久しぶりに勉強中の高校生の歌に戻って、坂本九(&ダニー・飯田とパラダイス・キング)「勉強のチャチャチャ」。youtubeに本人歌唱はありませんが、どこかの劇団が子供向けのステージで唄っている動画があります。
 (レコード・ジャケットの下は「平凡」昭和38年4月号付録歌本の表紙、高石かつ枝と坂本九。)

坂本九(&ダニー飯田とパラダイス・キング)「勉強のチャチャチャ」
  昭和38年5月発売
  作詞:永六輔 作曲:いずみたく 編曲:川口真也

坂本九・勉強のチャチャチャ ねむけをさましてチャチャチャ
 楽しく勉強チャチャチャ
 「ハイ国文法」
 コキクルクルクレコイ
 サシスルスルスレシロ
 「ハイ数学」
 三角形の二辺の和 他の一辺より長い
 「ハイ化学」
 水素はHで酸素はO のどがかわけばH²O
坂本九s38-4&高石かつ枝 「ハイ歴史」
 ピテカントロプス エレクトス
 ぼくらの先祖はおさるさん
 「ハイ英語」
 ABCDEFG I love you and you love me
 *ねむけをさましてチャチャチャ
  楽しく勉強チャチャチャ
 *部分くりかえし

 坂本九はデビュー時、パラダイス・キングの一員として活動していましたが、これは基本的には坂本九のソロ。パラダイス・キングは「ハイ国文法」「ハイ数学」などの掛け声(教師の声?)と後半のコーラス担当。(「ハイ化学」はパラダイス・キングの一員で、「キューピーちゃん」の愛称で親しまれ、独立して活動もした人気者・石川進。「ハイ歴史」の女性(女教師?)はこの頃パラダイス・キングのメンバーだった九重佑三子。)
 坂本九の歌は、「幸せなら手をたたこう」(s39-5)や「レットキス(ジェンカ)」(s41-9)のように、かしこまったレコード吹き込みというより、即興的で遊戯的なパフォーマンス性を含むのが特徴ですが、この歌でも、後半、だんだん眠気がひどくなって寝ぼけ声になるあたり、たのしい歌いぶりです。

 「見上げてごらん夜の星を」のB面曲。映画「見上げてごらん夜の星を」(s38-11-1公開)の挿入歌としても使われました。つまり、「高校三年生」(s38-6)のB面で映画「高校三年生」(s38-11-16)の挿入歌として使われた舟木一夫「只今授業中」と同じです。
 レコード発売も映画公開も両者はほとんど同時期。でも「見上げてごらん夜の星を」の方が「高校三年生」よりレコードも映画もほんのちょっと早い。(ただし、「見上げてごらん夜の星を」は、以前書いたとおり、もともと、昭和35年初演以来継続上演されてきた人気舞台ミュージカルだったのでした。)
 映画「見上げてごらん夜の星を」は定時制高校を舞台にした青春映画の名作。
榊ひろみs38-12家の光 舞台は東京下町の定時制高校。(今はなき、大毎オリオンズの本拠地だった東京球場のすぐ裏にある「荒川高等学校」定時制。)定時制の坂本九が自分の机に手紙を入れておき、同じ机を使う全日制の二年生・榊ひろみとの交流が始まる、という設定。(右画像の榊ひろみは「家の光」昭和38年12月号から。なお、映画での榊ひろみの役名、wikipediaも含めてネット上の資料で「宮地由美子」となっているのはまちがい、実際の映画では「みやした・けいこ」です。)
 以前も書いたように、青春歌謡の時代は定時制高校の時代でもありました。
 映画には教室で、榊ひろみが同級生の五月女マリと九重佑三子と三人でおしゃべりしている場面があります。(後には小さく無名時代の中村晃子も、一言のセリフもない端役で映っています。)五月女マリが、図書館で調べたのだと、次のように言います。「(定時制の生徒は全国で約45万人もいるのよ。」驚く二人に、「そればっかりで驚かないでよ。その定時制にも行けないで働いている人が230万人もいるのよ。」
 (映画で定時制の同級生・伴淳三郎は49歳の博物館の守衛。坂本九の工場の同僚で榊ひろみの従兄である中村賀津雄は中学校で優等生だったが定時制にも行けなかった若者。)
  
 さて、舟木の「只今授業中」は、映画の中で、休み時間に舟木の周りに級友たちが集まって歌う、という目立つ演出で使われました。
 一方、こちら「勉強のチャチャチャ」は、夜の下宿の裸電球灯る下で、昼の仕事と夜の授業を終えて疲れ切った坂本九が勉強しながら居眠りしている場面で、付けっぱなしのラジオから流れてくる、という「地味な」使われ方。それもパラダイス・キングの歌声で、坂本九の歌声は聞えません。(ラジオから特徴のある坂本九の歌声が流れたのでは、この映画のリアリティがぶち壊しになります。)
 ちゃんと高校生の勉強内容を歌詞に取り込んだという点でも、「只今授業中」と同じ。
 舟木の歌は英語と数学の二教科だけでしたが、坂本九の「勉強」は、国語、数学、化学(理科)、歴史(社会)、英語の主要五教科を網羅。内容は、歌謡曲の歌詞なので当然ながら、一部中学校レベル(口語文法のカ変サ変やH²O)も含む基礎的なもの。それが定時制高校らしくもあります(失礼)。もっとも「只今授業中」の「ABCDEFG」だって「ABカッコ」だって高校生とも言いにくい基本中の基本。関沢新一の「ABカッコ Aカッコ」ほどのエスプリはありませんが、永六輔、短いなかに高校生らしい遊び感覚もちゃんと盛り込みました。
 高校生の勉強内容を取り込んだ歌としては、この後、「一夜一夜に人見頃(1.41421356=ルート2)」「富士山麓(に)オーム鳴く(2.2360679=ルート5)」を歌い込んだ高石ともや「受験生ブルース」(s43-3)が最大のヒット曲になります。さすが大学受験、勉強内容も高度!しかし何と不毛な勉強!

 なお、「チャチャチャ」はキューバ起源だそうで、1953年に創始されたのだといいます。
 「チャチャチャ」で日本でいちばん有名なのは「おもちゃのチャチャチャ」野坂昭如が作詞した(越部信義作曲)ことでも知られていますが、最初のバージョンが発表されたのは昭和34年(1959年)。子供向けにアレンジするため吉岡治が歌詞を改作して(曲の一部も改作して)NHKの子供向け番組で放送されるのが昭和37年8月。(だから、今日流布しているバージョンは野坂昭如作詞、吉岡治補作詞。)たちまち大人気となって、真理ヨシコが吹き込んだレコードも大ヒット。「見上げてごらん夜の星を/勉強のチャチャチャ」が発売されたこの年、昭和38年年末の第5回日本レコード大賞、舟木一夫「高校三年生」が新人賞を受賞し、「おもちゃのチャチャチャ」は童謡賞を受賞したのだそうです(以上[wikipediaおもちゃのチャチャチャ])。
 さすがは戦後歌謡界屈指の才人・永六輔&中村八大、さっそく「おもちゃのチャチャチャ」の人気にあやかったのかもしれません。