夜の公立中で塾が受験講座 東京・杉並、年明けから

夜の学校の教室で、大手進学塾の指導が受けられます――。東京の杉並区立和田中学校で来年1月から1年間、2年生の希望者を対象に「夜スペ」と題した試みが始まることになり、その説明会が8日開かれた。月謝を通常の半額程度に抑えて家庭の負担を減らしつつ、塾が持つノウハウで、志望校への進学後にも生きる学力を伸ばすのが狙いだ。

 主催するのは、保護者や元PTA、教員志望の学生らが参加する「地域本部」。土曜日の補習や図書室の運営などを担って和田中をボランティアで支えてきた。

 カリキュラムと教材作りには、リクルート出身の民間人校長として知られる藤原和博校長ら和田中の先生が参加。読解力や知識の応用力も伸ばす授業を目指す。ただし、学校の補習はしない。

 「夜スペ」を担当するのは、SAPIXの中学部。テストに合格しなければ入塾できないことで知られる大手進学塾だ。平日週3日、午後7時から、45分の授業が数学2コマ、国語1コマある。土曜朝の3コマの英語と組み合わせた3教科コースもある。面談で進学相談にも乗る。

 月謝は2教科が1万8000円、3教科だと2万4000円。正規の授業料の半額程度になる。

 8日の説明会で藤原校長は「学校の授業についていけない生徒にはむしろ負担になる。無理に参加しないで」と注意を促した。16日には入室テストがある。

 夜の迎えや地域本部の当番など、保護者も手伝いを求められるという。

 SAPIX東京本部は、「採算を取ろうとは思っていない。学校との連携から新しい事業展開にもつながる」と期待する。
                                                       「朝日新聞」



というとんでもない話が実現しかかっている。

学校と塾が手を取り合うという
一見好ましい取り組みに見えるという方も多いかもしれないが
(実際、朝のTV番組ではこのことを好意的に取りあげていた)
よく考えてみると、これはかなり問題ありというプロジェクトではないかと思う。


一番の問題点は、

公立中学校の価値観で
あるひとつの塾が選ばれるということである。

今回選ばれているSAPIXは最大手塾のひとつだ。

おそらくこのような取り組みが全国的に広がれば
塾自体の情報を持たない公立中学校は
地元の合格実績をたくさん持つ
大手の塾に提携の相手に選ぶだろう。

今回選ばれたSAPIXは、「採算を取ろうとは思っていない」というコメントを出しているが、
場所は学校が提供してくれて講師だけを派遣すればいいのだから、
月謝を半額にしても、十分に採算を取れるはずだ。

そのうえ、学校に優良な塾としての、いわば、官からのお墨付きをもらったということで
塾としてのステイタスは格段にあがる。

外部から見れば、塾なんてどこでもやっていることは同じと
思っている方が多いだろうから、
学校によって選ばれた「優良な塾として認定された」大手塾で、
しかも月謝は半額ときているから、
当然多くの生徒はそちらに流れるであろう。

これまで、塾の世界には実にさまざまなタイプの塾が併存してきた。

学校の公的カリキュラムの矛盾にはじきとばされた
子どもたちの受け入れ先として
多くの種類の塾が現れてきたといってもよいし、

学校だけではだめだと判断された
親御さんや子どもたちのニーズに応える形で、
いろいろな形態の塾が産まれてきたといってもよい。

少人数で良心的に頑張ってきた塾ほど、
ぎりぎりの採算ラインでやっていることが多い。
塾に関わっている方たちの中で
一般サラリーマンの平均収入を得ている人は驚くほど少ないのだ。
そういう業界である。

このような状況の中で
公立中がひとつの大手塾を優遇すれば、
多くの塾が生徒を奪われ、
たちまち経営不振となり、つぶれてゆくだろう。

特に、個人塾はひとたまりもない。
(学校と提携をくめなかったライバル大手塾も大きな打撃を受けることは必至である。)
杉並区で細々と塾を経営されている方々にとっては、まさに死活問題だろう。

個人塾では、学校では実行不可能な、ある種教育の理想とも思えるようなことを
試みているところが全国にたくさんある。

現在の日本の教育には、学校と塾が補完的な役割をしており、
(たとえば、小学校の算数でつまづいている中学生を
現在の学校では制度上救うことは不可能だ。
そうしたお子さんをつまづいたところまでさかのぼって
ていねいに学習できる機関が個人塾なのだ)

その中には、明日の教育界のために役立つ方法論なり教材なりを
開発しているということもあるのだ。

このような取り組みが広がることによって、
現在棲み分けしてなんとか調和を保っている塾の世界をずたずたに
してしまうだろうし、

ひいては、日本の教育を裏側で支えていた基盤が失われてしまうという事態に
陥ることがおおいに懸念するところである。

このような愚かな流れが全国的に広がらないことを
ただただ祈るばかりだ。



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