2008年12月27日
スパニッシュセレナーデ1─34

M君と私がK君の自宅玄関があるビルの裏口へ辿り着くと、K君が仁王立ち状態で待っていた。
K君の傍らでは、彼の弟のYちゃんが、コンクリートの地面に画用紙をおいて、お絵描きをしている。
Yちゃんは、K君より四つ年下の小学生。
けれど、Yちゃんは今でいう知的障害をもつ子で、話す言葉もたどたどしく、体躯も小さくて、小学校高学年には見えない。
だから、K君は彼の両親が店に出ている間、ずっとYちゃんと一緒に遊んだり、食事の面倒をみたりしていた。
K君がM君と親友のような関係になった発端も、他の子供達に苛めを受けていたYちゃんをM君が助けた事がきっかけだった。
実際、Yちゃんは、天使のように可愛い子供だった。
純真無垢なYちゃんの笑顔は、それを見ているこちらまでが引き込まれて笑顔になるくらいに優しい。
K君は、Yの事は俺が一生面倒をみると、いつも言っていた。
勉強していい大学に入って、いい会社に入って、うんと金を稼いで、その金で店をでかくして、両親とYが一生楽に暮らせるようにしてやるのだ──、K君は自信に満ちた顔をして、誇らしげに胸を張り、いつもそう言っていた。
学校では、高飛車、俺様秀才万年学級委員長で通るK君の優しさを知っていたのは、おそらくM君と私だけ──。
K君は、M君と私以外、他の友達は誰も家に呼ばなかったもの……。
「馬鹿コンビ!
今まで何してたんだ!この野郎!日暮れじゃねえか!Yちゃん!待ちくたびれ状態だろうがよ!」
点けたばかりの玄関灯の光を弾く、銀ぶちメガネをクイ!と指先で持ち上げて、俺様万年学級委員長は怒りまくる。
「よお!Y!ごめんな〜。兄ちゃん達とコーラ飲もうか?」
「遅くなってごめんね、Yちゃん。
お姉ちゃんも、お絵描き一緒にするからね〜♪」
しゃがみこんで絵を描いているYちゃんの傍らに、M君と私はササッと摺より、ニコニコしているYちゃんの頭を撫でたり、彼の柔らかいほっぺたをコチョコチョしながら、キャッキャッと笑うYちゃんに、何だかんだと話しかけ続ける。
「俺の話を聞け……。
俺様の話を聞きやがれ……、馬鹿コンビ……」
K君のカミナリよけは、Yちゃんと遊ぶのが一番というのが。
M君と私の暗黙のルールなのである。
1─35へ続く


