7ab3661b.jpgクリント・イーストウッド監督の硫黄島プロジェクト第二弾作品は、日本からみた硫黄島の戦いを戦地で指揮を取る中将や兵士たちの自らが考える正義と国への大義とに苦悶する姿を丁寧に描いたヒューマンストーリーの一面を色濃く滲ませています。

『硫黄島からの手紙』“LETTERS FROM IWO JIMA”(06アメリカ)

<監督>クリント・イーストウッド
<出演>渡辺謙、二宮和也、伊原剛志、加瀬亮、中村獅童他

第二次世界大戦で、日本の戦況が悪化していた1944年6月、陸軍中将の栗林忠道(渡辺謙)が、本土防衛の最後の砦ともいうべき硫黄島へ指揮官として赴任する。アメリカ留学経験を持ち、アメリカの兵力や実力を知り尽くした栗林は、着任早々理不尽な体罰を受けていた西郷(二宮和也)らを助け、長期戦に持ち込むべく地下壕を掘るようにと命令を下す。

戦地でも家族のことを気遣い、決して血気立つこともなく冷静に戦いへと備える栗林に対して腰抜けと避難的な見方をする将校たちもいたが、ロサンゼルスオリンピックの乗馬で金メダルを獲得するという華々しい経歴を持つ西中佐(伊原剛志)は栗林の良き友であり、理解者であった。

いよいよ米軍の硫黄島上陸がはじまった。圧倒的な兵力の前に、硫黄島の中心であるすり鉢山が陥落。死んでも離れるなという信念のもとに自決を命じられる兵士たちの中で、栗林から生き残ったものは北へ合流せよとの命令を聞いていた西郷は生きて残っている兵士たちと合流する道を選ぶのだったが・・・

ちょうど本作が上映される前にニュースステーションに渡辺謙さんがゲスト出演し、本作で演じた栗林中将のことや、実際に硫黄島を訪れたときに涙が止まらなかったという話、また高校生と戦争についてのディスカッションを行ったりしているなどの話を聞きました。
それまであまりピンとこなかった硫黄島の戦いと栗林中将という人物に興味を惹かれ、本作の鑑賞に至ったのですが、イーストウッド監督が意図したことが、とてもダイレクトに伝わってきました。

今まで見た戦争映画とは違う何か、多分それはただ単に戦争の悲劇を描いているだけではなく、そこで戦っている兵士たちが昔のお国に忠誠を誓い、天皇陛下のために死ねるなら本望であると思っている人だけではなく、生きて帰ることを切に望んでいたり、戦争というもの自体に疑問を抱いていたり、敵だからと無条件に殺す対象として見ているわけではないなど、かなり個々の人物の気持ちに焦点を当てた描かれ方をしているのが、非常に好感持てました。

戦争映画ですから、戦闘シーンが非常に多いのは致し方ないところですが、全体的なトーンといい、残虐性を誇張するよりも、戦争というものがそれぞれの人生に落とした影や、その中で闘う兵士たちが故郷の家族のことを大事に思うことが唯一の安らぎであり、死ぬとわかって赴任している彼らの支えであったことなどが、ところどころで書かれる手紙などからも伝わってきます。

日本軍の中でも、敵を見たら闘わずにはおれない血の気の多そうな将校や、武士の時代のようにもはやこれまでとなれば潔い死を強制する将校もいました。ここで死にたくないという思いも自決の命令の前でかき消され、自爆して散っていく兵士たち。味方同士の殺し合いではないものの、生き続けることを許されなかった彼ら。戦争の敵は敵だけにあらず、戦争をすることそのものがみんなを傷つけ、大勢の人の命を奪うことを改めて実感しました。

栗林中将を演じる渡辺謙さん、あまり軍人らしくないちょっと漂々としたキャラクターが意外ながら楽しかったし、最後まで家族を残してきた部下を気遣う優しさにはぐっときましたね。そして自分の家族を思い手紙を書くシーンなどは、謙さん曰く「家族へ手紙を書くことで、父親としての自分を見出し安らげる時となっていた」と。
あと、密かに(笑)ジャニーズ軍団の中では一番お気に入りの二宮くん。最後まで生きて家族の元へ帰る望みを捨てず、栗林中将の意を本当に理解していた数少ない兵士でもあった西郷役は個人的にはとても気に入っています。
そして、捕虜の米兵が持っていた母親からの手紙を読んで、今まで自分が持っていた米兵へのイメージが根底からゆらいだ元憲兵隊清水役の加瀬亮。
本作では一番センシティブなキャラクターだったかもしれません。
タイトルどおり、様々な手紙が当時の兵士たちや家族たちの気持ちをリアルに今の時代に届けてくれます。そしてそれらの思いは敵味方関係なく共通であるということも。

硫黄島プロジェクトの第一作『父親たちの星条旗』を見ていないので、比較してという見方はできないのですが、誠意と畏敬の念を込めて本作を作ってくれたクリント・イーストウッド監督にありがとうと言いたいですね。