2011年11月29日
花譚
造り手と花身と番人
名の無い造り手とジェーン。
元々は何処かの世界の普通の人間。
身分違いの恋の末に古く朽ち果てた教会で心中した、そんなありきたりな話。
男は女のこめかみを、女は男の心臓を、それぞれ拳銃で撃った。
女はそのまま即死したけど、男は打ち所が悪くてギリギリ生きてた。
どちらにしろそのまま放っておけば死んでいたんだろうけど、そこに『影』の猫が現れて取引を申し出る。
劇の脚本家だった男は、「誰もが心を動かされるような劇をもっと沢山作りたかった」という願いを叶えてもらう事と引き換えに、その『影』の猫に体と魂の全てを明け渡す。
が、渡す瞬間、男は「でも、共に死ぬと誓った彼女を一人死なすのは嫌だ」と思ってしまう。
その願いを聞いた『影』の猫は、それならば、と彼女の死体を花身にする事にする。(自分自身の好奇心を満たすためでもある)
アザルヤ・アスター(@狗也さん)に弟子入りした『影』はそこで技術を得ると、今や己のものとなった「素晴らしい劇を作る」という願いの為に、己の書いた脚本にピッタリの花身を作りはじめる。
『影』の猫の正体は教会に何年も何十年も何百年も溜まった『誰かの願い』の集合体が意思を持ったもの。
信心深い信者達の敬謙で利己的な願いや望み、欲望が溜まりに溜まってさらに長い年月を経て人格を持った存在。
その存在はとても概念的。よって実体は無く、それ自身が『影』であるため影は無い。猫の姿もその昔死に掛けていた猫の体を貰ったもの。(その時の対価としての猫の望みは「まだ死にたくない」)
名前という概念は無いので、名の無い脚本家は名の無いまま。名前が欲しいとも思わないし、また必要もしていない。
ジェーンの名前も、ジェーンが勝手に名乗っているもの。
「私は私の名前が思い出せないの。だから、ジェーンでいいわ」
ジェーンが名の無い脚本家の名前を聞かれたときに答えるのは「ジョン」。
「どうしても名前というもので呼びたいなら、そう呼べばいいと思うわ」
ジョン・ドゥとジェーン・ドゥ。様は名無しの権兵衛、もしくは身元不明の死体。
名の無い脚本家は名前に興味や執着が無いのでなんと呼ばれても答える。
ジェーンの断片的に残った生前の記憶の中に、彼女自身の名前や恋人だった彼の名前は無い。
番人の話
元居た世界での生まれは孤児。名前はあったのだろうが、呼ぶ人がだれも居なかったので自分でも忘れてしまった。
両親は無く、子供一人で生きるために犯罪に手を染め、それ以外に生きる術を知らずに育って来た。ありきたりで、よくある話。
最終的には掴まり、処刑されることになった。
その処刑方法は、泥水が溜まった深い井戸の中に落とされるというもの。腰の辺りまで迫った泥水のせいで座ることも体を横たえることもできず、食料も水もない、光は遮断されて届かない、そんな狭い井戸の中で死を待つこと。
段々と身体が衰弱していき、もうダメだ、と意識を手放す、その時にどこかの造り手が救いの手を差し伸べる。
「お前はもう死にたいか? それとも生きたいか?」
彼の出した答えは「死にたくない」。
気がついたときには見たことも無い庭に一人横たわっていた。
周りに造り手の姿は無く、いつの間にか頭からは羊と山羊のような角が四本生え、尻からは尾が生えていた。
最初は混乱したものの、他の番人や花身の手助けもあり、どうにか番人の仕事を覚えて今にいたる。
名前は、初めて聞かれたときに自分の角を見て思いついた。「オウィス(羊)・カプリーナ(山羊)」。
「手前は前の自分の名前は忘れちまったんでねぃ、今度から解りやすい名前を名乗らせてもらいやすぜぃ」
羊のような、山羊のような角、というだけで、本当の所はわからない。もしかしたら悪魔が混ぜられたのかもしれないけど、本人にもよくわからない。
井戸に死ぬまで閉じ込められかけてたので、狭くて暗い場所が苦手。
だれか、コイツを変えた造り手さんいないかな…… 脚本家じゃない気がするんだ……
yulik06o at 21:55│Comments(0)│TrackBack(0)│