気軽に楽しく美しく

アンテイーク着物コレクターのYUKOが着物の女の写真を中心に、短・中編のお話や詩を組み合わせて織りなす、時限を超越した世界です。サブのコレクションページ「銘仙の時代の女」http://blog.livedoor.jp/yukononono-12/も合せてどうぞ。

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梅が咲いた。
「まるで君のような木だね」とあなたが言うから
「1年のうち、ほんのわずかしか咲かないということでしょうか」と拗ねたら
 小さな花のひとつひとつを指して、
「これは君の優しさ」「笑顔の可愛らしさ」「拗ねた顔の愛おしさ」などと、ひとつひとつ真面目な顔で唱え始めた。私が赤面して止めようとしたところで、笑って木を抱くように両手を挙げて、
「小さな美しさが集まってこの美しい木になるのだね。たくさんの愛しさが集まって君になるように」と振り返った。
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 嬉しいやら、照れくさいやらで照れ隠しに「でも、梅はすぐに枯れてしまいますよ」と返した。
「そりゃあ、生きているうちには辛いことも悲しいこともいろいろとありますよ。辛かったら泣けばいい。愚痴を言ってもいい。あたってもいい。僕が受け止めてあげるから。そしてまた、笑顔を咲かせればいい。その笑顔に僕は癒されて、助けられる。もっと頑張ろうと思える。人の関わりはそうやって巡っていくのですよ。そうでしょう。」
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 抱きしめる腕にあがらう力はもう、無かった。
   鶯が、からかうように鳴いている。
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撮影:関健一
文:YUKO

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夢の中で、私は歩いている。
向こうから人が来て、笑顔で会釈をされる。
通り過ぎたところでふと思う。あれは誰だったかしら?
確かにお会いしたことがある人なのに思い出せない。
振り向くと、もうそこには誰もいない。
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この夢のパターンはいつも同じ。
翌朝、仕事に行くと言われるのだ。
「◯◯さん、亡くなりましたよ。」

長い闘病で浮腫んだり、拘縮したり、麻痺したり、痩せ細ったり。
その人が御元気なときはどんなだったろうか。
そう思ったとき気がつくのだ。
昨夜見たあの笑顔は◯◯さんではなかったか。

ああ、ご挨拶に来てくれたんだ。
もう、痛くないね。苦しくないね。自由に歩けるね。
空のベットに手を合わせ、少しだけ微笑む。

長い看護師生活。そんなことは稀ではない。
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       *      *      *
この文章に関しては、創作ではなく、ドキュメンタリーです。

撮影:高取 寛
文 :YUKO

「赤いべべの女はいかん」
 子供の頃から、何度となく聞いた爺さまの昔語り。
「雪ん日に、うさぎの目のこつか色のべべの女に会うたら、近寄っちゃならん。そいは、神さんに差し上げた娘じゃからの。ことに、男が話しかけでもしたら神さんが暴れるからの。」
 大人になってからは、昔話のほとんどのように、法螺半分、脅し半分。赤い着物など買えぬ貧しい村の暮らしの中で、それでも少しでも綺麗なものを欲しがる女たちへの戒め話だ。そう思っていた。

 俺は貧しい村の暮らしに愛想を尽かし、村々をまわって女衒の真似事をしていた。その日は久々に生まれた村に可愛らしい娘を求めて帰ってきたのだった。美しい女なら、吉原の道中で見慣れている。俺が買っていく女は、大店の鳳凰立ちとはいかなくても、小店ではそれなりに重宝がってくれた。童も4つ5つになればものになるかどうかわかってくるようになった。地虫扱いも、里で食うや食わずの暮らしをしているよりはまし。そう思っていた頃、その女に出会った。いや、見た。
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 最初その女の姿を見たときは、獣の血だまりだと思った。あんな急な峰に、人の姿があるなど考えもできなかったから。ところがその影は、ゆらゆらと動いて俺の目を裏切った。目をこらせばそれは赤い着物の女で、積もった雪に転げてころころと遊んだり、雪玉でお手玉をしたり、ひとしきりの時を過ごして、早い夕日に溶けた。文字通り、輝き、透き通って溶けていった。
 女の消えたあとも、俺は阿呆のように立ちすくんで長いことそこを動くことができなかった。
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 あれからずっとあの峰を見ている。
 あの峰を見ているために女衒を辞めた。故郷の山で罠を仕掛けて獣をとったり、山草を集めたりして食いつないでいる。雪の日に、罠にかかった獣が流した血が、雪を朱に染めていたりすると、もしやの予感に心踊るが、あのあと赤いべべの女を見ることはない。

 いつか、年をとり、あの爺さまが語っていた囲炉裏に座って、子供らに話すのだろうか。
「赤いべべの女に近寄っちゃならぬ」
 俺の心を奪った女。俺がこんなにも狂おしく待ち続ける女。その女に、他の誰かが話しかけるなんて、許しちゃならんのだ。今は墓の下の、あの爺さまもそうだったのだろうか。狂おしくあの女を見たことがあったのだろうか・・・・
墓の下の爺さまに聞くことはできないが、爺さまが生きているうちに一度酒を酌み交わしてみたかったなと、今は思う。
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(了)

撮影:関健一
文:優子

関健一さんのHPはこちら「着物でポートレート」
ちょうど今、グループ展をやっていらっしゃいます。
「ながれ」アップル写真展
2017.2.1(水)〜2.6(月) 12時〜20時 (最終日 18時終了)
場所 Space Jing 
〒150-0001 渋谷区 神宮前 5-45-5 中澤ビルB1F Tel 03-3409-2744
 地下鉄表参道駅A1、B2出
口より徒歩5分

 

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