今から23年前、「淫女隊に気持ちいいことをされてみたい」という男性から出演希望の手紙が届いた。会って話を聞くと40歳の会社員で、結婚しており、奥さんもダンナの出演はOKしていると言う。おいおい、ふつうは止めるんじゃないのか……。


 僕は出演を承諾したものの、これだけじゃあ面白くないので、こっそり奥さんにも連絡を取った。「あなたも見に来ませんか、もちろん内緒で。見ているだけでもいいし、頭に来たらやっちゃってもいいよ」。奥さんがやるかどうかはわからない。でも、それならそれでいい。この夫婦の心理を撮りたいのだ。


 旅館の離れで1人待つダンナ。そこに淫女隊の渡辺美乃と藤岡綾乃がやってくる。手始めにダンナに目かくしをする。こうして彼が受身の快感を味わっているさなか、「奥さん、来たよ!」と僕は声をかけた。2人から乳首とチンチンを同時に舐められていたダンナが「えっ?」と一瞬絶句する。


 「奥さんが見ていることを想像して! 目かくしだからできるでしょ」。僕の言葉に「ああ、そういう意味か……」と彼は思ったかもしれない。本当に来てるわけではなく、それをイメージしてみろと。その後「こっち見てる」と綾乃が耳元でささやいたとき、「来るはずないよ」と彼は答えた。


 そのころ奥さんはといえば、襖(ふすま)一枚隔てた隣の部屋にすでに入っていた。しかも襖は少しだけ開いていて、ダンナの様子はチラッと見えたり見えなかったり……。だが、会話や気配は伝わってくる。複雑な表情で見つめる奥さんに「こういう体験は初めてですよね。刺激的なんでしょうか? つらいんでしょうか?」と小声で訊いたら、こんな答えが返ってきた。「刺激的かもしれない……」。


 そこへ面接軍団の市原克也と平本一穂がやってきて、奥さんを挑発しはじめる。この時点でダンナの目かくしは外れているが、ずっと淫女隊から責められているので、奥さんの存在にはまったく気づいていない。僕はわざと音をたてて襖を開けた。その瞬間、本当に来てるんだということを、ダンナは自分の目で確認する。彼はしばらく呆然と奥さんを見ていたのだが、無言のまま自らの快感の世界へと戻っていった。


 ダンナは淫女隊から、奥さんは面接軍団から責められている。やがてダンナが射精したのを機に、「奥さん、やっちゃっていいよね?」と僕はダンナに訊いた。「話が違うじゃないですか!」とダンナ。「うちはときどき話が違うんですよ」と僕がはぐらかす。自分がしている手前、ダメだとは言えないだろう。


 奥さんはどんどん高まっていき、平本が入口にあてがい、まさに挿入しようとしたそのとき、「平本、やめとけ!」と市原が言う。彼自身の判断なのか、僕が目配せでもしたのかは思い出せない。平本は「焦らすんですか?」と真意をはかりかねている。「ダンナに悪いからやめとき!」。奥さんは「入れてー!」と叫んでいる――。僕はいったん休憩を入れた。2人だけを残して、みんな離れから出てしまう。


 控室にしていた別棟の部屋に戻ると、淫女隊にここまでの感想を聞いてみた。彼女たちは「夫婦の絆を感じた」と言う。「奥さんがなんか言うと、あそこが反応する」と綾乃が言えば、「そうそう、手でさわってるのがグーッと硬くなるのがわかる」と美乃。奥さんは処女で結婚し、33歳の現在まで夫しか知らない。


 撮影再開にあたって、まず綾乃に催淫テープを聴かせ、それをダンナに見せようと思った。それでもしもダンナが綾乃に行くようなら、今度こそ奥さんをやってしまおうと。結局、ダンナは綾乃に行き、ダンナの前で奥さんは平本とセックスした。淫女隊よりも“奥さんの反応”によって硬さが変わったダンナ。では、奥さんのほうはどうだったのか? 平本も奥さんとしているとき、何かを感じ取っている。「どっちからかはわからないんですけど、来るんですよ」と。


 当初僕らが考えていた、簡単にビデオに出てやっちゃうような夫婦ではないことを、終わってみて皆が感じ取っていた。市原が言う。「生きるつらさと歓びを教えてやろうと思ったら、こっちが教えられてるんだから……」。美乃は「自分も、結婚している男の人と今も続いているけれど、奥さんに対する愛情とか、夫婦のつながりって何だろうと思ってたんですよ。だから怖かったのね、自分が結婚するのが。でも、あの2人を見てたら、やっぱり夫婦っていいなと思った」。


 冒頭にも書いたが、これは23年前に撮った作品である。オープニングには夫婦関係・家族関係を綴った当時の雑誌の見出しがいくつか映る。〈世は“結婚しない化”に向かっている〉〈家族の距離をはかりかねて〉〈単身世帯が半数以上~シングル化の進むパリ〉。僕が若いときには「ともに白髪の生えるまで」という言葉も力を持っていたけれど、未婚化はすでにこのころから始っていたのだ。


 そういう時代にあって、面接軍団や淫女隊をして、その絆を断てなかった夫婦がいたということだ。エンディングでは、2人が手をつなぎ歩き去っていく風景が流れ、演歌調のBGMがそれにかぶる。そんな“昭和の夫婦”に出会えたことは、僕らにとって間違いなく救いだった。「代々木忠名作選VOL.3」に収録するため、この「ザ・ドキュメント 夫婦」を再編集しながら、もしも今撮ったら、こんな夫婦に果たして出会えるのだろうかと僕ははたと考えてしまった。





Aito-sei-long