埼玉西武ライオンズ対福岡ソフトバンクホークスの第10回戦は、2対4でホークスが勝利した。


 2対2の同点で迎えた6回。ホークスは1死1、3塁のチャンスを作ると、打席には松田宣浩
 松田の打球はショートへのゴロになったが、これが中島裕之のフィルダースチョイスを誘い、勝ち越しの3塁走者が生還した。
 終わってみれば、これが決勝点となり、ライオンズの連勝は6で止まった。901d85ed.jpg
 2対2の同点で迎えた6回。ホークスは、1死から小久保裕紀が四球で出塁した。
 続く柴原洋の打席。カウントがノーストライク・1ボールになった時点で、ベンチの王貞治ホークス監督が出したサインは、ヒットエンドラン
 これが奏功し、柴原の打球はレフト前へ。その間に1塁走者の小久保が3塁を陥れ、ホークスは1死1、3塁と勝ち越しのチャンスを作り出した。
 その後、冒頭で紹介した決勝のフィルダースチョイスに繋がるのだが、このヒットエンドランこそ、王監督がここ数年間模索してきた攻撃法ではなかろうか



 長打で得点を積み重ねる、いわゆる「ビッグ・ボール」のイメージが根強いホークスだが、2006年以降は試行錯誤のシーズンが続いている。


 2005年シーズン。ホークスは172本塁打長打率.451658点を叩き出した。全得点のうち、41.5%が本塁打による得点だ。
 城島健司(現シアトル・マリナーズ)、松中信彦井口資仁(現サンディエゴ・パドレス)・バルデスの、いわゆる「100打点カルテット」を輩出した2003年シーズンには見劣りするものの、2005年のホークスも「ビッグボール」のチームと言っても過言ではないだろう

 だが、2006年シーズン。11年間に渡り、攻守の要を務めてきた城島がメジャーに移籍し、王監督は方向転換を余儀なくされた。
 そこで選んだのが、自身がWBCで日本代表チームの監督を務めた際に用いた、犠打や盗塁などの小技を駆使し得点する「スモール・ボール」だ。
 その結果、2006年シーズンは、本塁打数で前年の172本から82本へほぼ半減、本塁打による得点の割合も41.5%から23.9%に低下した。長打率も.451から.373に下がった。
 代わって、犠打の数が86回から131回ヒットエンドランも55回から80回に増加。タイムリーヒットによる得点の割合は、45.3%から57.3%に引き上げられた。
 だが、急激な方向転換は成功とは言いがたかった。2006年シーズンのチーム総得点は、553点。いくら本塁打数が前年から半減したとは言え、得点数で100点も減少するのは問題と言わざるを得ないだろう。

 わずか1年間で「スモール・ボール」に限界を感じた王監督は2007年シーズン、再び「ビッグ・ボール」の要素を取り入れた。
 その一環として、読売ジャイアンツからFA宣言した小久保を獲得。同時に横浜ベイスターズから多村仁、メジャーからブキャナンを入団させた。
 その結果、2007年シーズンは、本塁打数が82本から106本に増加し、長打率も.373から.391に向上した。
 一方で、犠打数こそ前年の131回から115回に減少したものの、盗塁、ヒットエンドランと足技を多様。盗塁数は71個から84個ヒットエンドランも80回から98回に増えた。
 シーズンが終わってみれば、本塁打による得点が全体の30.8%タイムリーヒットによる得点が53.7%と、攻撃のバランスが取れたのだが、チームの全得点は575点。「スモール・ボール」に徹した前年の553点から20点近く増加したももの、「ビッグ・ボール」を志向した2005年シーズンの658点には遠く及ばなかった。


 そして迎えた2008年。チームは、マイナーリーグで通算173本塁打を記録したレストビッチを獲得したが、その期待の新外国人は昨日まで打率.2031本塁打長打率.288とまったくもって不振。
 小久保が8本塁打、長打率.582松中が7本塁打、長打率.531と気を吐いているが、ホークスで2年目の多村は4月25日の対千葉ロッテマリーンズ戦で守備中に味方選手と交錯。右腓骨の骨折で前半戦の出場が絶望視されている。
 その結果、チーム本塁打数は27本。パリーグ3位に位置しているが、56本でリーグ1位のライオンズに大きく水を空けられている。完全に、ライオンズにお株を奪われた形だ。



 そんな中、今日の試合で飛び出した、値千金のヒットエンドラン。
 1塁走者の小久保は、決して足が速い選手ではない。まして、右膝に古傷を抱えている。
 また、打席の柴原は昨日まで、チームワースト2位の28三振を記録している。
 つまりあの状況は、いくらストライクゾーンにボールが来る確率が高い状況だったとは言え、ヒットエンドランが失敗する確率も決して低くはない状況だった。

 そんな中で見事作戦が成功し、さらに決勝点に結びついたのだから、王監督の喜びも一入だろう。



 長いペナントレースにおいて、指揮官の采配が左右する得点はわずかと言われている。
 だが、今日の3点目は間違いなく王監督自身が、好調ライオンズからもぎ取った得点と言えるだろう


※データは、すべてデータスタジアム社によるもの