「週刊 新社会」好評連載中 『たんこぶ』 579回 2019.05.21

「テレビドラマ『きのう何食べた?』が問うているもの」 
     
 よしながふみ原作の『きのう何食べた?』の放送が、テレビ東京系「ドラマ24」で始まった。主演は内野聖陽(陽気で金のない美容師/矢吹賢二)と西島秀俊(倹約家で料理が好きな弁護士/筧史朗)の2人。辛淑玉連載 たんこぶ

  ゲイカップルの日常生活でぶち当たる様々な問題と、低コストでできる料理の紹介がミックスされた、秀逸なドラマである。たとえば史朗の母親が「犯罪者でもゲイでも息子を受け入れる」と言い出すところなど、思わず「あるある」と頷いてしまうほど「いい人」たちの勘違い、意識の根底にある差別が見事に表現されている。

  すでに4話まで放送されているが、賢二が、史朗が過去付き合っていた女性が近所にいることに嫉妬して問い詰めたとき、史朗が「相手も傷つけ、自分も苦しくて、二度と女性と付き合うことはない」と語るくだりがあった。そう、この番組は視聴者に、人を愛することに正直ですか? と問うてもいるのだ。

  昔、先輩女性が資産家と結婚したものの、1カ月もしないうちに離縁されたことがあった。もちろん傷物扱いは女性の方。その後、彼女は生涯独身を通した。離婚から30年以上たって彼女が口にしたのは嫁いだ夫がゲイで、本人もなんとか「治したい」と思っていて(当時、同性愛は病気とされていた)結婚したものの、毎日男性から泣き声の電話がかかり受話器を持つ夫も泣き続ける日々だったという。性交渉もないまま離縁された当時、彼女自身もわけが分からず、誰にも語れなかったという。

  そんなこともあって、ゲイの友達に「偽装結婚はやめなよ」と言ったことがある。すると彼は、「じゃ、辛さん、異性愛者はみんな愛だけで結婚しているの?」と問うてきた。

  親から受け継いだ遺産(容姿とか家柄、財産といった、自身の力ではどうにもならないもの)や、自分の都合(料理が上手だとか、よく世話を焼いてくれる、楽しませてくれるなど)ではなく、相手が自ら努力して勝ち得たものに価値を感じて結婚する人が、どれほどいるだろうか。

  そう、稼げる男に価値がある社会では、異性同士も結局偽装結婚なんだよなぁ。
 

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