遊星王子の青春歌謡つれづれ

歌謡曲(青春歌謡)がわかり、ついでに文学と思想と歴史もわかってしまう、とてもためになる(?)ブログ。青春歌謡で考える1960年代論。こうなったらもう、目指すは「青春歌謡百科全書」。(ホンキ!?)

 「遊星王子」は遠い星からやってきました。ふだんは東京の街角の靴磨き青年に身をやつしています。アメリカの大都会の新聞記者になりすましているスーパーマンに比べると貧乏くさいけれど、これが日本、これが戦後です。
 宇宙から日本にやって来た正義の味方としては、スーパー・ジャイアンツには遅れましたが、ナショナルキッドよりは先輩です。
(またの名を落日の独り狼・拝牛刀とも申します。牛刀をもって鶏を割くのが仕事の、公儀介錯人ならぬ個人営業の「解釈人」です。)

 「青春歌謡」の定義や時代区分については2011年9月5日&12月31日をお読みください。暫定的な「結論」は2012年3月30日に書きました。
 この時代のレコードの発売月は資料によってすこし異なる場合があります。
 画像も音源もほぼネット上からの無断借用です。upされた方々に多謝。不都合があればすぐ削除しますのでお申し出下さい。
 お探しの曲名や歌手名・作詞家名があれば、右の「記事検索」でどうぞ。
 「拍手コメント」には返信機能がありません。コメントやご連絡は「メッセージ」(右上「遊星王子」画像の下の封書のしるし)をお使いください。非公開です。
 なお、以前の記事にも時々加筆修正しています。
 *2015年2月23日
 「人気記事」を表示しました。直近一週間分の集計結果だそうです。なんだかむかしなつかしい人気投票「ベストテン」みたいです(笑)。(一週間じゃなく5日間じゃないのかな?)
 *2015年7月25日
 記事に投稿番号を振ってみました。ブログ開始から3年と11か月。投稿記事数426。一回に数曲取り上げた記事もあるので曲数は500曲ぐらいになるでしょう。我ながら驚きます。
 *2017年6月17日 累計アクセス数1,000,000突破。
 *2017年10月16日、他で聴けない曲に限ってyoutubeへのアップ開始。
  https://www.youtube.com/channel/UCNd_Fib4pxFmH75sE1KDFKA/videos

586 都はるみ「ふるさと音頭」 (NHK「ふるさとの歌まつり」主題歌)

 ふるさとにちなんでもう一曲。都はるみの「ふるさと音頭」。こちらで聴きながらお読みください。
 なお、これはNHK「ふるさとの歌まつり」の主題歌。その「ふるさとの歌まつり」の第1回放送のオープニング部分こちら、NHKのアーカイブスで観られます。都はるみもゲスト出演して歌っています。
 (レコードジャケットの下には、「グラフNHK」昭和41年9月1日号から画像を3枚。)

都はるみ「ふるさと音頭」
  昭和41年5月発売
  作詞:宮田隆 作曲:古賀政男 編曲:伊藤佑春
都はるみ・ふるさと音頭 一 ハアー(アラヨイショヨイショネ)
   虹をかけましょ 南へ北へ
   歌でつなごう 西 東
   お国なまりは 違っていても
   ほんにふるさと よいところ
   *サアーサ 手拍子
    (ソレ)シャッキリシャンと(よべばネ)
    呼べばこたえる
    ソレ ふるさとさん ふるさとさん
ふるさとの歌まつりs41-9-1&宮田輝 二 ハアー(アラヨイショヨイショネ)
   肩を並べて 遊んだ頃を
   思い出すのも なつかしい
   君のわたしの あなたのぼくの
   ほんにふるさと よいところ
   *くりかえし
 三 ハアー(アラヨイショヨイショネ)
   眺めうつくし 人情やさし
   残る昔の 夢のあと
   お国自慢は 数々ござる
   ほんにふるさと よいところ
   *くりかえし

ふるさとの歌まつりs41-9-1グラフNHKより 初回オープニングで司会の宮田輝が言っているとおり、第一回は昭和41年4月7日、鹿児島県国分市国分高校体育館からの中継。
 一回目のゲスト歌手は、都はるみと三沢あけみと城山吉之助。他に漫才のWけんじもゲスト。番組では出演者と観客とみんなで歌う主題歌ですが、初回ゲストの一人だった都はるみでレコード化したわけです。(作曲した古賀政男がコロムビア専属だった関係もあるでしょう。)
 ちなみに、城山吉之助は今では忘れられた歌手ですが(失礼)、作曲家の中村八大の「秘蔵っ子」というキャッチフレーズで、中村八大が作詞・作曲・編曲した「高速一号線」(s39-11)でデビュー。西郷隆盛最期の地「城山」と西郷の名「吉之助」をくっつけた芸名から推測できるとおり、地元鹿児島県の出身。ご当地出身歌手としての出演でしょう。

ふるさとの歌まつりs41-9-1グラフNHKより2 司会はいわずと知れた宮田輝。「のど自慢」や「紅白歌合戦」の司会で知られるNHKの顔。人当たりはソフトで親しみやすく知識も豊富、視聴者になごみと安心感を与える名司会者でした。
 昭和24年4月からこの年3月まで17年間「のど自慢」の司会で全国各地を知り尽くしていた宮田輝。「のど自慢」の司会を大井安正アナウンサーに譲って、新たに始めた「ふるさと」番組です。この番組にかける宮田の並々ならぬ意欲がうかがえます。
 「のど自慢」は素人が個人で参加する番組でしたが、「ふるさとの歌まつり」の方は土地の歌や踊りといった伝承芸能紹介が中心。いわば土地の「玄人」さんたちの日頃稽古してきた芸の見せ所でした。まさしくふるさとを盛り上げる「ふるさとのまつり」番組。
 実際、司会だけでなく、この番組の企画も宮田輝。開始翌年の昭和42年にはその功績で「宮田輝『ふるさとの歌まつり』」が第15回菊池寛賞を受賞しています。授賞理由は「全国各地の民俗芸能を紹介しつつ、茶の間に笑いと親しみを与えた軽妙なる司会と丹念なる構成企画」。
 人気番組でしたが、1974年(昭和59年)宮田輝がNHKを退職して自民党から参議院全国区に出馬(大量得票でトップ当選)したのを機に番組も終わりました。

 なお、ネット上には宮田輝がこの歌の作詞もした、と書いているページもありましたが、それは間違い。
 作詞したのは宮田隆。宮田隆はあの「東京五輪音頭」も作詞したプロの作詞家です。そういえば「東京五輪音頭」の作曲も古賀政男
 東京オリンピックは国民的大行事。「東京五輪音頭」は国民が浮かれ踊った国民歌謡(音頭)。同じ作詞・作曲コンビで、今度はオリンピック以後東京一極集中に拍車がかかって人口流出が止まらない日本全国の「ふるさと=地方」の市町村を盛り上げる歌(音頭)を作ったわけです。
 前回の加賀城みゆき「おさらば故郷さん」(s41-7)とほぼ同時期の発売。「おさらば故郷さん」が描く「風吹く村」のさびれゆく故郷の姿と「ふるさと音頭」がにぎやかに歌い上げるふるさと讃歌、表裏一体で昭和41年の日本の故郷の現実です。

585 加賀城みゆき「おさらば故郷さん」 60年代版「小景異情」 ふるさとは遠きにありて(3)

 青春歌謡ではありませんが、このテーマでははずせない名曲、加賀城みゆきの「おさらば故郷さん」を。こちらで聴きながらお読みください。prius7701さんに感謝しつつ無断リンクします。

加賀城みゆき「おさらば故郷さん」
  昭和41年7月発売
  作詞:西沢爽 作曲:和田香苗
加賀城みゆき・おさらば故郷さん 一 花の都で せつないときは
   いつも偲んだ 山川なれど
   さらばおさらば ふるさとさん
   逢いに来てみりゃ 風吹く村よ
   いまじゃいまじゃいまじゃ 甘える
   あゝ 親もない
 二 手紙おくれと 叫んだ人の
   心変りを うらみはせぬが
   さらばおさらば ふるさとさん
   野菊こぼれる 谷間の駅に
   せめてせめてせめて 涙を
   あゝ 置き土産
 三 片手ふりふり あとふりかえりゃ
   ホロリ灯りが 見送る村よ
   さらばおさらば ふるさとさん
   つらくされても 生れた土地にゃ
   逢って逢って逢って 泣きたい
   あゝ 夢がある

 何度も書いてきたように、【さわやか・抒情系】の青春歌謡は高度成長の上昇気流にのって、現実を甘くオブラートにくるんで歌うロマン主義的・理想主義的世界、一方、演歌は【濃厚・人生系】で高度成長脱落派のリアリズム的世界。この詞にもその特徴がよく表れています。
 半年前の西郷輝彦「あゝ故郷」(s39-12)と対比してみるとはっきりします。
 たとえば「あゝ故郷」は、夜の帰郷で誰にも会わず、「あゝ故郷は風さえ寒く」と歌いました。もしかすると故郷に居場所がないのではないか、と疑わせますが、しかし、そこはオブラートにくるんでおぼめかして、西郷輝彦の「ひとり旅」モチーフの歌の系列にほどよくおさめていました。
 対して、こちら「おさらば故郷さん」は、つらい都会暮らしのなかでいつもなつかしく思い出していた故郷に帰ってみれば、「風吹く」だけの村で、「甘える親」もなければ信じていた恋人(?)も「心変り」してしまって、人々も「つらく」当たる、もはや自分の居場所はないのだ、と、故郷の現実を実にストレートに歌います。
 (そして、帰郷した彼女をつめたく疎外するこの村自身、交通の便も悪く産業もなさそうな「谷間の駅」の村なので、高度成長から取り残されてさびれていく運命にあっただろう、と思えばなおのことわびしい気持になります。)
 これが演歌系のリアリズムです。
 しかしそれでも「生れた土地」への愛着は断ち切れない。(末尾「逢って泣きたい夢がある」は西郷輝彦の末尾「夢がちぎれている」に対応しています。)
 彼女はいま、夜の村の灯に見送られつつ、「野菊こぼれる谷間の駅」に涙を「置き土産」にしながら、「花の都」へ帰ろうとしています。彼女の胸中を言語化すれば、
 どんなに「都」で「せつない」ことがあろうと、故郷は帰ってくるべきところではないということがよくわかった。思い出のなかでだけ故郷は美しくなつかしい。そのなつかしい思い出だけを大事にすべきなのだ。その心(そういう気持ち)をしっかり胸に刻んで、いまは遠い「都」に帰ろう。
 ということになるでしょう。
 つまりこの心理は、ほとんど室生犀星「小景異情 その二」の詩の世界そのものなのです。
 むろん私は、西沢爽が犀星の「小景異情 その二」を歌謡曲に「翻案」したのだ、というつもりは毛頭ありません。
 犀星の詩は、犀星の生い立ちの特殊事情を踏まえながら、大正期の出郷上京者と故郷との関係の一面を普遍的な位相で歌っていたのです。そして、西沢爽のこの詩は、昭和高度成長期の出郷上京者と故郷との関係の一面をやはり普遍化しているのです。その結果の両者の類似です。(ただし、犀星はもっぱら屈折した心理の構造だけを抒情し、西沢爽は歌謡曲らしく故郷の具体的なイメージをちりばめて歌うのです。)
 では、橋幸夫「故郷の灯は消えず」の項で抜粋引用した犀星の詩の全文を引いておきましょう。

  「小景異情 その二」 室生犀星
 ふるさとは遠きにありて思ふもの
 そして悲しくうたふもの
 よしや
 うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても
 帰るところにあるまじや
 ひとり都のゆふぐれに
 ふるさとおもひ涙ぐむ
 そのこころもて
 遠きみやこにかへらばや
 遠きみやこにかへらばや

 
 なお、加賀城みゆきはむかしの加賀の国、石川県金沢市の出身。それゆえ芸名加賀城。このデビュー曲の大ヒットで昭和41年のレコード大賞新人賞女性部門の候補9人の一人としてノミネートされました。(受賞したのは「赤い風船」の加藤登紀子。男性部門は「空に星があるように」の荒木一郎。歌謡曲系でなくフォーク系の二人が受賞したのでした。)
 抜群の歌唱力に恵まれた加賀城でしたが、1991年、癌で死去。44歳の惜しまれる死でした。

584 倍賞千恵子「故郷は遠い北国」 ふるさとは遠きにありて(2)

 吹雪の北海道を思いやって、倍賞千恵子「故郷は遠い北国」を。
 youtubeにはありませんがdailymotionにあります。こちらで聴きながらお読みください。Cyojさんに感謝しつつ無断リンクします。
 (レコードジャケットの下は「映画情報」昭和39年9月号から。)

倍賞千恵子「故郷は遠い北国」
倍賞千恵子・故郷は遠い北国  昭和39年8月発売
  作詞:小野寺與吉 作曲:飯田三郎
 一 故郷は 遠い北国
   雪白く 戴く山に
   いどみ行く 若人の群
   大雪山(たいせつ)の いただき高く
   あゝ 峰々に 響く声々
 二 故郷は 遠い北国
   石狩川(いしかり)の 流れる岸辺
   こがねなす 広野の中に
倍賞千恵子s39-9映画情報   あたたかい 灯の街
   あゝ うまざけの あふれる泉 
 三 故郷は 遠い北国
   粉雪の 吹きすさぶ夜
   赤々と だんろは燃えて
   明日の夢 語り合いつつ
   あゝ 和(なご)やかに まどう家々

 ジャケットに「NHK旭川放送局選定」とあります。NHK旭川放送局開局30周年記念、大雪山国立公園指定30周年記念を記念して募集された「旭川ふるさとの歌」の一曲だそうです。
 作詞者の小野寺與吉は旭川の小・中学校の国語教員だった人。(作曲家の飯田三郎は根室市の出身。)
 小野寺の原詞は旭川の春夏秋冬を歌って四番仕立て。その一番(春)を省略してレコード化したもの。
 (以上の情報はこちらのページから。レコードジャケット画像も無断拝借しました。リンクを貼って謝意とします。さらにこの歌の詳細を知りたい人はどうぞリンク先に行ってみてください。)

 上記のとおり、元の詩の一番(春)をカットしたので、これは旭川の夏、秋、冬。
 夏は大雪山への登山風景。大雪山の一部には初雪の降るまで残る雪、つまり万年雪があるそうなので、夏とはいえど「雪白く戴く山」。近ごろは中高年登山者が増えましたが、50年前、大雪山などという高山にチャレンジする(いどむ)のはもっぱら「若人の群」。
 (大雪山系トムラウシ山の夏山登山ツアーで大半60代の男女8人が悪天候下遭難死したのは2009年7月のこと。中高年のお気楽ツアー登山が招いた事故。ツアー会社社長とガイド3人が業務上過失致死に問われました。)
 秋は石狩川の岸辺に広がる広大な上川盆地のこがね色の風景。北海道より緯度の高いポーランドでは樹々のいっせいの黄葉を愛でて「黄金の秋」と言いますが、こちらの「こがね」色は紅葉でしょうか一面の稲穂の色でしょうか。米を原料にした日本酒醸造も盛んだそうで、「うまざけのあふれる泉」とつづくあたり、稲穂かもしれません。
 冬は粉雪吹きすさぶ夜。あたたかい暖炉のそばでの団欒風景。「明日の夢語り合いつつ」は私に、暖炉の炎の前でいつまでも語り合おう、と歌う我が愛唱歌「青春をぶっつけろ」を思い出させます。

 三番末尾「和やかにまどう家々」。「まどう」は「惑う」ではなく、人々が丸く並んで座る(くつろいで親しく談笑するイメージ)という意味の名詞「まどい(円居、団居)」を動詞にしたつもりなのでしょう。工夫したのでしょうが、しかし、これは文法的にはちょっと無理がある。
 「まどい」は古語では「まどゐ」。動詞にするときはサ変動詞の「す(する)」を付けて「まどゐす」。
 (「まど(まと)」は「まどか(まろか)」「まどやか(まろやか)」などの語幹。つまり丸いこと。「ゐ」は動詞の連用形でここは名詞の「ゐ」。無理やりこの「ゐ」を動詞として再度活用させたってワ行一段活用だから絶対に「う」にはならない。)
 つまり、現代日本語の「まどう」は「惑う」だけ。
 学校の国語の教師で校長にもなり、いくつか校歌を作詞したという人らしくもない。せめて「つどう(集う)人々」にでもすればよかったのに、と残念に思います。
 (「つどう人々」では室内の映像。ここは俯瞰で街全体の映像にしたかったのでしょう。街の「家々」が仲むつまじくまどい(円居)をしている感じに。気持ちはわかりますが。)
 以上、またしても人生幸朗師匠のごとく歌詞に難癖をつけてしまいましたが、「相棒」の杉下右京に倣っていえば「僕の悪い癖」。ご容赦を。

 (その杉下右京氏、しょっちゅう「これは立派な犯罪ですよ!」と犯人を叱りますが、これが人生幸朗二世としては気になって仕方ない。「立派な」は誉め言葉。ここは「れっきとした犯罪ですよ!」と言うべきところ。「れっきとした」は「明白な」という意味。なんでも知っていて時々言葉についてもえらそうに蘊蓄を披露する杉下氏、これはみっともない。
 ここは杉下右京に喝!。「「立派な犯罪」なんかありませんよ!」
 杉下氏のために注釈すれば、「れっきとした」は「歴とした」と書いて、「歴」は「あきらか」の意。「歴然」の「歴」。
 「れっきとした」という由緒正しい言葉が死んで、「立派な犯罪」などという無知な言い方が広まったのはたかだかここ20年程のこと。では、杉下右京氏、案外お若い?
 まあ、若者どもはいまや誉め言葉で「ヤバイ」と言うぐらいだからもうあきらめていますが、中高年はもうちょっと言葉を大事にしてほしいもの。)

 ともあれ、「まどう」さえ気にしなければ、土地の美しい四季の風景と暮らしの歓びを織り成して立派な詞です。飯田三郎の曲も俗に流れず格調高い。さすが大津美子「ここに幸あり」(s31-3)の作曲家。倍賞千恵子が澄んだ歌声で力強く歌い上げるにふさわしい一曲です。

583 橋幸夫「故郷の灯は消えず」 ふるさとは遠きにありて(1)

 青春歌謡は望郷は歌うがめったに帰郷しないのだ、と書きました(西郷輝彦「あゝ故郷」参照)。
 いわば青春歌謡の精神は「ふるさとは遠きにありて思ふもの」(室生犀星「小景異情 その二」)の精神です。
 では、遠きにありてふるさとを思ふ歌、橋幸夫「故郷の灯は消えず」を。私が勝手に名付ける橋幸夫の「故郷三部作」の一つ。「南海の美少年」(s36-5)につづく橋の「美少年シリーズ」第二弾「東京の美少年」のB面です。
 こちらで聴きながらお読みください。「_1130昭和の風の子」さんに感謝しつつ無断リンクします。
 (レコードジャケットの下は、昭和36年9月15日発行の「近代映画 臨時増刊 橋幸夫写真全集」の表紙と裏表紙。)

橋幸夫「故郷の灯は消えず」
橋幸夫・東京の美少年/故郷の灯は消えずs36-10  昭和36年10月発売
  作詞:佐伯孝夫 作曲・編曲:吉田正
 一 くにを出てから、ご無沙汰ばかり
   老いた母さん達者でいてか
   春が来る度、花咲くだろか
   秋が来る度、淋しかないか
   想いくらしているんです
 二 夢に母さん、顔見た朝は
   いつも元気でとび起きますよ
   なんといっても優しい母が
橋幸夫s36-9-15   僕にゃあるんだ、嬉しじゃないか
   母の住んでるふるさとも
 三 赤い夕陽が並木に沈む
   涙ぐんでる小鳥もあろに
   街にや灯がつく、今夜も霧か
   霧に滲んだその灯を見れば
   胸に故郷の灯が点る

 青春歌謡以前、昭和30年代歌謡曲の曲調です。青春歌謡の時代になると、こういう曲調はもう新川二郎や佐々木新一といった演歌系・民謡系の歌手だけのものになってしまいます。
橋幸夫s36-9-15裏 「くにを出てから、ご無沙汰ばかり」と始まって二番二行目までつづく「です・ます」調の歌詞は母親にあてた手紙のようです。
 親にあてた手紙仕立ての歌謡曲も古くからあって、戦時中なら日中戦争初期、「♪ 拝啓御無沙汰しましたが/僕はますます元気です」と戦地便りのスタイルで歌い出す上原敏「上海だより」(s13-1 佐藤惣之助作詞)、青春歌謡の時代なら「♪ かあさんお変りないですか/いつも御無沙汰すみません」と歌う新川二郎「東京からふるさとへ」(s40-10 阿井宇江夫作詞)などがその代表。
 しかし、この歌は二番の途中から「です・ます」口調を棄ててしまいます。手紙文体で最後まで一貫できなかったのが歌詞の傷といえば傷ですが、これも例によって、良くも悪くも佐伯孝夫のぞんざいさのあらわれでしょう。

 室生犀星「小景異情 その二」は、犀星の不幸な生い立ちを背後に秘めていて、そのため、「ふるさとは遠きにありて思ふもの」と書き出した後、
  そして悲しくうたふもの
 とつづき、さらに、
  よしや
  うらぶれて異土(いど)の乞食(かたゐ)となるとても
  帰るところにあるまじや

 と、故郷への強い拒絶の表明に到ります。
 犀星は、結局、ふるさとを愛しつつ、しかし、そのふるさとに自分の居場所のないこと、自分がふるさとによって拒絶されていることを思い知ったのです。「帰るところにあるまじや」には、故郷に拒絶された者が故郷を拒絶し返す、という心理機制が潜んでいます。しかし、拒絶し返しながらも、「あるまじや」という疑問形には、なおきっぱりと拒絶しきれないためらいと愛着がにじんでいます。
 もちろん青春歌謡一般には故郷に対するこんな屈折した感情はありません。(だから、西郷輝彦「あゝ故郷」の、もしかして故郷に彼の居場所はないのではないか、と疑わせる孤独な夜の帰郷は、青春歌謡としては異例中の異例なのです。)

 橋幸夫の主人公=語り手は、手紙文体から母親への手放しの感謝と愛情の表明へと一気に転じます。故郷の思い出の中心にいるのはたいてい母親。彼はまことに親孝行で親思いの息子なのです。(新川二郎「東京からふるさとへ」の項で書いたとおり、青春歌謡は基本的に親孝行な若者たちの歌でした。)
 その意味で、橋のこの歌の心情は、犀星の「小景異情 その二」よりは、同じころ発表された小学唱歌「故郷」に似ている、というべきでしょう。
 (犀星の「ふるさとは遠きにありて」の詩の初出は雑誌「朱欒(ざぼん)」の大正二(1913)年五月号、小学唱歌「故郷」を載せた『尋常小学唱歌 第六学年用』は大正三年六月発行。)
 「故郷」は、まず「兎追ひしかの山」と故郷の自然をなつかしみ、次いで「如何にいます父母」と父母や友人を懐かしみ、最後に転じて「こころざしをはたして、いつの日にか帰らん」と、故郷に錦を飾る日を夢見て結びます。
 橋幸夫の主人公=語り手も、都会で自分の「こころざし」を果たして晴れて帰郷し、母親のよろこぶ顔を見るその日まで、「街」の灯ともし頃のさびしさに耐えているのでしょう。それは高度経済成長の時代、大量出郷してきた都会の若者たちの多くに共通する心情なのでした。

582 石原裕次郎「あしたの虹」 歌うスターたち(8) 石原裕次郎の青春歌謡 

 新年の最初は王道の青春歌謡を。ただし、歌っているのは意外にも石原裕次郎で「あしたの虹」。
 こちらで聴きながらお読みください。utatane song さんに感謝しつつ無断リンクします。
 (レコードジャケット画像の下は、「平凡」39年3月号から、大ヒットしたデュエット「夕陽の丘」(s38-9)のイメージで裕次郎と浅丘ルリ子。「夕陽の丘」は映画化されて4月29日に封切られることになります。)

石原裕次郎「あしたの虹」
  昭和39年4月発売
  作詞:門井八郎 作曲:上原賢六 編曲:塩瀬重雄
石原裕次郎・あしたの虹/ふるさとの花&沢リリコ 一 心あかるく 生きるから
   町はきよらかに 美しい
   ああ 流れる川も あの山脈(やまなみ)
   あしたの虹が 虹がかがやくよ
 二 青い空ゆく 雲を見て
   人はあこがれる 夢を見る
   ああ その頬そめて 慕情の丘に
   あしたの虹は 虹はほほえむよ
 三 人の住む世の 倖せは
   いとしみ合って つくるもの
石原裕次郎&浅丘ルリ子・夕陽の丘39-3平凡   ああ なぜ啼く鳥よ なぜ泣く花よ
   あしたの虹は 虹は消えない

 青春歌謡の時代には石原裕次郎だって青春歌謡を歌うのです。
 裕次郎はたとえばこの2年前、昭和37年には映画「若い人」(s37-10公開)の主題歌を、この翌年、昭和40年には映画「青春とはなんだ」(s40-7公開)の主題歌を、歌いました。どちらも自ら主演した青春映画(裕次郎は高校教師役)。ただし、どちらも青春歌謡の曲調とは異なり、「若い人」はレコード化もされず、「青春とはなんだ」の方は「リパブリック讃歌」(♪オタマジャクシはカエルの子)の替え歌みたいなものでした。
 それに対して、夢と希望のシンボルである「虹」を、しかも未来を意味する「あしたの」虹を歌って、女声コーラスもあしらったこちらは、詞も曲調もまぎれもない青春歌謡。
 舟木一夫、三田明(s38-11デビュー)、西郷輝彦(s39-2デビュー)と、ちょうど青春スター歌手が出そろった昭和39年春の新譜なのです。石原裕次郎が歌った唯一の正統青春歌謡といってもよいでしょう。
 いっそのこと、同じテイチク、同じ日活の浜田光夫の方が歌うにふさわしい曲だったのではないか、などとちらりと思ったりしますが、三番の「人の住む世の倖せは/いとしみ合ってつくるもの」というあたり、やっぱり年長の裕次郎ならではのおとなの歌詞、という感じでしょうか。

 実は、レコードジャケットに記されているとおり、これはフジテレビが昭和39年4月5日から9月27日金井克子s38-7-1NHKまで放送した連続ドラマ「あしたの虹」の主題歌。石原プロモーションの制作で、青春小説の大御所・石坂洋次郎の「監修」。
 手元の資料によれば、「東北地方の架空の都市「新山市」を舞台に、東京の女子大を卒業して帰郷した主人公牧原朝子(金井克子)が、市の観光課に就職して活躍する物語」とのこと。裕次郎は出演していませんが、裕次郎夫人の北原三枝が出演して話題になったそうです。
 たぶん金井克子の初主演ドラマだったでしょう。というわけで、右には「グラフNHK」昭和38年7月1日号表紙の金井克子を。
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  • 574 浅丘ルリ子&浜田光夫「姉弟」 姉の力(2)
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  • 573 守屋浩「泣きべそ列車」 守屋浩の「姉の力」 付・童謡「汽車ぽっぽ」&「兵隊さんの汽車」
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  • 572 北原謙二「石狩列車」 汽車の旅 付・三橋美智也「北海の終列車」「北海道函館本線」
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  • 571 北原謙二「潮騒」 想い出の渚の歌
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  • 570 柏木由紀子「若い真珠」 真珠の歌(2)
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  • 569 舟木一夫「真珠っ子」 真珠とメルヘン 真珠の歌(1)
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  • 568 橋幸夫「汐風の中の二人」 早瀬久美と由美かおる
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  • 567 三田明「恋のアメリアッチ」 アメリアッチ(3)
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  • 566 久保浩&小川知子「恋旅行」 小川知子歌手デビュー アメリアッチ(2)
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遊星王子

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