理店はどこにあるのか、俺はかみさんに聞いた。
すると、かみさんは中野だと答えた。

同棲していたアパートから、
東京メトロの浦安駅まで、徒歩で30分。
地下鉄に乗って、
浦安から中野まで40分。
さらに中野駅から中華料理店まで、
徒歩で30分。
片道1時間半以上の行程だ。

中華料理屋なら浦安にもたくさんあるじゃん」
「1時間半
も掛けて、わざわざ中野まで中華料理食いに行くの、めんどくせ~!」
俺はそんなことを言った。

だが、かみさんは引き下がらない。
「だって、そこの店の中華が食べたいんだもん!」
プーちゃんが行かないなら、私一人で行く!」

俺はかみさんの熱意に負けた。
結局、かみさんと俺は、
1時間半以上の時間を掛けて、中野まで中華料理を食べに行った。

結果としては、かみさんの言うことに従って成功だった。
最高に美味かったのだ。
一品料理をたくさん注文し、紹興酒
をチビチビ飲みながら、かみさんと俺は、他愛ない会話に興じた。
その日以来、かみさんと俺は、
その店の常連客になった。



4月1日に異動して、
俺は数年ぶりに中野の街を訪れた。
かつて、
かみさんと一緒に見た桜並木も残っていた。
桜が満開で、
きれいだった。

かつて、かみさんと俺は、確かにここにいた。
あのとき確かに、かみさんは俺の横にいた。
二人で一緒に同じ光景を見た。
二人で一緒に同じモノを食べた。
二人で一緒に並んで歩いた。
二人がまだ20歳代だった頃の、
柔らかい想い出が、俺の中に満ち溢れる。

そして、哀しくなるんだ。
切なくなるんだ。

もうあの頃には戻れない。
かみ
さんがいた頃には還れない。
還りたいのに還れない。

中野の街を歩いていると、俺はとても哀しくなる。

かみさんとの想い出の全てが愛おしい。
だが同時に、切なくて、やるせなくて、哀しくもあるのだ。


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