大手マスコミに言わせると、2010年は電子書籍元年なんだそうで。
 そこでは、例えばこんなことが、よく言われている。

・iPadやkindleで、どんな新しい読書スタイルが提案されるのか?
・紙の書籍が電子化することで、何がどう変わるのか?
・電子書籍には、動画や音楽が取り込まれて行くのか?
・出版社、著者、書店の関係は、これからどうなるのか?

 いや、なんかもうね、どこから突っ込んでいいのかわからない。こんなことを言っている連中のうち、どれだけが本気で言っているのかは知らないけれど、とにかく突っ込み所が多過ぎ。それを一つ一つ書いていくとそれだけで大著になっちゃいそうだから、一番キモの部分だけを簡潔に言うと、こうなる。
「電子書籍」は、「紙の書籍を電子化したもの」ではありません

 頭を冷やして、よく考えてみようよ。電子書籍って、何?
 それは、本や雑誌や新聞のような、文字や画像の情報を電子データとして構成したコンテンツ、でしょ? 少なくとも、今のところは。
 それって、今、私の、あなたの、目の前にあるものが、そうでしょ? Webページが。
 Webページって、要するに電子データなわけだけど、それが最初から電子データとして作られたものか、それとも紙の情報を電子化したものかどうかなんて、全くどうでもいいことだよね? 重要なのは電子データとしてどう使えるかであって、元々が紙かどうかなんてことを考えても、全く意味がない。
 じゃあ、今、出版社やマスコミが「電子書籍」と称して新たに普及させようとしているモノは、何?
 それは、商業的な理由で通常のWebページとして公開できない(しにくい)コンテンツを、通常のWebページとは別の形式で供給しようとするソリューション、でしょ?
 それってつまり…

Webページに色々な制限を加えて使いにくくした電子データ(を提供するソリューション)

…に他ならないことに、気付いていますか?
 まあ、上の言い方は少々悪意が入っているので、もっと客観的に言い直すと、こんな感じかな。

不正利用を防ぐため利用方法に制限を課した電子データ(を提供するソリューション)

 なぜそんな不便な制限を加える必要があるのかと言えば、それによって無制限の公開ができないコンテンツにも使えるようになるから、だよね。つまり、電子書籍というのは、紙の書籍を電子化したものではなくて、これまでWebページとしてネットに掲載できなかったコンテンツを、ちゃんとお金を取れる形で流通させるためのソリューションだということ。その目的は「デジタル化」ではなくて、「ネット上での流通」なわけ。そこが大きく違う。というか、今話題になっている電子書籍の本質は、この一点にしかない。
 ということはつまり…

電子書籍を比べる相手は、紙の書籍ではなくWebページ

…なんだよね。そこを理解できずに知ったかぶりをすると、冒頭にあるような間の抜けたことを言い出すはめになるわけだ。
 で、そこから何が見えて来るかと言えば、それは「なぜ現状の電子書籍が普及していないのか」ということ。

「絶版や売り切れがありません」
「自宅や外出先から、いつでも探して入手して、すぐに読めます」
「携帯電話やiPadなどのモバイル端末で手軽に読めます」
「大量に入手しても場所を取りません」
「誰もが発信者になれます」
「キーワード検索ができます」

 これらは、現状で「電子書籍のメリット」としてよく謳われていることだ。
 …もうわかるよね。これらは全部、Webページでは当たり前のことなのだ。むしろ、実際の使い勝手としては、現状の電子書籍はこれらについてもWebページより劣っている部分が多い。それを、無理矢理に紙の書籍と比べることでメリットとして挙げて、それに対して金を払えと言っているわけ。払うわけないっつーの。
 じゃあ、現状の電子書籍には何のメリットもないのかと言えば、それはもちろん違う。上で言っているように、そもそも電子書籍というソリューションの存在意義であるはずの大きなメリットが、一つだけある。

電子書籍の唯一のメリット:「無償公開されない有料コンテンツを入手できる」

 そして、Webページと比べた場合のデメリットも、実は大きく見れば一つだけなのだ。

電子書籍の唯一のデメリット:「利用方法が制限される」

 そう考えれば、上のメリットがデメリットを明らかに上回った時、それはお金を払って買う価値のある商品ということになる。
 では、この場合のメリットは、どうすれば大きくなるのか。もちろん、沢山の有料コンテンツが常時入手可能な状態になることだ。多様なニーズを持つ読者が、その時々で「欲しい」と思った商品が、ちゃんと品揃えられていること。少なくとも、街の大型書店の品揃えを上回るくらいではないと、価値のある品揃えとは言えないだろう。そう、紙の書籍と比較するなら、ここで比較して欲しいものだ。
 一方、デメリットを小さくする方は、なかなか単純には行かない面があると思うが、コピーや引用、検索、加工など、本来電子データが持っている利便性をなるべく損なわないように努力する、という視点からスタートすることが最重要だろう。紙の書籍も電子書籍も、「とにかく読めればそれでイイってものじゃない」ことを忘れたら、商品としてはお終いだ。
 そうしてメリットを拡大、デメリットを縮小し、メリットがデメリットを明らかに上回れば、電子書籍は買う価値のあるものになる。

 では、そうして買う価値のあるものになれば、それで売れるようになるだろうか。
 否。実際に売れるためには、もう一つ条件を満たす必要がある。それはもちろん、価格が妥当であることだ。買う価値のある商品であっても、その価格が価値以上に高ければ、当然ながら売れるわけがない。
 では、電子書籍という商品の「妥当な価格」とはどれくらいなのか。それについては、今のところ明確な指針はない。ただ確実に言えるのは、ここで紙の書籍の市販価格を基準にしようとするのは大きな間違いだということだ。
 よく考えてみて欲しい。そこで基準にすべき市販価格とは、ハードカバー本の価格だろうか? それとも新書版の価格? 文庫本の価格? はたまたブックオフ価格?
 そもそも、ハードカバー本の価格と文庫本の価格が大きく違うことは、これはおかしなことだろうか。否。書籍としての位置づけや製造コストが大きく違うのだから、きっと違って当然なのだろう。では、紙の書籍と電子書籍との違いは、それよりもさらに大きな違いではなかろうか? だとしたら、紙の書籍と電子書籍とで大きく価格が違っていても当然、ではなかろうか?
 そして、読者の心理から言えば、紙の書籍と比べて製造・流通コストが大幅に小さいことが明らかだということと、Webページと比べて大幅に使い勝手が落ちるような利用制限を受け入れる必要があることから、価格はかなり安くなければ納得できないのが普通の感覚だろう。

 ということで、これから電子書籍がブレイクするための3つの条件が明らかになったわけだ。

1.ユーザのニーズの多くを網羅する品揃えを実現する
2.使い勝手の不便を最小限に抑える
3.充分に安い値付けをする

 …なあんて、偉そうに持論を展開してみたけれど、こんなのはもう、最初っから明らかなことなんだよね。だって、つい最近の実例として、iTunes Music Storeという明白なお手本があるんだもの。アレがなぜ成功したのかをちゃんと分析したら、ここまでのような理屈をこねるまでもなく、上の3つの条件はすぐに出て来るんだから。
 で、もう少し言うと、上記3つのポイントを満たせるかどうかは、少なくとも現状の日本においては、コンテンツ・ホルダーである出版社がどう出るかにかかっているということが判る。だから、現状の電子書籍がダメダメな原因がどこにあるのかも、明らかというわけだよね。
 で、更に言うと、出版社は過去のコンテンツを沢山持っているコンテンツ・ホルダーではあるけれど、今現在産み出されつつあるコンテンツ、そしてこれから産み出されるコンテンツについては、果たしてどうかな? ということ。
 そう考えると、出版社は、クリエイターは、流通業者は、ユーザは、それぞれにこれからどうするべきなのか、おのずと明らかだと私には思えるんだけど、さて、どうだろうか?