26日に行われた埼玉西武ライオンズ東北楽天ゴールデンイーグルス第11回戦で、スタンドのファンが身を乗り出してファウルボールを捕球する事態が起きた。
 6回にゴールデンイーグルスの茂木栄五郎が左翼ファウルゾーンに打ち上げた飛球を、ライオンズ左翼手のブライアン・オグレディが捕球しようとした際、スタンド最前列の観客が体を乗り出してきた。


 このような妨害行為は自身のためにも、控えた方がいい。
 このことを身をもって知ったのは米シカゴ・カブスファンスティーブ・バートマン氏だ。
 フロリダ・マーリンズ(現在のマイアミ・マーリンズ)を向こうに回した、2003年10月のナショナルリーグ・チャンピオンシップシリーズ第6戦でカブスの守備を妨害。これでシリーズの流れが変わったのか、リーグ優勝まであとアウト5つに迫っていたカブスはマーリンズに逆転負けを許した。
 カブスは当時、1908年以来、実に95年間もワールド・シリーズ制覇から遠ざかっていたこともあり、バートマン氏には批難が殺到した。
 すぐさま屈辱的な罵声、紙コップなどが浴びせられ、バートマン氏は球場関係者が手配したガードマンに守られ退場を余儀なくされた。
 その後も「心を痛めているカブスのファンの一人として、心底申し訳なく思っています。飛んでくるボールに目を奪われ、(カブス左翼手の)モイゼス・アルーの姿が目に入りませんでした。ましてや、アルーがボールを取ろうとしているとは、夢にも思わなかった」との声明を発表したが、自宅には非難の電話が鳴り止まなかった。
 はたして、自宅の電話回線を切り、数ヶ月間に渡り姿をくらますことになった。
 2011年には、カブスのセオ・エプスタイン球団社長が「全てを水に流して前に進むべきである。私はいつでも彼を暖かく迎え入れる」とバートマン氏と公式の場で対面することを望んだが、実現に至らなかった。
 カブスは2016年、ついにワールド・シリーズ制覇した。
 球団はこれを記念してバートマン氏に優勝リングを授与。オーナーのトム・リケッツ氏は「われわれが待望のワールド・シリーズ制覇を成し遂げるまで、長い間ずっと尾を引いていた不幸な出来事が、これで終わることを望んでいる」との声明が発表したが、バートマン氏が長きにわたり苦しんでいたことは想像に難くない。
 突如目の前に飛んできたファウルボールに、つい体が反応してしまったとはいえ、その代償はあまりにも大きかった。