何かが足りない。
何かが決定的に欠け落ちている。

その欠落の正体は、俺にも分からない。
正体が不明なくせに、
存在感だけはやたらと大きい。

真っ黒で、真っ暗な空洞だ。
巨大な質量を持ち、巨大な重力を持った穴だ。
この穴は、
周囲の人々からエネルギーを剥ぎ取り、全てを吸い寄せ、全てを呑み込み、全てを押し潰す。

俺にとって、この穴は異物だ。
俺の中に「あってはならないモノ」だ。

だが、
俺はこの穴をよく知っている。
かつて俺の中にあったモノと同じ空洞なのだ。

両親に虐待されて育った幼少時。
両親から「いらない子」
として扱われたガキのころ。
確かにこの穴は、俺の中にあった。

この穴の存在は、周囲の人々を不快にさせて、不安にさせた。
そして俺は、スケープゴートにされて、世界の周縁に排除された。
俺は世界を憎み、人間を憎み、人生を憎んだ。

だが、
いつしか穴は消えていた。
かみさんに出逢ったからだ。
かみさんが欠落を埋めてくれたからだ。
全てに餓えていた俺を、
かみさんが満たしてくれたのだ。

俺の全てが変わった。
俺は生まれて初めて「光」を見た。
俺は世界を受容し、
人間を受容し、人生を受容した。

だが、俺に「光」
を見せてくれたかみさんが死んだ。
彼女が息を引き取った瞬間、
俺の心にポッカリと穴が空いた。

悲しかった。
悲しかった。
悲しかった。

だが、俺はこの穴を知っていた。
悲しいけれど、
苦しいけれど、どこかで見たような穴だった。

そうだ。
全てを奪われていたガキのころ、俺の中にはこの穴があったはずなのだ。
こんな穴があることを、
俺は知っていたはずなのだ。

・・・

俺はいまだに穴に慣れることができない。
ずっと不幸なら慣れることもできただろうが、俺は幸せを知ってしまったからだ。
たったの20年だったけど、
全てを受け容れる歓びを知ってしまったからだ。

かみさんの死とともに、再び穴が空いてしまった。
その欠落は全てを呑み込み、全てを破壊する。

そして、
俺自身をも破壊しようとしている。

にほんブログ村 家族ブログ 死別へ
←いつもありがとうございます。ポチっとクリックお願いします。
にほんブログ村