俺はいまだに「闘病記」を書き終えていない。
平成22年6月24日のことを最後に筆が止まってしまった。
だが、いずれは書き上げるつもりだ。

まだ「闘病記」には書いていない、平成22年6月26日の深夜のこと。

かみさんが病室のベッドで呟いた。
普通の生活ができなくなっちゃったでしょ。それがいや…

俺は応えた。
今まで頑張ってきたんだから、
たまにはゆっくりするつもりでいればいいんじゃない?

彼女は頷いた。

そうだ。
あのときの俺たちは、奇跡を信じていた。

いつかは「普通の生活」を取り戻せる。
そう信じていたんだ。

・・


毎週の土曜日。
かみさんが元気だった頃のことだ。

俺は早朝5時には起床する。
隣のベッドを見ると、
かみさんは気持ち良さそうに眠っている。

顔をのぞき込んでみると、かみさんはニンマリと笑っている。
さぞかし良い夢を見ているのだろう。

俺はかみさんを起こさないように、そ~っと寝室を出る。
そして俺は、「筋トレ」に勤しむ。

筋トレのメニューは、
狩猟民族である欧米人向けだ。
日本人である俺にはキツすぎるのだが、それに見合った効果はある。

1時間ほど筋トレをしたらシャワーを浴びる。
そしてインスタントのコーヒーを飲みながら、テレビを視つつ、読書に励む。

ソファーに寝転んで本を読んでいるのは至福の時間だ。
だが、
あまりにもリラックスしているせいか、いつの間にか眠ってしまう。

昼が近くなると、
かみさんが目を覚ます。
俺は眠ったままで、
かみさんが起きてきたことに気づかない。

ゴリゴリという音がして、ようやく俺も目を覚ます。
何の音だろう…と周りを見回すと、かみさんがコーヒー豆を挽いてくれている。
飲みかけのインスタントコーヒーは捨ててしまい、豆からコーヒーを淹れてくれているのだ。

よく見ると、
俺の身体にタオルケットや毛布が掛かっている。
かみさんが掛けてくれたのだ。

その後、軽く食事を摂って、
かみさんと俺は散歩に出掛ける。
他愛のない会話をしながら、
目的地も決めずにのんびりと歩く。
腹が減ったら飯を食い、
喉が渇けば茶店に入り、欲しい物があればデパートに寄り道をする。

そうしているうちに夜は更けて、かみさんと俺の土曜日が終わる。

・・・

普通の生活…
かみさんが取り戻したかったのは、
どこにでもある平凡な日常だった。

たったそれだけのことなのに…
俺はかみさんの願いをかなえてあげることができなかったんだ。

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