夏木陽介&水野久美s36-7藝能画報より 先日、夏木陽介氏の訃報が入りました。1月14日没。81歳。
 俳優・夏木陽介は昭和33年デビュー。野性味あふれる二枚目、といった役どころで東宝のスターになりました。(右画像は雑誌「藝能画報」昭和36年7月号から、同じ東宝の水野久美と。)
 訃報によって、このブログ、布施明「若い明日」&「これが青春だ」「貴様と俺」のアクセス数が一気に跳ね上がりました。ともに夏木が主演した学園ドラマ「青春とはなんだ」の主題歌&挿入歌です。
 夏木陽介と青春歌謡との関わりはほぼこの一点だけ、と言ってもよいのですが、追悼の意をこめてもう一曲紹介しておきましょう。「太陽野郎」。
 これはやっぱり夏木陽介が主演した日本テレビの連続ドラマ「太陽野郎」の主題歌。昭和42年11月スタート。しかし学園ドラマではなく牧場が舞台。
 歌ったのは(寺内タケシと)バニーズ。バニーズは「エレキの神様」寺内タケシが「ブルージーンズ」を脱退して1966年(s41)に結成したグループ。(寺内は後にバニーズからも脱退。「神様」は気難しいのです(笑))
 テレビの青春ドラマの主題歌をグループ・サウンズが歌ったのは一年前のブルー・コメッツ「何処へ」(s41-12)が先駆け。これはそれに続くもの。この「太陽野郎」と同じころ、同じ日テレ石坂洋次郎シリーズ「ある日わたしは」の主題歌もブルー・コメッツが歌っていました。(そして、この昭和42年年末にはブルー・コメッツ「ブルー・シャトウ」がレコード大賞を受賞します。)
 こちらで聴きながらお読みください。GSiloveyouさんに感謝しつつ無断リンクします。
 (レコード・ジャケットの上部に小さくドラマの画像があしらわれています。ジャケット画像の下は「週刊TVガイド」昭和41年10月14日号。大人気の「青春とはなんだ」もまもなく開始一年、最終回が近づいていたころの夏木陽介です。)

バニーズ「太陽野郎」
  昭和42年11月発売
  作詞:岩谷時子 作曲:いずみたく 編曲:寺内タケシ
バニーズ・太陽野郎 一 さびしくなると なぜかなつかしい
   お前は空を降りた 太陽野郎
   イエ イエ イエ いつも熱いその胸は
   イエ イエ イエ 誰のために燃えるのさ
   両手に夢と望み ぶらさげて
   幸せまいて歩く 太陽野郎
 二 かなしくなると なぜか想い出す
   お前は愛を運ぶ 太陽野郎
   イエ イエ イエ いつも甘いその歌は
夏木陽介s41-10-14   イエ イエ イエ 誰のために歌うのさ
   両手に夢と望み ぶらさげて
   幸せまいて歩く 太陽野郎
      太陽野郎 太陽野郎
      太陽野郎 太陽野郎

 日テレ「青春とはなんだ」は、型破りの教師がラグビーを通じて熱い教育を展開する、というドラマ。以後の学園ドラマの基本を作りました。原作は石原慎太郎
 ちょっとデータを整理しておきましょう。
 まず日活が慎太郎の弟・石原裕次郎主演で映画化しました。日活映画「青春とはなんだ」はs40-7-14公開。
 東宝制作、夏木陽介主演の日本テレビ「青春とはなんだ」のスタートはその3か月後。半年の予定だったのが好評につきオリジナル脚本を追加して一年間に延長。s40-10-24~s41-11-13。
 つづいて日テレ&東宝はただちにテレビ二作目「これが青春だ」をスタートさせます。これも夏木陽介主演で、生徒たちも「青春とはなんだ」でおなじみのメンバーをそろえる予定だったところ、夏木が木下恵介監督の映画出演スケジュールを優先させたため、急遽、無名の新人・竜雷太が抜擢されたのだといいます。これはラグビーでなくサッカー部。これも大人気で一年間。s41-11-20~s42-10-22。
 ここからややこしくなりますが、竜雷太主演「これが青春だ」が始まって一ヶ月後のs41-12-17に、東宝映画「これが青春だ!」が封切られます。これは夏木陽介主演。テレビドラマと区別するためにタイトルに「!」が付きます。そしてこれは「青春とはなんだ」の映画化なのです。だから舞台は高校ラグビー部。(タイトル「青春とはなんだ」は一年前の日活映画と同じなので使えない。そこで日テレシリーズに合わせて「これが青春だ」にして、さらに「!」を付け加えたのでしょう。おかげでひどくややこしくなりました。)
 東宝は、日テレ学園ドラマシリーズを制作するかたわら、テレビの成功を横目に見つつ、夏木陽介主演の学園ドラマ映画シリーズも続けます。世はまだ青春映画の時代だったのです。
夏木陽介・でっかい太陽・ポスター 映画二作目は「でっかい太陽」(s42-9-15)。これは高校サッカー部。主題歌&挿入歌は「青春とはなんだ」と同じく布施明の歌う「若い明日」と「貴様と俺」を流用。「でっかい太陽」というタイトルはもちろん「貴様と俺」の歌い出し「♪ 空に燃えてるでっかい太陽/腕にかかえた貴様と俺だ」から採ったはず。(右は「でっかい太陽」の映画ポスター。)
 翌月からテレビでは竜雷太主演の二作目「でっかい青春」(s42-10-29~s43-10-13)が始まります。こちらはラグビー部。「でっかい太陽」と「でっかい青春」、「でっかい」が同じでこれもまぎらわしい。
 さらに間を置かずに夏木陽介映画の三作目が「燃えろ!太陽」(s42-12-6)。これは高校サッカー部。夏木陽介の映画タイトルは、テレビの「青春」シリーズと区別して、いわば「太陽」シリーズ。
 そして、映画「でっかい太陽」と「燃えろ!太陽」の間に始まったのがテレビ「太陽野郎」(s42-11-18~s43-4-20)だったのでした。夏木陽介の「太陽」シリーズを確立したのはむしろこの「太陽野郎」だったわけです。

 さて、その「太陽野郎」主題歌。作詞は「若い明日」「貴様と俺」「これが青春だ」「でっかい青春」といった日テレシリーズの主題歌&挿入歌と同じく岩谷時子。作曲も同じくいずみたく
 岩谷時子の詞はここでもまことに大柄で爽快。ことに「空を降りた」「いつも熱いその胸」が「太陽野郎」にふさわしい。
 ところで、末尾「幸せまいて歩く」のイメージは、岩谷が越路吹雪のために訳詞したシャンソン「幸福(しあわせ)を売る男」(レコード発売は昭和35年)を思い出させます。(そもそも岩谷時子は親密だった越路吹雪のためにシャンソンを訳したのがきっかけで作詞家になったのでした。)こちらにNHK「夢であいましょう」らしい番組で「幸福を売る男」を歌う越路吹雪の映像があります。その歌詞の一番は、
  おいらヴァガボンド 幸福(しあわせ)
  楽しいシャンソン
  売って歩く
  みんな見てるおれが愛の
  風にのって通る空を
  おいらは撒く いつの日も口づけの麦を
  この胸にはいつもある 夏や春の唄が
 「幸福(しあわせ)」と「楽しいシャンソン(歌)」をふりまき歩き、人々を幸福にする「ヴァガボンド(さすらいの旅びと)」。無料で歌をふりまくのではなく聴衆から金銭をいただく(ちょっとファンタスティックな)吟遊詩人のイメージなので幸福を「売る」のですが、「幸せまいて歩く太陽野郎」の歌詞の原型といってよいでしょう。
 なお、このシャンソンには戸田邦雄が訳して高英男が歌った別の訳詞があって、私などはむしろこちらの歌詞の方が耳に残っています。(1976年に高英男が歌唱する映像がこちらにあります。8分ごろから「幸福を売る男」です。)
 その戸田邦雄訳の一番の歌詞は、
  心に歌を投げかけ歩く
  おいらは町のしあわせ売りよ
  歩くごとに軽くほほを
  なでて通る恋の風が
  春も夏も秋冬も
  歩く時はいつも
  空は晴れて海青く
  甘い恋のくちづけ
 こちらの歌い出しの方が「太陽野郎」の「幸せまいて歩く」のイメージに近いようです。ただし、「恋の風」「恋のくちづけ」。二番以後の歌詞も「恋」を強調しています。原詞はこんなに恋ばっかりじゃありません。岩谷訳の方が原詞に近く、戸田訳の方がメロディーやリズムにもぴったりはまって歌詞としてもこなれていますが、日本人の歌謡趣味に合わせたかなりの「超訳」でもあります。