2010年07月12日
糖尿病リスク減少のための学校教育、小さな効果。
米国の非白人と低所得層の多い42校(6年生4,603人)をランダムに2グループに分け、介入群(21校、2,307人)には学校ぐるみで糖尿病リスク減少のプログラムを実施し、比較群(21校、2,296人)には実施しなかったところ、6年生の始めから8年生の終りまでの3年間で、主要評価項目である肥満と過体重を合わせた割合の減少には2群で差がなかったが、副次的評価項目である肥満の割合、BMIの分布、ウェスト周囲径、血中インスリン値は介入群で比較群より改善した。論文はNew England Journal of Medicine電子版に2010年6月27日掲載された。
生徒のうち、肥満と糖尿病のリスクが高いヒスパニック系と黒人が72.2%を占めた。介入群の学校では、体育、栄養(食堂や自販機などの食物の量や質を改善など)、知識と行動スキルに関する授業、ポスター掲示等の広報などを行なった。
その結果、3年間で、主要評価項目である肥満と過体重(標準体重の85パーセンタイル以上)を合わせた生徒の割合は、介入群では50.3%から45.8%に減ったが、比較群でも49.3%から45.2%に減り、2群間に差はなかった。
一方、副次的評価項目である、肥満(標準体重の95パーセンタイル以上)の生徒の割合は、介入群では30.1%から24.6%(5.5%減少)と、比較群の30.4%から26.6%(3.8%減少)よりも減った。また、BMI値の分布と、ウェスト周囲径が大きい(標準値の90パーセンタイル以上)生徒の割合も、介入群が比較群より改善した。空腹時血糖値の変化に差はなかったが、空腹時インスリン値の上昇は介入群のほうが比較群より小さかった。
筆者によると、先行研究では、肥満や過体重を減らす学校ベースのプログラムの一部は効果を示しているが、大規模な研究の大半は効果を示していないという。また、肥満減少の効果を示したのは1件のみで、その点を考えると、今回の研究で肥満の生徒の割合が減少したのは注目すべきことだと指摘している。
また、比較群の学校の生徒でも肥満と過体重の割合が減少した理由は明らかではなく、過去の研究でも比較群で肥満の割合が減少したことはないが、肥満に対する社会の懸念の高まりが影響している可能性があると考察している。
⇒糖尿病リスクを減らす学校ぐるみの教育プログラムにより、主要評価指標には効果がなかったが、副次的評価項目に小さな効果を認めたという研究。比較群でも肥満と過体重の割合が減少したことが、介入群での効果の検出を困難にした。
副次的評価項目のひとつである肥満の割合は介入群でより大きく減少したが(5.5%)、比較群(3.8%)と比べた減少率は小さく、学校ベースの介入の難しさを表したデータと言えるだろう。とはいえ、ランダム化比較試験の手法を使ってこうした教育プログラムの有効性を定量的に明らかにする試みは重要だ。
日本では農林水産省が「食育」なる言葉を作り出し、行政事業として推進しているが、その目標や有効性の根拠には疑問が多い。問題があることと、解決策があることは、別次元の事柄だ。
筆者の教え子の一人も、かつて幼児に「食育」を実践する職場にいたが、なにを目標に、なにを評価指標として、どんな内容の教育を実施すればよいか、戸惑っていた。行政施策として行なう以上、今回のランダム化比較試験を見習って、目的を明確にして標準化された介入を行い、きちんとした有効性の評価を行なうべきだろう。
論文要旨
生徒のうち、肥満と糖尿病のリスクが高いヒスパニック系と黒人が72.2%を占めた。介入群の学校では、体育、栄養(食堂や自販機などの食物の量や質を改善など)、知識と行動スキルに関する授業、ポスター掲示等の広報などを行なった。
その結果、3年間で、主要評価項目である肥満と過体重(標準体重の85パーセンタイル以上)を合わせた生徒の割合は、介入群では50.3%から45.8%に減ったが、比較群でも49.3%から45.2%に減り、2群間に差はなかった。
一方、副次的評価項目である、肥満(標準体重の95パーセンタイル以上)の生徒の割合は、介入群では30.1%から24.6%(5.5%減少)と、比較群の30.4%から26.6%(3.8%減少)よりも減った。また、BMI値の分布と、ウェスト周囲径が大きい(標準値の90パーセンタイル以上)生徒の割合も、介入群が比較群より改善した。空腹時血糖値の変化に差はなかったが、空腹時インスリン値の上昇は介入群のほうが比較群より小さかった。
筆者によると、先行研究では、肥満や過体重を減らす学校ベースのプログラムの一部は効果を示しているが、大規模な研究の大半は効果を示していないという。また、肥満減少の効果を示したのは1件のみで、その点を考えると、今回の研究で肥満の生徒の割合が減少したのは注目すべきことだと指摘している。
また、比較群の学校の生徒でも肥満と過体重の割合が減少した理由は明らかではなく、過去の研究でも比較群で肥満の割合が減少したことはないが、肥満に対する社会の懸念の高まりが影響している可能性があると考察している。
⇒糖尿病リスクを減らす学校ぐるみの教育プログラムにより、主要評価指標には効果がなかったが、副次的評価項目に小さな効果を認めたという研究。比較群でも肥満と過体重の割合が減少したことが、介入群での効果の検出を困難にした。
副次的評価項目のひとつである肥満の割合は介入群でより大きく減少したが(5.5%)、比較群(3.8%)と比べた減少率は小さく、学校ベースの介入の難しさを表したデータと言えるだろう。とはいえ、ランダム化比較試験の手法を使ってこうした教育プログラムの有効性を定量的に明らかにする試みは重要だ。
日本では農林水産省が「食育」なる言葉を作り出し、行政事業として推進しているが、その目標や有効性の根拠には疑問が多い。問題があることと、解決策があることは、別次元の事柄だ。
筆者の教え子の一人も、かつて幼児に「食育」を実践する職場にいたが、なにを目標に、なにを評価指標として、どんな内容の教育を実施すればよいか、戸惑っていた。行政施策として行なう以上、今回のランダム化比較試験を見習って、目的を明確にして標準化された介入を行い、きちんとした有効性の評価を行なうべきだろう。
論文要旨