ffc06bb7.jpg【精神的成熟】

‘自分自身の心の一部を無意識に幻影化させる’
児童虐待による苦痛や耐え難い暴力に打ち勝つ為に別の内的人格を創り上げる・・・つまりは多重人格を生み出す要素となるもの・・・。

多重人格については、自身も何かと興味が深く、過去にも様々な書物を読んだりもしてきた。

虐待による暴力に対して、‘これは自分ではない。これは別の知らない人間なのだ。今この屈辱を受けているのは自分とは無関係の人間なのだ・・・’
そう強く願い、苦痛に耐えるその気持ち。

物語としては、もの凄くよく出来ていると感心する。
実は主人公のマサオにも共感できるからそう感じるのだ。
ただ、マサオは自己の中で、正常な意識を常に持ち合わせていて、冷静だった。誰よりも・・・羽田先生よりも精神的にはもうすでに大人だった。
だからマサオの中では、実際には別の人格を生まなかった。生まないでよかった。
ただ、アオという幻覚を生んだだけ・・。しかも意識の中で存在している事も自覚しているわけだから、マサオって奴は凄い奴だと思う。

マサオがクラスの中でも、ゴミ箱的存在になり、彼の存在が薄くなっていく様。
羽田先生が、マサオの失敗や叱る要素を何処からともなく探し出しては突付いて、標的にする様。
吐き気がするほど醜い行為である。
正直、胸がチクチク痛んだ。し、何よりも早く反撃することを望んで一気に読んだ。

アオの幻影を認めるマサオは大人だった。
大人よりも大人だった。

この読後、複雑ではあるけれど、悪くはない!

(2003年冬読了)