江戸時代、荷を積んで沿岸を航行していた船が暴風雨に遭遇し、沈没は免れたものの舵や帆を失い流されるだけとなる事故が少なからずあった。こうなると乗組員はひたすら船の上で耐え、どこかの島に流れ着くのを待つのみとなる。多くはそのまま死を迎えるのだが、ごくまれに異国の地にたどりつき、さらには運良く日本に帰還するというケースもあった。

 鎖国中ゆえ異国に行くことは大罪とされていたことから、帰還者は厳しい取り調べを受ける。また異国の情報を持ち帰ったことから、学者が詳しく聴き取りを行うこともあった。

 

 吉村昭は20代の頃からそうした記録に興味を持ち、漂流した人々を主人公に据えた作品を(本作品を入れて)7作残している。本書は、吉村昭最後の「漂流もの」であり、“これまでの一応の総決算として漂流そのものについて書いた”ものである。(本書あとがき)

 

 漂流はなぜ起こるのか、漂流するとどのような状況になるのかといった話やいくつかの漂流事例、救助された漂流民やロシアとの関係などが述べられる。

 続いて、1793年に石巻を出港した後に漂流した「若宮丸」のことが詳しく描かれる。「若宮丸」は何とかロシアに漂着し、乗組員はその後首都ペテルブルクを経てついに船で日本に帰ってきた。彼らは「初めて世界一周をした日本人」なのである。

 

 新書ということで、序盤は解説スタイルだが、第2章以降は他の作品と同様「漂流もの」の面白さを味わえる1冊である。

 

(平成15年刊行/新潮新書)