April 21, 2008

偉大なる亡命者

 カンザスシティ・ロイヤルズ野茂英雄が現地時間20日、球団から戦力外通告を受けた。


 野茂は今季、3年ぶりのメジャーリーグ(MLB)のマウンドを目指し、招待選手として春季キャンプに参加。開幕MLBこそならなかったが、今月5日に昇格を果たした。
 MLBでは中継ぎとして登板機会を与えられたが、3試合で4回1/3イニングスを投げ、3本塁打を浴びるなど10安打、4四球、3奪三振、9失点、防御率18.69と結果を残せなかった。

 野茂の今後については未定。だが、地元紙のカンザスシティー・スターは、「永久に投手でいたい、MLBでだめならマイナー。そうでなければメキシコ、韓国、台湾。プレーできるならどこでもいい」との野茂のコメントを紹介。ただ、祖国、日本でのプレーは選択肢に入っていないそうだ。e04f72e6.jpg


 おそらく、野茂がわが国でプロのユニフォームに袖を通すことはないだろう
 なぜなら、日本球界には彼を心の底から歓迎する土壌がないからだ。


 野茂と球界との軋轢は、彼のアマチュア時代から始まっていた。少年時代から彼独特の投球フォーム、いわゆる「トルネード投法」を身につけていた野茂は、関西地区の名門高校への進学を希望した。
 だが、高校の野球部監督は事実上、これを拒否。理由は彼の投法で、「そんな投げ方では、絶対に大成しない」と、投球フォームの矯正を入部の条件にした。

 近鉄バファローズ(当時)に入団した後も、野茂と球界関係者との衝突はなくならなかった。特に1994年にバファローズの監督に就任した鈴木啓示氏との軋轢は、野茂に海を渡らせた要因の1つと言っても過言ではない。
 現在では当たり前になっている科学的なトレーニング方法を当時から野茂は取り入れていたが、それを、「毎日100球以上投げ込むのが当たり前」という鈴木氏が理解するはずがなかった。
 「もっと練習しろ」と鈴木氏は野茂をこずき、ときには野茂に1試合で180球以上投げさせることもあった。すべては、野茂に自身の信望を叩き込むためだった。(この精神論的なトレーニングのせいで、野茂は94年、右肩痛でシーズンの多くを棒に振ることになった)

 野茂と日本球界との破綻を決定的なものにしたのが、94年オフのメジャー挑戦宣言だ。
 野茂はエージェントの団野村氏とタッグを組み、任意引退という超法規的な手段でメジャーリーグへの亡命に成功した。
 球団は当初、野茂の予想外の言動に怒りを露にしたが、交渉が進むにつれ自分が不利になると態度を一転。手のひらを返したかのように、野茂の味方になろうとした。
 これまで散々ぞんざいな扱いをしておいて、自分が不利になると、世間体を気にするあまり、対応を180度変える。そんな球団を、野茂が許せるはずがなかった。


 態度を変えたと言えば、マスコミもそうだ。94年に野茂が亡命宣言をすると、マスコミはいっせいに敵意をむき出しにした。トラブルメーカー、売国奴と、野茂を罵った。
 だが、野茂が新天地で予想をはるかに上回る活躍をすると、マスコミは豹変した。無数のカメラが野茂の一挙一動を追い、野茂をその名の通り「英雄」扱いした。ときには、チームメイトに迷惑がかかることを心配した野茂が、自らマスコミに取材規制をかけたほどだ。(結局、そのことがマスコミとの溝をさらに深めてしまう)


 たしかに、野茂にも非がないわけではない。性格と言えばそれまでだが、寡黙な青年は自身の考えを言葉で相手に伝えようとはしなかった。それが、野茂と球界関係者、マスコミとの間にトラブルを生み、火に油を注ぐことになった点は否めない。


 だが、先に紹介したように、日本球界やマスコミは非難されて当然のことをしている。
 タレントの黒柳徹子氏は、「アメリカは才能で人を評価したり、実力のあるものに対し敬意を払う。だが、日本は逆に足を引っ張ろうとしている」と、雑誌「女性自身」の中で述べた。
 彼女の言葉に付け加えるのなら、「才能あるものの足を引っ張る日本人は、状況が変われば、これまでの態度や考え方も簡単に変えてしまう」といったところだろう。
 誰に非難されようが、自身の代名詞であるトルネード投法を信じ戦ってきた野茂が、そんな日本球界を許せるはずがない。



 野茂のこれまでの経験は、何物にも変え難い。日本球界の大きな財産になるだろう。
 だが、わが国は自らそのチャンスを手放してしまった。亡命者は、祖国に望郷の念を抱いても、再び安住の地にしようとは思わないのだ。


参考)ロバート・ホワイティング「世界野球革命」(ハヤカワ文庫)

yuill at 21:29│Comments(0)TrackBack(2)野球 | メジャー

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1. 野茂投手に戦力外通告?  [ いい加減社長の日記 ]   April 21, 2008 22:12
米大リーグ、ロイヤルズの広報担当者は20日、野茂英雄投手に戦力外通告したことを明らかにしました。 メジャーに昇格後は3試合で計4回1/3を投げ、3本塁打を含む10安打9失点、防御率18.69。 残念ですが、成績からは仕方のない結果かも。 ウェーバーで...
2. このまま引退してしまうんでしょうか?  [ 管理人のHITORIGOTO ]   April 22, 2008 17:56
開幕直前にメジャーに昇格の可能性がない、とわかったことで桑田真澄投手が引退をしましたが、その桑田投手とほぼ同年代で現在の日本人メジャーリーガーが誕生する先駆けとなった野茂英雄投手もこんなことになったようですね。

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