キモヲタの俺のところにも、たまには嬢からメールが来るよ。
もちろん、ほんとたまにだ。やたらめったには来ない。
何しろ俺はキモヲタだからな。嬢だって、好き好んで俺にメールを送ってくるわけがない。

だから、めったに来ない上、ほとんど全部が営業メールだ。どうだ?羨ましいか?
・・・もちろん羨ましいわけないな。冗談だ。・・・冗談にすらなっていないな。

ところで、営業メールって何だ?
・・・言葉の意味は、店に来てほしいというラブレターのことだが・・・
その内容(文面)は、どんなものがあるだろうか?

露骨なのは、「会いたい」とか「たまには店に来て」とか「寂しい」とか。そういうメールだな。
中には、そんな露骨なことは書かずに、ひたすら天気のことだけ書いてくる嬢もいる。
他に話題はないのか、と突っ込みたくなるが、所詮は営業メールだ。軽く流すしかない。

もうちょっと手の込んだのになると、
「友達とショッピング行って靴を買った」だの「昨日、生まれて初めてナンを食べた」だの
「今日は休みなので部屋の掃除をしています」だの。
店に来てほしい、という表現は一切ないし、一見、普通の友達から来る普通のメールと変らない。
やや巧妙だ。

でも、よくよく考えると、普通の友達からは、こんなメール来ないな。
というか、キモヲタの俺には、普通の女友達なんて1人もいないから、「普通のメール」ってのがどんなものかもよくわからない笑。キモいな。

・・・にゃに~?それはキモいというより、寂しい人生だってか?・・・ほっといてくれ。

でも、「今日は休み」に釣られて、こっちが、
「じゃあ、これから食事でもどう?」とか誘うと、返事はまず返ってこない。
そうでなければ、「今日はこれから友達と会うから・・・」と拒絶される。必ずだ。
ああ、やっぱり営業メールだったんだな、と思う瞬間だ。
と同時に、
ああ、やっぱり俺ってキモヲタと思われているんだな、と気づかされる瞬間でもある。ほんとキモい。

ときどき俺は、営業メールとわかっていて、わざと、「食事でも」と返信して、抵抗を試みることもある。
さらにキモい俺だ。
キモいが、たまには嬢のことも困らせてやらないとな。
世の中、ギブ&テイクだからな。←ちょっと意味違う?

あまり嫌がらせするのも、スマートじゃないが、たまに軽いイタズラをするくらい許されるだろう。
店でのオイタは絶対だめだけどな。

さて。前置きが長くなった。
今日は、「ミチル(仮名)」の話をしたい。
過去俺が出会った嬢としては、それほど深い関係にもならなかったけれど・・・。
ときどき思い出しては、「あのとき、対応を間違えなければ、
 もっと違った付き合いができたのではないか。」と後悔する。
そんな酸っぱい思い出のある嬢だ。

そして、彼女からは、今までもらった中で一番困った営業メールをもらったことがある。
その話もしたいので、よかったらお読みください。

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昔、俺が常連だった中国式エステ「暖冬」(仮名)という店でのことだ。

時は、今から7、8年前だ。
当時俺は、「暖冬」で、ミチル(仮名)という新人の小姐に出会った。
ミチルは、年齢は20代前半くらい。
ややぽっちゃりしていたが、目鼻立ちのはっきりした、若々しくてかわいらしい嬢だった。
性格も優しくて、温厚。いつもニコニコしている嬢だった。
日本語がまったくダメだったが、そのためかどうかわからないが、おとなしいという印象だった。

最初フリーで当たっだのだが、そのときはたいして印象に残る嬢ではなかった。
名前もわすれちまったし、顔もよく覚えていないくらいだった。

初めて会ってから1ヶ月くらいして、またフリーであたったのだが、俺はそのとき初対面だと思って、
「はじめまして」とか言ってしまった。本気でそう言った。・・・大笑いだが。
そのときのミチルの反応は、・・・俺に何か言いたそうだったが・・・
日本語がほとんどできないから、何が言いたいのかわからなかった。
あとでわかったのだが、「初めて会ったのではない」と、一生懸命アピールしていたようだった。

***********

ミチルは、そういうわけで、日本語もほとんどだめで、彼女とは会話にならなかった。
俺がかつて当たったエステ小姐の中で、一番日本語のできない嬢だったかもしれない。
最初は、ほとんど何もしゃべれなかった。

たとえばある日、部屋で彼女と顔を合わせた時、ミチルは、しきりに
「ゴンゾー?ゴンゾー?」と俺に呼びかけた。
だが俺も中国語がまったくわからん。
その発音から、権造とか権蔵とでも言っているのかと思った俺は、
こともあろうか、明治のカールおじさんを連想したものだった。

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俺は、ミチルが、俺のことをカールおじさんに似てるとでも言いたいのかとも思ったが。
ブサキモな俺も、さすがにこんな顔はしていない。俺はミチルの言葉が不可解だった。

その後俺は、「ゴンゾー」とは、中国語で「仕事」のことだと知り、
彼女が、「貴方は、今日、仕事? 仕事はもう終わったの?」と言いたかったのだとわかったが。
それは、かなりあとになってからのことだった。
そのくらいの中国語もわからなかった俺も俺だが・・・。
「仕事」という日本語も知らなかったミチルの日本語力も、相当なものだ笑。

***********

そのくらい、コミュニケーションに難のあった2人だったが・・・
案外それでも、親しくなるのは難しいことではなかった。
彼女を指名するようになってから、いつも店では、ベッドに2人寝そべって、
ミチルに日本語のテキストを持ってこさせて、一緒に見ながら、意思疎通を図っていた。

※会話は通じなくても、まずは添い寝には必ず持ち込むところは、おれってキモい笑。

日本語のテキストには、日本語と中国語の対訳で、例文がたくさん載っていたから、
たとえば、
「あなたはどこから来ましたか?」という文を俺が指さす。するとミチルが、「ダイレン」とか答える。
「私は今日ごはんをたべた」という文をさして、俺が首をかしげるしぐさをすると、ミチルは、「まだ」と答える。
そんな他愛もない会話。それが精一杯だ。
でも、日本語ができなかったミチルにとっては、そんな単純なコミュニケーションも楽しかったと思う。

さらに、そんな会話に疲れたら、部屋の中で音楽を聴いていた。
まだ当時は、スマホなんてない時代だ。ipodもあったかどうか。
少なくとも、俺はそんなもの持ってない。
なので、携帯とかパソコンに入れたお気に入りの音楽を、みちると俺で共有した。

2人してベッドにねそべり、隣に迷惑にならないよう音を小さくして、2人で音楽を聴いていた。
俺の好きな日本の曲、ミチルの好きな中国の曲、かわるがわる聴いたものだった。
そうしていれば、1時間や2時間はすぐにたってしまう。
そのときに、俺は、中国の歌も、いくつか覚えたものだ。

ミチルにとって、俺はかなり良い客だっただろう。
なにしろ、彼女にしてみれば、多少はコミュニケーションがとれるし、ついでに日本語の勉強にもなる。
マッサージもしなくていいし、リラックスできる。
いい客に決まっている。

ここまでしてミチルとコミュニケーションを取ろうとした客は、そうそういなかっただろう。
だから、俺がミチルと親しくなれたのも、当たり前かもしれなかった。
ライバル不在の状況だから、簡単に親しくなれるというものだ。

***********

そんなミチルに対して、俺はどのように攻めたのか。その話もしよう。
ミチルは、かなり堅い嬢に見えた。掲示板にも、オイタNGと書かれていた。
もちろん、彼女は、抜きのサービスなんてしなかった。
暖冬という店は、抜きをやる嬢とやらない嬢の比率が半々くらいだったが、彼女は、堅い方の半分に属していた。
ミチルにオイタしたら、一遍に嫌われてしまうと思った俺は、最初のころは、添い寝抱擁くらいで我慢していたが・・・。

指名7回目くらいしたときのことだ。
もう、だいぶミチルとも信頼関係ができて、親しくなったと思った俺は、
「そろそろ攻めてみよう。少しくらいエッチなことをしてもミチルも嫌がらないはずだ。
そのくらいの好意はもってくれているはずだ。」と思って、攻める気満々で店に行った。
そして、いつものように、ミチルに少しマッサージをしてあげたあと。
うつ伏せでリラックスしているミチルのお尻に、思い切って、顔を近づけてすりすりしてみた。
しかし、みちるは、嫌がっている様子には見えなかった。そのくらいは、許容範囲のようだった。

その日はそれくらいでやめておいて。

次の時、さらに思い切って、逆マッサのあとで、仰向けにしたミチルの下腹部に顔を近づけた。
パンティーの上からだったけれど、局部の近くに口づけしてみた。
それもどうやら、NGではないようだった。

もうここまで行けば大丈夫と思い・・・。
さらに次に指名したとき、俺は、ミチルと添い寝抱擁をしているとき、下半身に直接触れてみた。
ミチルは、ほとんど抵抗もせず、俺のなすがままだった。
そして、下半身に触れた俺の指は、かなりの湿り気を感じ取った。
俺の抱擁で、ミチルは感じていたようだった。

気をよくした俺は、しばらく指で愛撫した。
ミチルは、何もいわず、目を閉じ、うっとりした表情だった。俺には、そう見えた。
そこで俺は、一気に攻めに出た。ゆっくりゆっくり下着を脱がし、クンニをした。
ミチルが喜んでいたかどうかはわからなかったけれど、かなり濡れたのは確かだった。
少なくとも、ミチルに嫌な思いはさせていないと思う。

ここまで到達するのに、店に行くこと10回。3回かけてのじっくりした攻略だった。
だからこそ受け入れられたのだろう。
とにかく、こうして俺は、ミチルに、肉体的にもある程度は近づくことができたのだった。

***********

ところで。当時俺は、「暖冬」では、複数の嬢を指名していた。
そして、俺は、暖冬では有名な客だった。
俺のことは、控え室で嬢の間で話題になるくらいだった。
俺は、オキニを1人には絞らなかったし、嬢も、ほとんどがそのことを知っていた。

そして俺は、それでも、「暖冬」の嬢みんなから好かれていた。
フリーでも、指名でも、俺に当たった嬢は、皆喜んだ。
それもそうだろう、俺には、マッサージしなくていいし、逆にマッサージしてもらえるのだから。
もちろん、強引なオイタもしない。嬢の嫌がることはしない。
それでいて、たいていの嬢には、クンニまでしてしまう。
俺はそんな客だった。

しかし、ミチルはまだ新人だったので、そのことを知らなかったようだった。
ミチルは、俺に、自分のことだけ指名してほしいと願っていたようだった。
実際、そのように、俺にアピールしていたように思う・・・つたない日本語で。

しかし俺はというと、暖冬では気楽に遊びたかったので、
ミチルを指名する一方で、他の嬢を指名したり、フリーで入ったり、を繰り返していた。

ただ、ミチルの気持ちもなんとなくわかったので、
ミチルには、他の嬢を指名していることはなるべく知られないようにしておこう、と思っていた。

***********
***********
***********

そんなある日のことだった。
俺は、その日、あすか(仮名)という嬢を指名した。
なぜかその日は、店に人が少なかった。
客も嬢も少なかった。
受付(店長)は、俺が来店して受付を済ませると、しばらくしたら所用で外出したようだった。

あすかと俺は、奥から3番目の部屋に入った。
一番奥の部屋からは、かすかに話し声が聞こえたが、あとは店内には人はいないようだった。

広い店に、人は4人だけ(推定)。
俺とあすか、そして、奥の部屋の嬢と客。それしか人の気配はなかった。

奥の部屋もけっこう会話が盛り上がっていたようだった。
そして、それ以外は周りを気にする必要もなかったので、あすかと俺は、遠慮なく大声で笑いころげながら会話をしていた。
俺は、いつものように「明るく振舞うキモヲタ」を演じていた。
店で嬢にモテるためには、明るく振る舞うのがなによりなのだ。
なので俺は、奥の部屋の盛り上がりに負けるものか、という感じで、あすかを思いっきり笑わせようと頑張った。

***********

しばらくそうやって、あすかと会話をしていたが、ふと会話が途切れたとき、奥の部屋の声がすこしはっきり聞こえた。
ところが、ちょっと様子がおかしい。
奥の部屋から聞こえてくる話し声は、男と女の声ではなく、女性同士の会話に聞こえる。
それも、もしや中国語?

俺は、あすかに尋ねた。
俺「奥の部屋はお客さんだよね?それとも、女性の客が来ているの?」
暖冬には、まれに女性客が来ることもないではなかった。

あすか「あれは、ミチルと舞(別の嬢)。2人でしゃべっているの。お客さんじゃないよ。(笑)」
ガーン! あれは客じゃなかったのか。
俺はてっきり、客と嬢がしゃべっているのだと思っていた。だって、その部屋は控え室ではない。施術室だもの。
そして、会話が続いているようだから、日本語のしゃべれないミチルとは、別の嬢だと思っていた。

ミチルが客とそんなに長い会話ができるわけがない。中国語を話せる客でない限り。
だから俺は、ミチルは、今は店内にいないものだと早合点していたのだ。
それで、あすかとは気兼ねなく大声でしゃべっていたわけだ。

まずい。おそらく、ミチルには、俺の声が聞こえただろう。
そして、俺があすかを指名したことがばれたに違いない。
俺は少しだけ動揺した。
そんな俺のキモい心の動きを知らないあすかは、会話が途切れたのを潮に、
あすか「お茶を持ってくるね。ついでにトイレ行ってきていい?」と言って、部屋から出て行った。

***********

そのときだった。突然俺の携帯にメールが届いた。
画面を見たが、メールの送り主に見覚えがなかった。
俺の携帯に登録されていないアドレスだった。

当時、俺の携帯に、登録のないアドレスからメールが届いたことはほとんどなかった。
迷惑メールさえも来たことはなかった。
あるとすれば、「アドレス変えました」くらいだ。そして、それすらめったにない。

誰からだろうと思い、早速チェックしてみた。
なんとそれは、奥の部屋にいるはずのミチルからだった。

ミチル(メール)「私はミチルです、会いたいです」

ミチルが誰かの携帯を借りて・・・おそらく舞の携帯を借りたのだろう・・・奥の部屋からわざわざ送ってきたようだった。
もちろん、ミチルは、俺が今、店に来てあすかと会っていることを知っていて、メールを送ってよこしたのは間違いない。

なぜ、そのときミチルが自分の携帯を使わなかったのか、その後もミチルに理由を尋ねなかったから真意はわからない。
最初俺は、ミチルが自分の携帯を持ってくるのを忘れたから、舞に借りたのだと思った。
でもそれだと、俺のアドレス(携帯番号)がわからないはずだ。
日本語が上手でなかったミチルは、舞の携帯を使って、舞に代理で日本語を書いてもらったのかもしれないかった。

あすかは、まだトイレから戻って来ていなかった。
俺は、急いで返信した。舞の携帯ではなく、ミチルの携帯にメールした。

俺(メール)「ごめんね。今度会いに行く。」
すぐに返信が来た。今度は、ミチルの携帯からだった。
やはりミチルは、携帯を忘れてきたわけではなかった。

ミチル(メール)「今どこにいるの? 私は会いたいです」
俺は、返す言葉もなく、正直に答えざるを得なかった。嘘をついてもまったく意味がないからな。

俺(メール)「今日はあすかを指名した。だから今日は会えないよ。」

今度は、ミチルからは、「私寂しいね」と返信が来た。
ミチルは、俺が他の嬢を指名したことが、つらく悲しいことであるようだった。

それに対し俺は、「ごめんね、今度必ず行くから」
そう返すしかできなかった。それに対して、ミチルからは、「大丈夫、気にしないでください」
との意味不明な内容が返ってきたものだった。

部屋を1つはさんで、すぐ近くにいる者同士が、こそこそメールのやりとりをしている。
奇妙で滑稽な光景に違いないが。
俺の気持ちは、滑稽なんていうものではなかった。
みちるを傷つけてしまったな、という後悔でいっぱいだった。

***********

間もなく、あすかが戻ってきて、このメールのやりとりは終ったが。
俺にとっては、今まで一番困った「会いたいメール」だった。
店に来ているときに、店にいる嬢から営業メールをもらったのは、このときが最初で最後だ。
こんな営業メールは、二度ともらいたくないと思ったものだった。

ところで、メールを送ったときのミチルの気持ちは、どうだったのだろう。
彼女のメールは、ただの営業メールで、俺を客として確保したいから送っただけなんだろうか?
それとも、ミチルは、多少なりとも俺のことを好きだったのだろうか。
本気でさびしいと感じていたのだろうか。
その答えは、俺はいまだにわからない。
少しは、好きだっただろう、と思いたいけれど、確証は何もない。

ちなみに、俺は、このときまで、ミチルを10回以上指名して、店外で会ったことは一度もなかった。
それだけ考えれば、スタッフと客の関係から1㎝も進んでいない。
なので、少なくとも、表面的事実から見れば、プライベートの関係とは思えない。
であれば、営業メールかもしれない・・・。
少なくとも当時の俺は、そう感じていた。

***********

というようなことがあり。
さすがの俺も、これ以上ミチルのことを傷つけたくないと思って、以降「暖冬」では、ミチル以外の嬢を指名しなくなった。

俺は、メール事件のあった2日後、舞へのお礼の意味も込めて、ミチルと舞のダブルセラピストコースで予約し、3人でカラオケに行った。
舞へのお礼というか、日本語のうまい舞に通訳をしてもらい、俺のミチルの関係を修復してもらいたかったのだ。

舞は、若いミチルと違って、30歳を超えた年配の嬢であり、物事をよくわかった賢い嬢だった。
俺が何も言わないのに、俺の意図を察して、俺の言葉をミチルに通訳し、仲をとりもってくれた。
カラオケでも、自分では歌わずに、俺とミチルにマイクを譲った。
ミチルの身体を俺に押し付けたりするようなイタズラもした。

さらに、時間を延長しようかと申し出た俺に対し、
舞「私は、もう帰るから。2人で楽しんで」と身を引いた。
俺は、そんな舞に、心から感謝した。

舞は最後に、「貴方は、ミチルの彼氏だから、私は帰るのよ。」そう言って、部屋から出て行った。
舞は、はっきりと、俺がミチルの彼氏だと認定した。
でも、その言葉を聞いてからも、俺は、自分がミチルの彼氏であるとは思っていなかった。
店でしか会わない関係で、彼氏もなにもない、そう思っていたからだった。
「彼氏」というのは、舞のお世辞、ミチルへの営業協力みたいなもの、と、俺はそう考えていた。

***********
***********
***********

それから間もなくして、ミチルは、「暖冬」をやめ、別の店に移った。
舞から聞いて、薄々感じていたのだが、「暖冬」には、嬢の中に派閥のようなものがあるようだった。
ミチルと舞は仲がよかったが、あすかや他の嬢は、ミチルとはあまりうまくいっていないようだった。
それで、ミチルは、「暖冬」の中では居心地が悪く、なおさら心細かったようだ。
心細いミチルは、俺にすら頼っているところも少しはあったかもしれない。
そんな俺があすかを指名したから・・・ミチルにとっては、俺に裏切られた想いだったかもしれない。
それで、あのメールだったのだろう。

それはそれとして。
そんな状況だったから、ミチルは、店の移籍をいつも考えていたのだろう。
そして、ついに我慢できなくなって、店を移った。

もちろん、俺は、ミチルの移籍先の新しい店に通うようになった。
ただ通うだけではなく、ミチルをいろいろサポートした。
ミチルがピザが食べたいと言えば、ピザを買って持って行ってあげたし。
カラオケに行きたいと言えば、有料店外でカラオケに行った。
延長して、と言われたら、素直に延長した。

そこまでしてあげたけれど・・・ミチルとプライベートで外で会うことは、一度もなかった。
なので、俺は、ミチルとの関係は、もうこれ以上進むこともない、と思い始めていた。

***********

ミチルは、「暖冬」には、数か月在籍していたが、他の店に移ってからは、店を転々とするようになった。
ひとつの店に落ち着くことはなかった。
長くても2か月。短いときは、1週間足らずで、また店を変わった。
暖冬のあった池袋から離れ、神田や新宿、大久保の店にも在籍した。

困ったことに、ミチルの移籍先に、俺の別のオキニが在籍していることもあった。
そんな店にミチルが移ったときは、
俺は「その店には俺は行けない」とメールしたものだった。

なぜなら、「暖冬」では、いろいろな嬢を指名していた俺だが、そこは例外で、
他の店では、1つの店で1人のオキニ、というのが俺の遊び方だったからだ。
同じ店で複数の嬢を指名したら、嬢にとってはおもしろくないし、客の俺も、モテない。
だからオキニは1人と決めていた。
そういう店にミチルが移籍したら・・・。俺は、会いに行くことはできなかった。

それに対して、ミチルからは、「どうして?なんで来てくれないの?」との悲しそうな返信があったが。
電話では言葉も通じないので、俺はミチルにうまく説明することはできなかった。

会って話さないとコミュニケーションの取れないミチルには、会いに行けない理由はどうやっても伝えられないのだ笑。
***********

あるときミチルが移った店には、俺のオキニが2人も在籍していたことがあった。
もともと俺は、その店に行ったことはあまりなかったのだが、
別の店で出会ったオキニ①と、さらに別の店で出会ったオキニ②がその店に移籍したのだ。
それも、偶然、ほぼ同時に移籍した。
なので、俺は、その店には足を踏み入れることができなかった。
オキニ①にも、オキニ②にも会いにいくことができなかったのだ。
それだけでも俺にとっては災難だったのに。

そんな店に、さらにミチルが移籍したときは、俺もいい加減、頭をかかえたものだった。
3人のオキニが計らずも、1つの店に集結してしまったのだ。
しかも、ミチルは、新しい店に移ったばかりで、かなり心細いらしい。
俺に店に来てほしいとメールで何度もせがんできた。
俺が曖昧な返信をしていると、催促は矢のようだ。

しかたなく、俺は、店に行くことにした。
とにかく俺は、店に来たことを、オキニ①やオキニ②に知られたくなかった。
彼女たちのことも傷つけたくはなかったし、もっと正直に言えば彼女らに嫌われたくなかったからだ。
なので、俺は、ほとんど話もしたことのないママに頼みこんで、ミチルを店外に連れ出した。
有料店外など、俺にとっては日常茶飯事だが、それは慣れた店で何度も指名したオキニだからこそ。
初めての店で、いきなり店外をすることは、さすがにめったにない。
それも、なりゆきでそうなることはあったにせよ、最初から店外をするつもりなんてことはあり得ない。

しかし、その店のママは、俺の事情を察してくれたのかどうかよくわからなかったが、
得体の知れない客である俺がミチルを外に連れ出すことに、快く応じてくれた。
俺は、今でも、そのときのママの対応に感謝している。

ミチルを外に連れ出した俺は、カラオケに行き、歌は歌わずに、ミチルに今の状況を必死で説明した。
まだそのとき、ミチルは、日本語が上手ではなかったので・・・。
俺は、翻訳サイトを使って、ミチルと会話をしたものだった。
もちろん、オキニが3人も店に集結したなんてことを言うわけはないが・・・。
とにかく、今、なかなか店には行けないことを言い訳して、ミチルに納得してもらったのだった。

***********

そんな苦労もしたが・・・。
俺は、だんだんと、ミチルに会うのが面倒になってきた。
なぜなら、ミチルとは、プライベートの関係にはなれそうにないと思ってしまったからだ。

ミチルとは、店外で会うことは一度もない。店で会うだけの関係だ。金ばかり出て行ってしまう。
攻略も、クンニまではいけたものの、「その先」には進めそうにない。
店外に行けないのでは、どうしようもない。
しかも、日本語のできないミチルとは、深いコミュニケーションもとれていない。
これでは、とても恋人同士とは思えない。恋人になれそうな気すらしない。

彼女の下着を脱がせてクンニしていることについても、
「しょせん、ミチルはただのエステ嬢。クンニくらい、他の客にもさせているだろう。
 仮にそうでなくても、下着を脱がせるくらい平気なこと。
 俺は特別でもないし、彼女も俺に未練など持たないだろう。」
そう思った。
俺はミチルのことを、心の底では、たかがエステ嬢と、見下していたのだろう。

さらに当時の俺は、「エステ嬢は、彼氏を店に呼ぶ」ことなんて、まったく理解していなかったし・・・。
掲示板によく書いてあるように、エステ嬢には、中国人の旦那か彼氏がいるものと信じていたし・・・。
エステ嬢が簡単に客と仲良くなるものだなんて思わなかったし・・・。

だから結局俺は、店に呼びつけられるだけのカモ客だ・・・。
そんなふうに思ってしまったのだ。
つまり、俺は、ミチルのことをまったく信じていなかったのだ。

それで、俺は、だんだんと彼女に会いに行く頻度を減らしていった。
暖冬から数えていくつ目の店だったろうか。
今の俺の記憶では、暖冬を含め、8番目か9番目の店だったろう。
その店に、ミチルが移籍したのを機会に、俺は、彼女に会いに行くのをやめてしまった。

初めて暖冬で出会った時から、約1年後のことだったと思う。
その後もミチルからは、ときどき、会いにきてほしいとのメールがきたが、俺は、忙しいとか、適当な言い訳をつけて、店には行かなかった。
そして、だんだんとミチルからのメールも来なくなり、2か月もしたら、一切メールは来なくなった。

もちろん、おれからも、ミチルに連絡することはなかった。

俺とミチルの間の話は、これですべてだ。
あっけない幕切れだった。

***********

その後、ミチルがどうなったのかは、俺は全く知らない。
あれから7年、まだ、俺の携帯には、ミチルの電話番号は残っている。
時折ミチルのことを思い出すこともあるが、7年間、電話したことは一度もない。
今では、つながるかどうかもわからない。
もしも電話して、ミチルが出たら、俺は何を言えばいいか。それすらわからない。
だから、かけてみたくても、怖くてかけられない・・・。

そして、
今、思い返してみても、俺は、あのとき俺のとった行動が、間違っていたのか、問題なかったのか、それとも、問題はあったがやむを得なかったのか、判断つかない。
いまだに、ミチルの俺に対する気持ちがどうであったのかもわからない。

ただ、少なくとも、当時と今では、考え方は変わっている。
当時の俺は、ミチルにとって自分はただの客だと信じていた。だから会いに行くのをやめた。
今は、少し違う。
俺は、一般論として、「彼氏であっても店に呼ばれることもある」ことを理解した。
エステ嬢が、客に接するときの態度は、色恋営業だけとは限らず、本気な場合もあると理解した。
エステ嬢も1人の女性であって、男の前で下着を脱ぐことは決心のいることだという、ごく当たり前のことも理解した。
だから、あくまで可能性ではあるが、ミチルが俺のことを本気で好きだった可能性もあるのではないか、と思っている。
もちろん、そうでなかった可能性も当然あると思っているけれど・・・。

どちらにせよ、俺がもっとミチルに全力で対峙すれば、彼女との仲は、進展したはずだ。
それには、俺が本気になる必要はあったとは思う。
けれど、全力になりさえすれば、俺はミチルのことは、落とせたと確信している。
なにしろ、ミチルには、ライバル客などいなかったのだ。落とせないはずがない。

逆の言い方をするなら、当時、俺はミチルに全力を尽くしていなかったから進展がなかった。
簡単な、というか、当たり前の理屈だ。
全力でなかったから進展しなかっただけなのに、俺は、進展がないのはミチルが俺を客扱いしているからだと決めつけていたのだ。

こっちが全力にならなければ、嬢だってこっちを好きになるはずがない。
こっちが全力でもないのに、嬢にだけこっちを好きになってほしいなんて話、通用するわけがない。
黙って指名だけしていれば、嬢がこちらを好きになるなんていう幸運話がそうそうあるわけがない。

もっと言えば、嬢には、「本気か、営業か」の2つしかないと思い込むのもおかしい考え方だ。
人間の感情は、ゼロとイチしかないわけじゃない。
「営業ではないし、好意好感はもっているけれど、まだそれほど好きでもない。」
むしろ、そんな状態が一番多いはずだ。
そして、そうであるならば、あとはこっちが全力で口説けばいいだけだ。
相手にもっと好きになってもらえばいいだけだ。
たったそれだけのことなのに・・・。
そんな簡単なことが、当時の俺にはわかっていなかったのだ。
本気か営業か、みたいな、意味のない2者択一の答えを探って、思い悩んでいただけだったのだ。

***********

俺も、今まで、数多くの小姐とつきあってきたが・・・。
年齢も若くて、見かけも素敵、性格も素敵という小姐と相思相愛にまで進んだケースは、そう多くない。
その点、ミチルは、かわいらしく、清楚で、初々しい嬢だった。
俺の望みをほぼ満足していた。

彼女レベルの小姐とは、なかなか出会えないし、なかなか親しくもなれない。
なので、彼女ともっと深く付き合うことができたなら、俺の人生も変わったかもしれないと思う。
もしも彼女と出会ったのが今だったら、彼女のことを手放すことはなかっただろう。

ミチルとの出会いは、まだまだ、俺が小姐との経験を積んでいなかったころのことで・・・。
彼女と出会えて、少し親しくなれたのは、ビギナーズラックみたいなところもあったと思うが・・・。
俺は、その運を活かすことができなかった。

よく、運も実力のうち、というけれど。
実際に、運自体は誰にでも平等なのだろうと思う。

しかし、その運を活かすも殺すも、本人次第、実力次第。
それが運も実力のうち、ということなんだろう。

(了)